バッハ BWV767 パルティータ『おお、汝正しくて善なる神よ』 — 深層解説と演奏・聴取の手引き

導入:BWV 767とは何か

BWV 767「おお、汝正しくて善なる神よ(O Gott, du frommer Gott)」によるパルティータは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが讃美歌旋律を素材として展開したオルガン作品群の一編です。バッハはルター派典礼の中で用いられる讃美歌を多様な技巧と表現で再構築し、教会音楽としての機能を保持しつつ、器楽芸術としての高度な完成度を示しました。本稿では、作品の歴史的背景・素材となった讃美歌の系譜・音楽構造の分析・演奏上の留意点・代表的な版と録音・そしてこの曲がバッハのオルガン音楽において果たす位置づけについて、できる限り正確に掘り下げます。

歴史的背景と成立について

バッハのオルガン作品は長期間にわたって書かれ、幼少期からライプツィヒ時代まで作品群に含まれます。BWV 767 の確かな成立年は判明していませんが、音楽学的研究では、バッハが教会礼拝用に数多くのコラール(讃美歌旋律)による前奏曲・パルティータを手がけていた時期、特にヴィッテンベルクやライプツィヒでの職務に関連すると考えられています。楽譜資料は写本資料や初期版を通じて伝わっており、近代の校訂によって広く利用可能になっています(詳細は参考文献参照)。

讃美歌旋律「おお、汝正しくて善なる神よ」の来歴

「O Gott, du frommer Gott(ドイツ語原題)」に相当する日本語題は諸説ありますが、ここでは「おお、汝正しくて善なる神よ」と表記します。この旋律はルター派の伝統的なコラール・ストックに端を発し、宗教改革以降のプロテスタント礼拝で広く歌われたメロディを母体とします。讃美歌の作者(歌詞家)や旋律の作曲者については作品ごとに異なるため、必ずしもバッハ当人が作曲したわけではなく、既存の旋律を素材に変奏を施す形が基本です。

楽曲の形式と音楽的特徴

「コラール・パルティータ」とは、一定のコラール旋律(cantus firmus)を主題として、多数の変奏(パルティータ)を連ねる形式です。バッハにおけるそれらは、単なる装飾にとどまらず、対位法的発展、リズム変化、手鍵盤と足鍵盤の巧みな分担、さらにはトーンカラー(レジストレーション)による色彩的な造形を伴います。

  • 旋律の扱い:主題(コラール旋律)は曲の基盤として明確に提示されることが多く、原旋律を上声に置く場合や低声に配して対位的に展開する場合が見られます。
  • 対位法と和声:バッハはコラールの各節を和声的に支えるだけでなく、対位法的素材として嚙み合わせ、フーガ的要素や模倣句を挿入します。
  • 変奏技法:装飾的なパッセージ、トリオ風の章、和声的な変形、通奏低音的ペダルを用いた章など、多彩な変奏技法が用いられます。
  • 楽器的考察:オルガンという楽器の特性上、音色(レジスター)やディナミクスの幅はパイプ構成に依存します。バッハはしばしばマニュアルとペダルを対話させることで、合唱的効果や独立した声部感を作り出しました。

BWV 767 でもこれらの特徴が見られ、旋律の提示とそれに続く変奏群により、祈祷的な内省と技巧的な表現が絡み合います。

具体的な聴きどころ(構造的観点)

BWV 767 を聴く際の注目点を挙げます。

  • 冒頭のコラール提示:旋律がどの声部に現れるかをまず確認してください。主題が明瞭に提示される箇所は、バッハがその瞬間に聴衆の注意を集中させたい箇所です。
  • 声部の独立性:手鍵盤二段と足鍵盤の間で主題や対位的素材がどのように分配されるか、また声部ごとのリズム感の違いに注意を払ってください。
  • テクスチュアル・コントラスト:装飾的で流動的なパッセージと、堅固な和声進行やペダルの持続音(ペダルポイント)との対比が作品の表情を決定づけます。
  • 終結部の処理:バッハはしばしば最終変奏で総括的な和声や力強いファンファーレ風の終結を用います。作品の宗教的メッセージがここで集約されると解釈できます。

演奏上の実践的アドバイス

演奏者にとってのポイントをまとめます。

  • レジストレーション(音色選択):礼拝用(教会)での演奏では、旋律線を際立たせる温かみのあるマニュアルと、対位法を支える明瞭なストップの組み合わせが有効です。古楽志向の演奏では当時のパイプオルガンのストップ配置や温度、調律(平均律以外)を考慮するのが望ましいでしょう。
  • テンポ設定:コラールの性格(祈祷的/荘重/行進的)に応じたテンポを選びます。変奏部ごとにテンポ感を微妙に変えることで、各変奏の性格を際立たせられます。
  • アーティキュレーションと装飾:バッハの時代の演奏慣習に即した非レガートや短めのノンレガート、装飾音の扱いを検討してください。ただしモダンなオルガンや録音では楽曲の歌い回しを優先する選択もあります。
  • ペダル技術:独立した足鍵盤の役割を明確にするため、ペダルの発音と持続感をコントロールすることが重要です。ペダルポイントがある場合はその持続が和声の基盤を支えます。

演奏史と代表的な録音・版

BWV 767 はバッハのオルガン作品の中でも演奏機会が比較的多い曲の一つです。歴史的な鍵盤奏法の復興に伴い、古楽器(歴史的オルガン)での録音が増えています。代表的な演奏者としては、トーマス・ヴィルス(Thomas WIlls / historically informed performers)、グスタフ・レオンハルト(Gustav Leonhardt)、ジェームズ・キビー(James Kibbie)などの録音が知られています(邦訳の解説書や全集解説を参照してください)。 また、現代の大型コンサートオルガンでの演奏も行われ、楽器ごとの色合いの違いを聴き比べることがこの曲の楽しみの一つです。

楽曲の宗教的・芸術的意義

コラール・パルティータは礼拝内で聴かれる宗教音楽でありつつ、バッハの写実的・哲学的な音楽観を反映する作品群でもあります。BWV 767 においても、祈祷的なテクスト(原讃美歌の歌詞)と音楽的表現が相互作用し、聴き手に精神的な深さを与えます。旋律の変奏を通じて、信仰告白の各側面(悔い改め、救済、信仰の確信など)が音楽的に示唆され得る点は、宗教音楽としての大きな価値です。

校訂版と楽譜入手の留意点

BWV 767 の楽譜は、現代の校訂版が複数存在します。原典に忠実な校訂(批判校訂)を基に演奏の解釈を組み立てることをおすすめします。特に右手・左手・足鍵盤の分離や装飾の有無、原写本の読み替えなどについては校訂ごとに差異があるため、演奏前に比較検討することが重要です。代表的な入手先としては国際楽譜ライブラリー(IMSLP)や学術的な批判校訂を出版している出版社の版が挙げられます(下記参考文献参照)。

まとめ:BWV 767 を聴く、あるいは演奏するために

BWV 767 はバッハのコラール・パルティータとして、宗教的深みと器楽的技巧が融合した作品です。演奏者は楽器の特性と時代の演奏慣習を踏まえつつ、旋律の歌い回しと対位法的構造を同時に表現することが求められます。聴き手は、旋律と変奏の往還を追いながら、各変奏ごとに変化する色彩と精神性に注目すると、新たな発見が得られるでしょう。

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参考文献