バッハ:BWV 585 トリオ(ハ短調)──構造・演奏・歴史を深掘りする

はじめに — BWV 585とは何か

BWV 585 はJ.S.バッハに帰属される「トリオ」と呼ばれるオルガン作品の一つとして目録に載る作品です。一般に「トリオ」とは、オルガン曲の場合、右手・左手・ペダル(足鍵盤)という三声の独立した線のやりとりによって作られる小品を指します。BWV 585 はハ短調(C minor)の調性を持つ作品として演奏・録音のレパートリーに含まれており、作品番号(BWV)の表記から識別されます。

成立と帰属(由来と議論)

BWV 585 の成立年代やバッハ本人による作曲かどうかについては、研究者の間で慎重な検討が続いています。バッハ作とされてきた多くの小品には、弟子や同時代の作曲家による模倣・作曲が混在して伝わる例があるため、楽譜資料(写本や原典)に基づく帰属の検討が重要です。現在のカタログ上は BWV 585 として整理されているものの、写譜の系譜や筆跡、和声・対位法の様式などから、作曲年代の特定や作者の確定には慎重さが求められます。

楽曲の編成と演奏上の位置づけ

オルガンのトリオ作品は、二つの手鍵盤(両手でふたつの独立した旋律)と足鍵盤(ペダル)という三声体制を前提とします。演奏上は、右手(主旋律)、左手(対旋律または和声的支持)、ペダル(低声・対位的独立)という役割分担がなされます。BWV 585 もこの伝統に従い、三声の独立性と同時に緊密な対位法的結合を示します。

様式と対位法の特徴

BWV 585 に見られる音楽語法は、バロック時代のドイツ・オルガン音楽の一般的要素を色濃く反映します。具体的には:

  • 三声の独立した旋律線が、対位法的に組み合わされること。
  • 短いモティーフの反復と発展(シーケンス)を用いて音楽を推進する手法。
  • 和声的な進行に対する厳格な配慮(転回の回避、流れる様な通過和音、短い属調偏移)
  • 装飾音(トリルやインタリード的短い装飾)の節度ある使用—声部ごとの独立性を損なわない程度にとどめられる傾向。

これらはバッハの対位法的手法と共通する点が多く、作品の緻密さと簡潔さが同居する性格を生みます。

形式と聴取のポイント

トリオ作品は多くの場合短い単一楽章、あるいは速→遅→速の三部構成を持つことがあります。BWV 585 の演奏を深く楽しむための聴取ポイントは以下の通りです。

  • 各声部の独立性に注目する:旋律がどのように受け渡されるか、短いモティーフがどの声部で反復されるかを追うと構造が見えてきます。
  • 和声の推移を追う:短いシーケンスや進行でどのように緊張と解決が生み出されるかを確認します。
  • 装飾と表情:バロック的装飾は過度に華美にするのではなく、対位法の明瞭性を妨げない範囲で用いることが望まれます。

演奏実践(レジストレーションとタッチ)

オルガンでの演奏においては、レジストレーション(パイプの組合せ)とタッチ(鍵盤の扱い)が音楽表現を左右します。一般的なガイドラインは次のとおりです。

  • 右手(主旋律):フルート系やトランペット的でない、明晰な8′や4′の音色を用いる。独立した旋律を前に出す。
  • 左手(対旋律):柔らかめの8′や混合で支え、右手と明確に差をつける。
  • ペダル:8′または16′のダブルレジスターで低域を支える。対位的に独立する箇所ではペダル音を明瞭に出す。
  • 音量配分:三声のバランスを重視し、音色のコントラストはあるが音量差は大きくしない。

歴史的オルガンとモダンオルガンでは音色の作り方が異なるため、曲の性格に応じて柔軟に選択することが重要です。

解釈の諸問題:テンポと表情

トリオは対位法的明瞭性が命です。テンポは速すぎると声部の輪郭が失われ、遅すぎると音楽の推進力が損なわれます。したがって、穏やかで均衡の取れたテンポが好まれる傾向にあります。装飾やルバート(自由なテンポ変化)は最小限に留め、フレージングは音符の論理的つながりに基づいて行うことが推奨されます。

版と校訂、入手可能な楽譜

BWV 585 を演奏・研究する際は、信頼できる校訂版を使用することが肝要です。現代の標準的な校訂や出版社(Bärenreiter、Breitkopf & Härtel など)から出版された楽譜には、写譜系譜や校訂ノートが付されており、原典比較が可能です。オンラインでは IMSLP 等で現代版や写本のファクシミリにアクセスできる場合がありますが、版により音符や装飾の取り扱いが異なるため、複数版の比較が望まれます。

主要な録音と演奏家(手掛かり)

バッハのオルガン作品を録音した多くの名演奏家がこのレパートリーを取り上げています。代表的な演奏家として、Helmut Walcha、Marie-Claire Alain、Ton Koopman、そして近年の歴史奏法系の演奏家らの録音が参考になります。録音を聴き比べることで、レジストレーションやテンポ、装飾の扱いの多様性を学べます。

学術的観点からの価値

BWV 585 のような小規模なトリオ作品は、バッハ研究やバロック対位法の教育において重要な教材となります。短い楽曲の中に凝縮された対位技法、和声処理、声部間のバランス感覚は、作曲技法の理解や演奏の基礎力向上に直結します。また、帰属や写譜の問題は、史料学的な検討課題としても興味深いテーマです。

まとめ:BWV 585 を聴き・弾くために

BWV 585 は、短いながらも対位法的緻密さと音楽的魅力を備えたトリオ作品です。演奏者は三声の均衡と独立性を保ちつつ、和声進行と動機の展開を明確に示すことが求められます。聴き手は声部の受け渡しや短いモティーフの変容に注目すると、作品の構造美と表現の深さをより楽しめるでしょう。

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参考文献