バッハ BWV1027a:ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ徹底解説 — 版と演奏のポイント

序論:BWV1027とは何か、そして「a」表記の意味

J.S.バッハの〈ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ〉は、一般にBWV 1027–1029の3曲が知られています。これらはヴィオラ・ダ・ガンバ(以下ガンバ)とチェンバロを対等に扱った室内楽作品として特に注目され、チェンバロが単なる通奏低音ではなくオブリガート(協奏的)な役割を担う点でバロックの室内楽様式の重要な例です。

作品番号に付く「a」は、しばしば別写本や異版、あるいは写譜上の変奏・改訂を示す場合に用いられます。BWV1027aは、BWV1027(G長調)の原稿伝承や写本の差異を示す版表記の一つで、楽譜上の小さな音形の違い、装飾音の記載差、和声の微妙な書換え等を含むことがあります。本稿ではBWV1027を基軸に、版の相違(≒1027aに見られる諸相違)や演奏・解釈上のポイントを中心に掘り下げます。

歴史的背景と成立の位置づけ

バッハのガンバとチェンバロのソナタ群は、王侯貴族や上流階級のサロンでの室内演奏を意図した可能性が高く、ガンバという楽器の衰退期にあっても多くの演奏機会が残されていました。作曲の正確な年次については諸説ありますが、これらのソナタはバッハの中期以降の室内楽的成熟を示す作品群の一部と考えられます。

注目すべきは、ガンバとチェンバロの二重的な対話性です。チェンバロは低音の和声基盤を支えるだけでなく、旋律的素材や対位法的な応答を提示します。結果として、ガンバは独奏的な歌唱性とともにチェンバロとの掛け合いを主導する役割を果たします。

写本・版の伝承(1027aの意義)

バッハ作品の多くは自筆譜と写本が混在して伝わっており、後世の写譜者による挿入や改訂、あるいは演奏慣習に基づく装飾の追記が見られます。BWV1027aという表記は、そのような史料学的差異を表すために用いられることがあります。具体的には:

  • 音形の細かな差(例えば、チェンバロの伴奏fig.の省略・付加)
  • 装飾記号やオルナメントの有無
  • 和声連結や転回形の相違

これらの差異は、演奏解釈に直結します。原典主義の立場では自筆譜や最も信頼できる写本に基づく校訂版(例:Neue Bach-Ausgabe)を優先しますが、各版に記された差は当時の実際の演奏慣習や地域差を反映している可能性もあるため、演奏家は複数版を照合して最適解を探るのがよいでしょう。

楽曲構成と特徴(概説)

BWV1027(一般にG長調とされる)は、典型的に4楽章から成る「遅速遅速(Lento/Allegro/Adagio/Allegro)」の構成をとることが多く、交互に置かれた緩徐楽章と速い楽章が対比を成します。緩徐楽章ではガンバの歌うような旋律線とチェンバロの繊細な和声付けが際立ち、速楽章では対位法的な展開やリズミックなエネルギーが前面に出ます。

和声感覚はバロック後期のバッハらしい豊かな転調を含み、チェンバロの左手(通奏低音域)と右手(上声部的役割)の使い分けが曲の色彩を決定します。ガンバの音域や表現力を活かすため、旋律は頻繁に装飾やスラーで彩られ、ダイナミクスは演奏者による細やかな強弱処理に委ねられます。

演奏上の具体的ポイント

歴史的演奏法(HIP)を志向する場合、以下の点が重要になります。

  • 楽器・弦・弓:ガンバはガット弦、バロック・ボウを用いると演奏具合が当時の色彩に近づきます。チェンバロは音色の持続が限られるため、左手の和声付けと右手の旋律的応答のバランスが演奏の鍵です。
  • 調律とテンポ:A=415Hz前後の低めの調律が歴史的実践に合致します。テンポは楽曲の対話性(ガンバとチェンバロの掛け合い)を損なわない範囲で柔軟に設定します。
  • 装飾と即興:バッハ期の装飾は楽譜に必ずしも詳細に書かれていない場合が多く、演奏家は化粧音(mordent, trill等)の用法や位置を音楽的に判断します。1027a等の写本に装飾が記されている場合、参考にする価値があります。
  • チェンバロの扱い:チェンバロ奏者はベースだけでなく独立した旋律線を持つことを自覚し、時にガンバに応答するようなアンサンブル感を重視します。ペダルは用いないが、手の重めのタッチや左右のバランス操作で色彩を作ります。

校訂版と版選択の実務

演奏目的に応じて版を使い分けることが推奨されます。現代のウルテキストや学術校訂(Neue Bach-Ausgabe、各出版社のUrtext)を基準にしつつ、写本に見られる有益な異同(1027aに由来するもの)を参照することで、より多面的な解釈が可能になります。校訂には誤写や後注の混入があり得るため、信頼できる楽譜注記を確認することが不可欠です。

代表的な録音と解釈の違い(入門ガイド)

BWV1027系作品は多くの録音が存在し、演奏のアプローチは大きく二分されます。歴史的楽器によるクッキン(ガンバ)とチェンバロの小編成演奏では自然な歌唱と柔らかな表現が重視され、モダン楽器での録音ではより強い輪郭と響きの対比が前面に出る傾向があります。参考となる演奏家としてはジョルディ・サヴァール、ヴィランド・クイッケン、パオロ・パンドルフォ、フィリップ・ピエロなど、古楽を基軸に活動するガンバ奏者の録音が多数あります。

受容と今日的意義

BWV1027とその異版(1027aを含む)は、バッハの室内楽における対話的構造と即興的装飾の実践を学ぶうえで重要です。現代の演奏家・研究者はこれらの作品を通じて、バッハがチェンバロに与えた協働的地位や、器楽対話の多様な可能性を読み解いています。また、古楽復興によりガンバの音色や表現が再評価され、こうしたソナタ群はコンサート・レパートリーとしても根付いています。

実践的アドバイス(演奏者とライター向け)

演奏者は校訂版を複数照合し、装飾やアーティキュレーションについて自分の音楽的判断を持ちましょう。ライターや紹介文を書く際には、版ごとの差異、使用楽器、録音年・奏者がどのように解釈しているかを示すと読者にとって有益です。

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参考文献