バッハ BWV 917 幻想曲ト短調(Fantasia in G minor)──構造・演奏・聴きどころを深掘り

作品概要

BWV 917 は「幻想曲(Fantasia)ト短調」として伝わる、鍵盤楽曲の一つです。バッハの鍵盤作品群の中でも即興性と深い表現力を併せ持つ小品群に位置づけられ、チェンバロやクラヴィコード、オルガン、そして現代のピアノによる演奏が行われてきました。作曲年代の確定は難しく、正確な自筆譜の成立年は不詳ですが、全体としてはバッハが即興的形式と対位法的技法を試みた時期の産物と見るのが妥当です(BWV 項目は Schmieder のカタログに基づき分類されています)。

楽曲の外見的特徴とスコア上の表記

楽曲は短いながら多彩な表情を持ち、ト短調という調性が示す「緊張感」と「内省」の両側面を併せ持ちます。スコア上では即興的な走句、装飾音、跳躍、ポリフォニー的な重なりが頻出し、単一の繰り返し主題に基づくソナタ形式ではなく、幻想曲特有の自由な展開を示します。バッハの鍵盤幻想曲には、しばしば自由風の導入部と、続いて対位法的・模倣的な部分が現れることがあり、BWV 917 もそのような構成的要素を含んでいます。

楽曲の構造と和声的特徴

BWV 917 の特徴は、以下の点にまとめられます。

  • 導入的な自由のパート:冒頭は即興風の動機が現れ、急速なアルペッジョや跳躍、装飾的なフレーズで聴き手の注意を引きます。
  • 対位法的展開:自由部に続いて、模倣や対位法的な展開が現れ、声部間の掛け合いが強調されます。短いスケールやシーケンスを用いて緊張が高まります。
  • 調性的回帰と解決:ト短調の枠組みのもと、短調特有の和声的転換(短調の副種的和音や長調へ一時的に移るトニックの対比など)が用いられ、最終的に作品の主調へ回帰する形で終結することが多いです。

和声面では、バッハらしい機能和声の扱いに即して、属和音や転調の連鎖、装飾的な増七や減五の外し方が聴きどころになります。また、左手の低音ラインが時に事実上のバス・リトマス(歩行低音)として作用し、感情の起伏を支えます。

演奏・解釈のポイント

BWV 917 を演奏する際の具体的なポイントは次のとおりです。

  • 楽器選択:当時はチェンバロやクラヴィコードが想定されますが、現代ではピアノ演奏も一般的です。チェンバロやクラヴィコードでは音の減衰やペダルがない特性を活かした明晰なアーティキュレーションが求められます。ピアノではサステインを控えめにし、フレーズ毎の色彩変化を注意深く作ることが重要です。
  • テンポと呼吸:幻想曲らしい即興性を損なわない範囲で、自然な呼吸とフレージングを与えるテンポ設定が肝要です。過剰な均質化は避け、句ごとのテンポ微差(rubato/tempo flexibility)で語りかけるように導きます。
  • 装飾とインバルシオン:バッハ時代の装飾法(トリル、モルデント、ターン等)を文脈に応じて用います。楽譜にない装飾を挿入する際は、和声と対位法のバランスを崩さないよう注意します。
  • 声部のバランス:対位法的な箇所では声部ごとの独立性を保ちつつ、旋律を明確にすること。低声部の伴奏的役割をただ支えるだけでなく、対話的に描くと曲の立体感が出ます。

歴史的背景と版の扱い

BWV(Bach-Werke-Verzeichnis)は Wolfgang Schmieder によるバッハ作品目録で、作品番号はこのカタログに基づいています。BWV 917 の原典譜や写譜は複数の写本や後世の写しとして現存することが多く、真筆譜の有無や成立年については諸説あります。出版史としては19〜20世紀にかけての諸版、そして20世紀後半から現代にかけての Urtext(批判校訂版、例:Henle、Bärenreiter 等)が、演奏・研究の基盤を提供しています。

聴きどころの細部分析

具体的な聴きどころを幾つか挙げると、まずは冒頭の動機です。この動機は短いが強い個性を持ち、以降の展開の「核」として働きます。さらに中間部に現れるシーケンスや転調の連鎖では、バッハが短時間で多彩な表情を描き分ける手腕が見て取れます。緩やかな部分では和声の解決を待つようなサスペンションが用いられ、そこに挿入される急速なパッセージは一種の呼吸のように機能します。

また、ト短調という調性を最大限に利用した対比も興味深い点です。短調で示される陰翳と、短い長調側への志向は、バッハの他の鍵盤幻想曲と共通する表現語法で、聴き手に瞬間的な安堵と再度の緊張を体感させます。

録音・演奏史に見る演釈の多様性

BWV 917 に限らずバッハの鍵盤曲は、演奏する楽器や時代により解釈が大きく異なります。歴史的奏法復興運動以降はチェンバロやクラヴィコードによる演奏が増え、音色やアーティキュレーションを歴史的に還元する試みが盛んです。一方で近代ピアノによる演奏はダイナミクスの幅を活かして叙情性を強調することが多く、どちらも曲の別側面を浮かび上がらせます。優れた演奏は、どの楽器でもバッハ独特の構築感と即興性の両立を実現しています。

学習・練習のための実践アドバイス

学習者が BWV 917 を取り組む際の実践的なアドバイス:

  • 声部ごとの独立練習:対位法的な箇所はまず各声部を別々に歌うように弾き、旋律線と内声の役割を明確にする。
  • 小節単位のテンポ感:冒頭の即興的フレーズは小節単位の短いフレーズに分け、ペダリングや指遣いを慎重に定める。
  • 装飾の検討:時代的な装飾を参考に、楽曲の陰影を増す位置に限定して装飾を加える。多すぎる装飾は全体を曖昧にするので注意。
  • 録音して客観的に聴く:テンポの揺れ、声部のバランス、フレージングの自然さを確認するため録音は有効です。

まとめ

BWV 917 は短いながらもバッハの鍵盤音楽における即興性と対位法の融合を示す興味深い作品です。演奏の際は楽器の性格を活かしつつ、声部の独立性と全体構成のバランスを意識することが重要です。チェンバロ的な明晰さを基調にするか、ピアノ的な色彩感を重視するかで表情は大きく変わるため、演奏者は自己の解釈を明確に持つことが求められます。

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参考文献