セゾン(Saison)徹底解説:歴史・製法・味わい・おすすめ銘柄とペアリング
セゾンとは何か:概要
セゾン(Saison)はベルギー発祥の「ファームハウスエール(農家のエール)」の代表的スタイルのひとつで、英語ではSaisonと表記されます。もともとは冬に仕込んで夏に農作業者が飲むために用意された、飲みやすくて保存性の高いビールでした。現在ではクラフトビールのムーブメントとともに世界中で愛されるスタイルとなり、伝統的な軽やかなタイプから、高発酵・スパイシー・酸味のある現代的な解釈まで幅広いバリエーションが存在します。
歴史と起源:どこから来たのか
セゾンの起源はベルギー南部、ウォロン地方(特にエノー州やアントワープ周辺を含む地域)の農家にあります。18〜19世紀にかけて、農家や季節労働者(saisonniers)のために冬に製造されたビールが夏に消費される習慣があり、これが「セゾン(季節)」という名前の由来とされています。
当初のセゾンは比較的低アルコール(当時は3〜4%程度)で、栄養補給かつ喉越しの良い飲み物として作られました。19世紀後半から20世紀にかけての商業化により、スタイルは地域・醸造所ごとに変化。現代のセゾン像を確立した代表的な醸造所としてはBrasserie Dupont(デュポン)があり、同社の「Saison Dupont」がセゾンの国際的な基準と見なされることが多いです。
原材料の特徴
セゾンの原材料は比較的シンプルですが、組み合わせや比率によって多様な表情を生みます。
- モルト:ベースはペールモルトやピルスナーモルトが中心。小麦や少量のカラーモルトを加え、軽やかさやホワイトニング(泡の持ち)を出す場合もあります。
- ホップ:苦味は控えめ〜中程度。伝統的にはフローラルでスパイシーなヨーロッパ系ホップ(例:Styrian Golding等)を使うことが多いですが、現代では多様なホップが使われます。
- 酵母:セゾンの個性の大半は酵母が担います。ベルギー酵母由来の高いエステル(果実香)やフェノール(スパイシー)生成と、アタックの高い発酵能力でドライな仕上がりになるのが特徴です。また、ブレタノマイセス(Brett)や乳酸菌を用いるサワー寄りの変種も存在します。
- 水:硬度の違いで仕上がりの輪郭が変わりますが、特に硬水を必須とするスタイルではありません。
醸造プロセスと技術的ポイント
セゾン醸造の要点は発酵管理と酵母の扱いにあります。
- マッシング:比較的シンプルな単純糖化が多いが、低糖化・高発酵を狙って温度プロファイルを調整する場合がある。
- 糖化濃度(OG):伝統的には低〜中(1.040前後)が多いが、現代のクラフトセゾンは1.045〜1.065と幅がある。
- 発酵温度:酵母の発現するフレーバーを活かすため温度は高め(通常20〜30℃台)で行うことが多い。高温での発酵によりトロピカル・シトラス様のエステルやスパイシーなフェノールが出やすい。
- ピッチングレート:低めにして酵母にストレスを与え、より複雑な風味を引き出す手法を用いるブルワーもいる。
- 二次発酵・瓶内発酵:高い炭酸、軽快な泡立ちを得るために瓶内発酵で仕上げる例が多い。
味わいと香りのプロファイル
セゾンの典型的な特徴は以下の通りです。
- アロマ:柑橘やリンゴを思わせるエステル、白胡椒やクローブのようなフェノール、ハーブや土っぽさのある複雑さ。
- 味わい:麦芽の甘みは抑えめで、ドライでキレが良い。苦味は中程度までだが、ホップの香りが前面に出る場合もある。
- ボディ:中〜軽め。高めの発酵度で非常にドライに仕上がることが多い。
- 炭酸:高めで清涼感を生む。口当たりがシャープ。
スタイルのバリエーション
セゾンにはいくつかの派生があります。伝統的な“Farmhouse Saison”から、現代の“Modern Saison”、サワーセゾン、フルーツやスパイスを加えたバリエーションなど多岐にわたります。ブリュッセルやアルデンヌの小さな醸造所の個性が強く出るのも魅力の一つです。
飲み方・ペアリング
セゾンは食事との相性が非常に良く、料理の風味を引き立てることが多いです。
- 温度:6〜10℃程度のやや低めから冷やし気味で。香りを楽しみたい場合は冷やしすぎない。
- グラス:チューリップ型やベルギーグラスで香りを閉じ込めつつ立ち上るアロマを楽しむとよい。
- ペアリング例:シーフード(ムール貝、貝類)、サラダ、スパイシーなアジアン料理、ローストチキン、ヤギ乳チーズや山羊チーズなどの酸味のあるチーズ。
保存・熟成のポイント
多くのセゾンは比較的フレッシュな香味を楽しむタイプですが、アルコール度や発酵由来の複雑さによっては数年の熟成で別の表情を見せる銘柄もあります。瓶内二次発酵しているものは、保管の際は横にせず立てて保存することが一般的です(栓やラベルの指示に従ってください)。暗所で安定した温度が望ましいです。
ホームブルーイングでの注意点
家庭でセゾンを造る際の代表的な注意点は以下です。
- 酵母選び:セゾン酵母は種類(商用セゾン酵母、ベルギースタイル酵母、ブレタ混合など)によって風味が大きく変わるため、目的に合わせて選ぶ。
- 発酵管理:高温耐性のある酵母であっても温度管理を怠ると雑味が出る場合がある。段階的に温度を上げるプロファイルが有効。
- 清潔さ:高温発酵や長期熟成は感染リスクが高まるため、衛生管理を徹底する。
代表的な銘柄とブルワリー
セゾンを知る上で参考になる代表的な銘柄:
- Saison Dupont(Brasserie Dupont) — 現代セゾンの代表格として広く参照される存在。
- Fantôme(Brasserie Fantôme) — 小規模だが個性的なファームハウススタイルで知られる。
- いくつかのアメリカンブルワリーや日本のクラフトブルワリーも独自の解釈でセゾンを造っており、フルーツやスパイス、サワー酵母を取り入れた作品が多く見られます。
現代における位置づけとトレンド
クラフトビールの波でセゾンは再評価され、特に「素材」「酵母」「発酵プロファイル」を重視する醸造家に人気のスタイルです。近年は以下のようなトレンドが見られます。
- ミックス発酵(酸味やブレタの導入)によるサワー・セゾンの台頭。
- フルーツやハーブ、スパイスとのコラボレーションによる表現の拡張。
- 伝統的な農家スタイルの再現を試みる小規模ブルワリーの増加。
まとめ
セゾンはその自由度の高さと酵母の持つ複雑な風味により、ビール愛好家にも醸造家にも魅力的なスタイルです。伝統的な軽快で飲みやすいタイプから、現代的に再解釈された複雑なタイプまで、幅広い表現が可能であるため、一つのスタイル名でありながら多様な顔を持っています。初めての方はSaison Dupontのような定番から入り、徐々にサワー寄りやフルーツ入りなど幅を広げていくのがおすすめです。
参考文献
Saison (beer) — Wikipedia (English)
Brasserie Dupont — 公式サイト
Brewers Association — ビールスタイルガイド(トップページ、Saison関連情報)


