バッハ:BWV570 幻想曲 ハ長調 — 真作性をめぐる論争と演奏・分析ガイド

概要

BWV 570「幻想曲 ハ長調」は、オルガンのための短い幻想曲として伝えられている曲です。伝統的にはヨハン・ゼバスティアン・バッハに帰されてきましたが、近代の研究では真作性(=バッハ本人の作かどうか)を疑問視する見解も多く、作曲者をめぐる議論が続いている作品です。演奏時間は概ね3〜5分程度と短く、コンサートの前奏・間奏・アンコール的に演奏されることが多いレパートリーです。

伝承史と作曲者問題

BWV(Bach-Werke-Verzeichnis)番号が付与されている点から作品リストには含まれていますが、現存する写本資料や初期の版に関する状況がはっきりしていないため、真作性に関する慎重な議論が行われています。18世紀以降の写譜資料においてバッハの名前が付されている例もある一方で、作風や技術的な特徴が他の明確なバッハ作品と比べて異なる、あるいは簡潔すぎるといった指摘があり、弟子や周辺の作曲家によるもの、あるいは模倣・編曲の可能性が取りざたされます。

音楽学界では、作品の様式的分析・写本伝承の検証・手稿の筆跡比較などを通じて真作性を検討しますが、BWV 570については決定的な結論が出ていません。したがって、「バッハ作」として扱う資料もあれば「真作疑問」と注記する資料もあります。一般の聴衆向けにはバッハ作品として紹介されることも多い点に留意してください(出典参照)。

楽曲の構成と音楽的特徴

BWV 570は長大なフーガや大規模なソナタ形式をとる作品ではなく、即興的な幻想曲(ファンタジア)に典型的な自由な展開を持ちます。主な特徴は以下の通りです。

  • 導入的な自由韻律風の部分:装飾的なパッセージや分散和音による序章があり、即興風の語り口が聴かれる。
  • より明確な模倣や対位法的要素:幻想曲の中で短い模倣的フレーズや声部の応答が現れ、単なる即興にとどまらない構成的意図がうかがえる。
  • 和声の進行:典型的なバロック和声進行を踏襲しつつ、簡潔で明快な調性感(ハ長調)を保つため、きわめて分かりやすい和声の流れが特徴。
  • ペダル使用の程度:作品はオルガン用に書かれているが、ペダルの使用は過度ではなく、手鍵盤中心のテクスチャも多い。これが「小型のオルガンでも演奏可能」と受け取られる要因の一つ。

形式的には明確な三部形式というより、断片的なエピソードが連なる自由な構造であり、バッハ本人の長大なオルガン作品群(例えばトッカータや大フーガ)と比べると簡潔で短い作品です。この点が真作性を疑う材料として挙げられることがあります。

和声・対位法の分析(概説)

細部の対位法的処理は決して単純ではなく、復帰動機や転調の配置により聴き手に統一感を与えています。和声進行はバロック期の典型的な機能和声的動き(属和音の導入、属調へ向かう経過、終止形)を踏襲しますが、装飾と連続する分散和音が即興的な印象を強めます。対位法の技巧はバッハの成熟期の深い対位法とは一線を画すものの、コラージュ的に対位的要素を取り入れている点で興味深い作品です。

演奏上の留意点と音色・登録(レジストレーション)

BWV 570は編成がコンパクトなため、歴史的奏法(ヒストリカル・パフォーマンス)と現代の大規模パイプオルガンのいずれでも異なる魅力を出せます。実際の演奏では以下の点が参考になります。

  • レジストレーション:小型・中型のプランジャー的音色(プリンシパル 8'、フロート 4' など)を基調に、装飾的なパッセージではリード系を抑え、透明感を意識するのが一般的。大オルガンで演奏する場合は、音色が濁らないよう上部マニュアル主体でまとめると良い。
  • テンポ設定:即興的な導入部分はやや自由なルバートを用いても良いが、全体の統一感を失わない程度に抑える。中間の模倣的箇所はリズムを明確にして対位線を浮かび上がらせる。
  • タッチとフレージング:手鍵盤中心のテクスチャが多いため、アーティキュレーション(レガート/ノンレガート)で声部を区別し、主要旋律線を明確にすることが鍵となる。
  • ペダルの使い方:補強的に用いるのが基本。原典の写本が複数ある場合、ペダル譜が付されていない版もあるため、奏者は歴史的実践と会場の楽器の特性を考慮して判断する。

版と録音状況、レパートリー的位置づけ

BWV 570は教材的・演奏会用の小品として編集された近代版も多数あり、オルガン作品集にしばしば収録されます。学術的な校訂譜では真作性の注記が付されることが多く、演奏者は版の選択時に注釈を確認するのが望まれます。

録音面では、いくつかの著名なオルガニストのアルバムに収録されていますが、作品が短く扱いやすいことから、映像・音源の多様なプログラムに登場します。歴史的演奏慣習に基づく演奏と近代オルガンによる演奏とで表情が大きく異なるため、複数の録音を聴き比べると作品の多面性がよくわかります。

作品の魅力と今日的意義

BWV 570の魅力は、その簡潔さと直接的な表現力にあります。長大な技巧よりも、色彩感と即興的な語り口で聴き手の注意を惹きつけるため、入門的な「バッハ・オルガン作品」としても位置づけられます。また、真作性の問題を含めて作曲史や写本研究の題材とすることができ、演奏のみならず音楽学的にも関心を引く作品です。

おすすめの聴き方・学び方

  • 版を比較する:近代版の校訂や原典写本の注記を比較すると、ペダル表記や装飾の差異から演奏上の選択肢が見えてくる。
  • 複数録音を聴き比べる:ヒストリカル奏法とモダン奏法の違いを聴き分け、レジストレーションやアーティキュレーションの効果を比較する。
  • 同時代のオルガン曲と文脈化する:バッハ周辺のオルガン小品やファンタジア類と合わせて聴くと、作風の類似点・相違点が明瞭になる。

まとめ

BWV 570「幻想曲 ハ長調」は短く印象的なオルガン小品であり、真作性をめぐる議論を抱えつつも、演奏・聴取の両面で魅力あるレパートリーです。楽曲そのものは直接的な表現と即興的な性格を持ち、歴史的楽器・現代楽器それぞれの特色を生かす演奏が可能です。作品の背景や版の差異を理解すると、より深い鑑賞と演奏の幅が広がります。

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参考文献