未濾過酒の魅力と楽しみ方：製法・味わい・保存・ペアリング完全ガイド
エバープレイ編集部未濾過酒とは何か — 基本の定義と種類
「未濾過酒（むろかしゅ）」とは、製造過程で濾過（ろ過）処理を施さない、あるいは活性炭などによる精密な濾過を行わない日本酒を指す呼び名です。一般消費者に馴染みのある「にごり酒（濁り酒）」は酵母や醪（もろみ）由来の固形分を残した白濁タイプを指しますが、未濾過酒は必ずしも白濁するとは限らず、見た目は澄んでいても活性炭濾過をしていないため香味が濃く残るタイプもあります。
日本酒の表示には「無濾過」「無濾過生原酒」「無濾過吟醸」などの表記があり、濾過の有無に加え、火入れ（加熱殺菌）や加水、加熱前後の処理状況でさらに細かく分類されます。たとえば「無濾過生原酒」は濾過をしておらず、火入れもしていない（生）で、加水もしていない（原酒）ものを指します。
どの工程で濾過が行われるか — 酒造りの流れと濾過の役割
日本酒造りにおける主な工程は、精米→洗米→蒸米→麹づくり→仕込み→発酵→搾り→濾過→火入れ→貯蔵・瓶詰めです。濾過は通常「搾り（板や袋で圧力をかけて酒と酒粕を分離）」のあとに行われます。濾過の目的は、酒に含まれる微粒子や酵母、色や香りの成分を取り除いて見た目や香味の均一化・安定化を図ることです。
濾過方法は大別して粗濾過（大きな粒子を取り除く）、細濾過、活性炭処理（色や余分な香りを吸着させる）などがあり、未濾過酒はこのうち精密な濾過・活性炭処理を省くことで、原酒らしい味の厚みや個性を残します。
未濾過酒とにごり酒・生酒との違い
- 未濾過酒：活性炭などによる精密濾過を行わない酒。澄んでいる場合もあるが香味が濃い。
- にごり酒：粗い濾過で固形分（にごり成分）を意図的に残した白濁酒。食事と合わせやすいテクスチャー感が特徴。
- 生酒：火入れ（加熱殺菌）をしていない酒。フレッシュな香りと酵母由来の成分が強く出る。未濾過生原酒というラベルは未濾過かつ無加熱の製品を指す。
味わいの特徴と化学的背景
未濾過酒の魅力は「厚みのある香味」と「複雑な余韻」にあります。濾過を行わないことで以下の成分が酒中に残りやすく、風味に反映されます。
- アミノ酸：旨味の元。濾過で一部が除去されることがあり、未濾過は旨味が強い。
- タンパク質・微粒子：口当たりやボディ感に寄与。
- 酵母代謝産物（エステル類、アルコール、アルデヒド類）：果実香や複雑な香りの要因。
- 脂肪酸や揮発成分：香りの立ち方や幅、余韻に影響。
また、活性炭濾過は色素や過剰な香気成分を吸着するため、これを行わない未濾過は色がやや黄味を帯びたり山の麓のような原始的な香りが残ることがあります。つまり「香りの良さ」と「味の強さ」が両立しやすい反面、扱い方や料理との相性を選ぶ可能性があります。
テイスティングのコツ — 未濾過酒の香味を引き出す方法
- 温度帯を試す：冷や（5〜10℃）では清涼感とフルーティーさが立ち、常温（15〜20℃）では旨味とコクが増し、ぬる燗（40〜45℃）にするとまろやかさと旨味がさらに膨らみます。未濾過酒は温度変化で表情が大きく変わるため、複数温度で試すのがおすすめです。
- グラス選び：口径の広いワイングラスだと香りが開きやすく、盃やお猪口だと落ち着いた旨味を楽しめます。
- 香りのチェック：グラスを軽く回してから嗅ぎ、エステル系（リンゴやバナナのニュアンス）、乳酸系、麹由来の香りを探してみてください。
食事とのペアリング — 未濾過酒を活かす組合せ
未濾過酒の濃厚さと複雑さは、味の濃い料理や発酵食品とよく合います。具体例：
- 和食：煮物、味噌料理、焼き魚の脂の濃さに負けない旨味が相性良し。
- 発酵食品：チーズやキムチ、ぬか漬けなどの強い発酵風味と調和します。
- 洋食：クリーム系パスタやバターソテーなどのこってり系に対して、口の中をリセットする力が働くことがあります。
- スパイス料理：カレーやエスニック料理も、甘味と酸味のバランスが取れれば悪くありません。
保存・取り扱いの注意点
未濾過酒は香味成分がたくさん残っているため、酸化や温度変化の影響を受けやすいです。以下の点に注意してください。
- 保管温度：冷暗所、できれば冷蔵で保存するのが安全。特に「無濾過生」の表記があるものは要冷蔵が基本です。
- 開栓後：酸化が進みやすいので、できれば数日〜1週間以内に飲み切るのが望ましい。瓶内の空気量が増えるほど香味は変化します。
- 光・振動：光による劣化や振動で香味が変わることがあるので避ける。
ラベルの見方と購入時のチェックポイント
購入時にはラベルの表記を確認しましょう。特に注目すべき語句は以下の通りです。
- 「無濾過」「無濾過生原酒」「無濾過原酒」：濾過を行っていないことを示す。生（火入れ無し）かどうかも確認。
- 「生」や「生酒」：火入れをしていないため要冷蔵の可能性が高い。
- アルコール度数：無加水・原酒はアルコール度数が高め（15〜20％台）になることがあるため、飲み方に注意。
- 製造年月日や要冷蔵表記：鮮度管理の目安になります。
よくある誤解と安全性について
未濾過＝危険、という誤解がありますが、一般に製造工程で衛生管理やアルコール含有により病原性微生物のリスクは低く、安全に飲める製品が流通しています。重要なのは「火入れ（加熱殺菌）」の有無と保管条件です。生酒タイプで要冷蔵の表示があるものは、常温長期保存は避けてください。
酒蔵の工夫と最近のトレンド
近年、地酒ブームやクラフト志向の高まりとともに未濾過酒を意図的に造る蔵が増えています。理由は原料の個性を活かしたい、蔵元が目指す味わいを可能な限り瓶詰めに反映したいという点です。また生原酒や低温貯蔵と組み合わせることで、よりフレッシュな個性を楽しめる商品が増えています。一方で、安定供給や品質のばらつき対策として粗い濾過や短期間の熟成を行う蔵もあります。
おすすめの楽しみ方とまとめ
未濾過酒は「濾過で削られがちな旨味や香り」を楽しむカテゴリーです。購入したらまずは冷やして香りを確かめ、次に常温やぬる燗で旨味の変化を追うと、その幅広い表情を堪能できます。食事と合わせる際は、味の濃さや発酵食品との相性を軸にペアリングを考えると失敗が少ないでしょう。
最後に、ラベル表記（無濾過、生、原酒など）と保管条件を確認し、開栓後は早めに楽しむことをおすすめします。未濾過酒は確かに個性が強く好みが分かれますが、合う料理や温度を見つければ、新しい酒の魅力に出会えるはずです。
参考文献
Sake Times（英語の日本酒情報、未濾過やにごり酒の記事が豊富）
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