バッハ BWV946(フーガ ハ長調)を深掘り:作曲史・形式・演奏のポイントとおすすめ楽譜・音源

はじめに

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(J.S. バッハ)の作品目録であるBWV(Bach-Werke-Verzeichnis)の中に記載されるBWV946は、ハ長調のフーガ(Prelude and Fugue との連作で紹介されることもある楽曲)として知られています。本コラムでは、BWV946の成立事情や楽曲構造、対位法的な特徴、演奏・解釈上の留意点、参考となる版や音源をできるだけ厳密に整理して紹介します。

歴史的背景と史料

BWV番号はBach-Werke-Verzeichnis(1960年にバッハ研究者のハンス=グスタフ・シュミーダーが編纂)による分類ですが、個々の作品については自筆譜が現存するもの、写譜のみで伝わるもの、さらには真作性が議論されているものと様々です。BWV946についても、作曲年や成立事情は必ずしも明確ではなく、現存する写譜群や後世の写本によって伝承されている部分が大きいとされます。

学術文献や楽譜目録では、BWV946は鍵盤用の前奏曲とフーガの組み合わせとして扱われることが多く、バッハの鍵盤音楽の文脈(練習曲集や小品集、あるいは大規模なフーガ研究の中)で位置づけられます。具体的な成立年を示す一次資料が乏しいため、作風や対位法の手法からおおよその時期を推定する研究もあります。

楽曲形式と対位法的特徴

フーガという形式自体は、主題(subject)とそれに対する応答(answer)、随伴主題(countersubject)、エピソード(episode)を基礎に展開されます。BWV946でも次のような古典的なバッハ流の手法が認められます。

  • 明快な主題提示:主題は短い動機のまとまりで始まり、調性の確立に寄与する特徴的な輪郭を持ちます。ハ長調という明るい調性は、主題の音域やリズムによって活気ある性格を与えます。
  • 応答の扱い:属調(G)や属の関係を用いた応答がなされ、転調や全音域を利用した声部の入れ替わりが行われます。
  • 随伴主題と対位法:主題に対して随伴主題が固定的に用いられる場合、複雑な対位法的絡み(逆行・反行・拡大・縮小など)を通じて多彩なテクスチャが生まれます。
  • エピソードでの発展技法:エピソード部分ではシーケンス(順次進行)や模倣、短い断片の断続的使用を通じて次の主題再現への橋渡しが行われます。
  • ストレッタやペダル音の利用:主題の重ね合わせ(ストレッタ)や持続低音(ペダルポイント)を用いてクライマックスを作るのがバッハの常套手段です。

これらはいずれもバッハのフーガに共通する技法であり、BWV946でも対位法の精密さと表現的な展開が魅力となっています。

和声と調性計画

ハ長調のフーガは平易で明快な始まりを持ちながら、内部では短調領域や近親調への回帰・脱線を含むことが多いです。BWV946でも同様に、主調(C)と属調・下属調への行き来、並進や借用和音の使用によって感情の起伏がつけられます。バッハは調性の拡張を対位法的な動きと結び付け、主題の断片を転調のきっかけとして用いることが頻繁にあります。

演奏上のポイント(鍵盤楽器)

演奏法は使用楽器(チェンバロ、フォルテピアノ、モダンピアノ)で大きく変わりますが、以下はいずれの楽器にも共通する留意点です。

  • 声部鮮明化:各声部の独立性を明確に示すこと。とくに主題出現時は必ず主題を歌わせる。
  • 音量バランス:バロック期の鍵盤楽器は持続音の長さが限られるため、アーティキュレーションと指使いで線を作る。
  • 装飾とアゴーギク:装飾は写譜に示される以外は作為的に付けすぎない。拍の輪郭を崩さずに微細なテンポルバートで表情をつける。
  • テンポ設定:主題の明瞭さを失わない速度を優先。過度に速くすると対位の明瞭性が損なわれる。
  • レガートと分離:声部によってレガートとノンレガートを使い分け、フーガの構造を聴衆に伝える。

版と校訂の選び方

Bach作品を演奏・研究する際は信頼できるウルテクスト版(Urtext)を選ぶことが重要です。BWV作品群では以下の出版社が一般に信頼されています。

  • Henle(ハインレ)ウルテクスト:原典校訂に基づく明晰な楽譜。
  • Bärenreiter(ベーレンライター):学術的注記が充実。
  • 旧来の版(古い校訂)は参考にしつつも、直接の原典写本と照合することが望ましい。

校訂報告や注釈を確認し、複数版を横断的に見ることで作曲者の意図に近づくことができます。

代表的な解釈と録音(参考)

BWV946の録音は、全集録音や断章を含む鍵盤曲集の一部として複数の演奏家によって取り上げられています。チェンバロ演奏では歴史的奏法を重視した解釈、ピアノ演奏ではダイナミクスとフレーズ表現を前面に出す解釈が見られます。演奏を聴く際は次の点に注目すると良いでしょう。

  • 主題の提示方法(フレージング、強弱)
  • 声部間のバランスと対話性(特に中声の扱い)
  • エピソードでのテンポ感と次の主題導入への自然な移行

学術的な論点と研究のフロンティア

BWV946に関しては、写譜の伝承経路、真作性の検討、他作品との主題的・様式的な比較などが研究対象となり得ます。また、演奏史の観点から使用楽器の変遷(チェンバロ→フォルテピアノ→モダンピアノ)による解釈の違いを追う研究も興味深い分野です。デジタル化された写譜(Bach Digitalなど)と比較校訂を行うことで、新たな発見が期待できます。

実践アドバイス:学習者から演奏家まで

学習や初見の段階では、まず主題を左手・右手で独立して弾けるようにすること。次に短いフレーズをループして正確なスタッカートやレガートを身につけ、声部の独立性を養います。テンポを上げるのは最後の段階とし、音楽的な構造が体に入ってから行ってください。録音を聴いて、他演奏家がどのようにフレーズを作っているかを研究することも有益です。

結び

BWV946(ハ長調のフーガ)は、バッハのフーガ技法を学ぶ上で魅力的な素材を多く含んでいます。自筆譜が残らないなど史料的な不確定要素がある場合でも、楽曲自体の対位法的美しさや表現の幅広さは変わりません。演奏・研究の両面で取り組む価値のある作品です。

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参考文献