バッハ『ミサ曲 ト長調 BWV236』徹底解説:成立・構成・演奏のポイント
概要
BWV236 ミサ曲 ト長調は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが手がけた4つの「Kyrie–Gloria」形式のミサ(いわゆる〈ミサ短奏〉)の一つに数えられます。これらは通例、BWV233–236としてまとめられ、ラテン語のKyrie(主よ、憐れみたまえ)とGloria(栄光)だけを扱う簡潔なミサ曲群です。BWV236はその中でも明るいト長調を採り、短めながらバッハならではの対位法的技巧と器楽的彩りが凝縮されています。
成立と史的背景
これらのKyrie–Gloriaミサは一般にライプツィヒ時代の作品群と考えられており、おおむね1730年代後半に成立した可能性が高いとされます。バッハは当時、ルター派の礼拝における典礼音楽としてラテン語ミサの短縮版を用いる伝統に応じ、既存のカンタータの素材を転用(パロディ技法)してミサ曲を編成しました。こうした転用はバッハにとって効率的かつ表現上合理的な手法であり、多くの作品で確認されます。
編成と楽曲構成(概説)
BWV236は短いミサであるため、典型的には合唱(SATB)と独唱者4声、弦楽合奏と通奏低音を基礎に、場面に応じてオーボエやトランペットなどの木管・金管が加わることがあります。曲はKyrieとGloriaの二大部分に分かれ、それぞれが複数の小楽節(合唱、重唱、独唱アリア、レチタティーヴォ風の場面など)で構成されます。
音楽的特徴と様式
BWV236に限らずバッハのミサ短奏では、以下のような特色が挙げられます。
- 緊密で凝縮された構成:長大なミサ文を扱わず、KyrieとGloriaの核心部分に焦点を当てることで、要点を明快に提示します。
- 対位法とコラール的な書法:短い中にもフーガ的な処理や模倣が効果的に使われ、テキストの神学的重みを音楽的に補強します。
- 器楽色の活用:ト長調という明るい調性を活かし、ブラスやオーボエのファンファーレ的な用法、弦のリズミカルな伴奏等で喜びや荘厳さを表現します。
- パロディ技法による素材転用:既存カンタータの合唱・アリアをラテン語テキストへ適合させることで、音楽的な完成度を保ちながら典礼用途へ転用しています。
作曲技法(パロディと対位)
バッハは当初からミサやカンタータを別個に書き下すだけでなく、過去に完成させた楽曲の動機や構造を巧みに再利用することが多く、BWV236もその例外ではありません。パロディ時にはテキストのアクセントや語尾の長短に合わせて音節割りを調整し、必要に応じて伴奏形や対位を修正します。また、合唱部では短いフーガ主題を用いるなど、対位法によるテクスチャの厚みが特徴的です。
演奏上のポイント(歴史的奏法と現代的解釈)
近年の歴史的演奏(HIP: Historically Informed Performance)運動により、BWV236の演奏にも古楽器や小編成、低めの調(A=415Hz等)を用いる実践が広まりました。演奏上の主要ポイントは以下の通りです。
- フォルムと対話を意識したレジスター配分:合唱と独唱、楽器群のバランスを明確にし、テクストの聴取性を確保する。
- 装飾と発音:独唱アリアや短いレチタティーヴォでは適切な装飾を用いるが、宗教曲としての慎みや語感を損なわない範囲に留める。
- テンポ設定:短い楽節の連続を一貫したドラマとして捉え、緩急の配分を通して典礼的厳粛さと音楽的魅力を両立させる。
- 通奏低音の実践:チェンバロ、オルガン、リュート系楽器などを組み合わせることで和声の支持を豊かにする。
歴史的受容と今日の位置づけ
BWV236を含むKyrie–Gloriaミサは、バッハの大作ミサ(たとえばミサ曲ロ短調 BWV232)に比べるとレパートリーとしての露出は控えめですが、短く演奏時間も抑えられることから礼拝やコンサートのプログラムに組み込みやすい作品群として現在は広く親しまれています。楽曲の質や技術的完成度の高さから、バッハ研究においても作曲技法やパロディ研究の重要な資料とされています。
おすすめの聴きどころ
- Kyrie部:高密度な対位法と合唱の統率感に注目。短い楽節の中でテキストの求心性が音楽的に表現されます。
- Gloria部:祝祭性と躍動感が高く、オーケストレーションやリズムの鮮やかさを楽しめます。ソロと合唱のコントラストに耳を澄ませてください。
- パロディの痕跡:既存のカンタータ素材がどのようにラテン語テキストへ適合されているかを聴き比べると、バッハの改作手法が理解しやすくなります。
代表的な録音(参照用)
BWV236を含むKyrie–Gloriaミサの録音は多数あります。歴史的演奏に基づく解釈としては、以下のような指揮者/アンサンブルの演奏がよく取り上げられます(例示であり網羅ではありません)。
- 小編成・古楽器演奏:マサアキ・スズキ(Bach Collegium Japan)
- 英米系歴史的解釈:ジョン・エリオット・ガーディナー(English Baroque Soloists / Monteverdi Choir)
- コリードゥル的アプローチ:フィリップ・ヘレヴェッヘ(La Chapelle Royale / Collegium Vocale Gent)
結び
BWV236 ミサ曲 ト長調は、その短さゆえに一見簡潔ですが、内部にはバッハの対位法的技巧、器楽的色彩、そして典礼音楽としての深い配慮が凝縮されています。礼拝での機能性とコンサート作品としての芸術性が両立する点で、バッハの宗教曲の別の側面を知るうえで非常に示唆に富む作品です。学術的にも演奏的にも興味深い題材を多く含むため、鑑賞や研究の入り口としても最適でしょう。
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参考文献
- Bach-Cantatas.com: BWV236 Missa in G major
- IMSLP: Missa, BWV 236 (score)
- Wikipedia: Kyrie–Gloria masses (Bach)
- Bach Digital (検索・資料閲覧用ポータル)
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