Citraホップ徹底ガイド:香り・使い方・レシピ活用法まで完全解説
はじめに — Citraとは何か
Citra(シトラ)はクラフトビール界で最も広く愛用されている香り系ホップのひとつです。名前が示す通り柑橘系の鮮烈な香りが特徴で、特にアメリカンIPAやNEIPA(ニューイングランドIPA)、ペールエールなどで中心的に用いられてきました。本稿ではCitraの起源、香りの構成、醸造での使い方、レシピ提案、保管・取り扱いの注意点、そして相性の良い食材やスタイルまで、実践的に深掘りして解説します。
起源と品種情報
Citraはホップ育種企業によって開発された品種で、育種番号としてはHBC-394という識別名が用いられることがあります。商標名としての「Citra®」は広く知られており、2000年代後半から商業的に流通するようになりました。もともとは香りの強さと独特のフルーティーさを目的に育種されたもので、多くのブルワリーが単一ホップ(シングルホップ)でのテストや主力ホップとして採用したことで一気に普及しました。
香りと風味のプロファイル
Citraの最大の魅力は鮮烈で多層的な香りです。一般的に以下のような香り・味わいが挙げられます。
- 柑橘:ライム、グレープフルーツ、レモンのような爽やかな柑橘感
- トロピカルフルーツ:マンゴー、パッションフルーツ、パパイヤを想起させる甘くジューシーな香り
- ベリーやライチのニュアンス:独特のフルーティーさを付与
- ハーバル/グラッシーな側面:若干の草っぽさやアーシー感が下支え
これらが組み合わさることで、甘さと酸味のバランスが良い華やかな香りが生まれます。香気成分としては各種モノテルペンやセスキテルペン(ミルセン、フムレン、カリオフィレンなど)が寄与しており、これらの比率によって柑橘系かトロピカル系かの印象が変わります。
化学的特徴(目安)
ホップの化学成分は生育条件や収穫年により変動しますが、Citraの目安としてはα酸が中〜高め(おおむね約11〜13%程度が一般的とされる)で、アロマバイアブルが豊富なためアロマ用途に非常に適しています。苦味付与を狙った初期添加(ボイルの前半)でも使用されますが、真価は後半添加・ホップバック・ドライホッピングで発揮されます。
醸造での使い方:タイミング別の効果
Citraは投入タイミングによって役割が大きく変わります。代表的な使い方と狙える効果は次の通りです。
- ボイル前半(60分〜30分):苦味の寄与を期待する場合に限定的に使用。ただし長時間煮沸すると揮発性香気成分が飛ぶため、香りは減退します。
- ボイル後半(15分〜5分):香りの基礎を残しつつ苦味をコントロールするのに有効。
- ホップバック/ホイールプール(whirlpool):高温での短時間接触により芳香成分を抽出し、クリーンで鮮烈な香りを付与します。特に66〜80℃帯でのホイールプールは香り成分を効果的に抽出できます。
- ドライホッピング:Citraの真価を最大限に引き出す方法。冷蔵下での短時間(48〜120時間程度)はフレッシュで鮮烈な香りを与えます。長期間(1週間以上)の接触は一部の香気の変化や雑味を招くことがあるため注意が必要です。
スタイル別の活用例
- アメリカンIPA/アメリカン・ペールエール:主役としてホップアロマを全面に出す設計。ドライホップを中心に複数回投入することでCitraのトロピカル&柑橘香を強調。
- NEIPA:果汁感を演出するためにCitraを大量に用いる。低トランスペアレンシー(濁り)と相性が良く、酵母由来のフルーティーさともよく馴染む。
- セッションIPA/フルーツビール:香り付けのアクセントに少量用いることで、軽やかな柑橘感を追加。
- ラガーやペールラガー:一般的には香りが繊細なため控えめな使用が基本。ただしスペシャルティラガーで爽やかさを出す用途として使われることもある。
レシピ例(概念)
ここではCitraを主体にしたシンプルなシングルホップIPAの例を示します(比率や数値は目安)。
- ベースモルト:ペールモルト 85%、クリスタル20〜40L 10%、小麦またはオーツ5%(ボディと口当たりのため)
- ホップ:
- ボイル60分:ごく少量のCitra(α酸を見てIBUを調整)
- ボイル15分:Citra(香りのベース)
- ホイールプール/Whirlpool(70℃ 15〜20分):多めのCitra
- ドライホップ(発酵後):大量のCitra(48〜96時間)
- 酵母:アメリカンAle系またはNEIPA向けにフルーティーな酵母
この組み立てにより、Citraの芳香を最大限に活かしたフルーティーで柑橘感の強いビールが得られます。
相性の良いホップ・原料・酵母
- ホップ:Centennial、Simcoe、Mosaic、Amarilloなどのアロマ系と相性が良い。特にMosaicとはトロピカル+ベリー感で相乗効果を生む。
- モルト:軽め〜中庸のカラメル感があるモルトと組み合わせると香りが生きる。ニュートラルなペールモルト主体でも問題なし。
- 酵母:クリーンな発酵プロファイルのアメリカン酵母、もしくはNEIPAに適した発酵でフルーティーさを足す酵母が好まれる。
取り扱いと保管のポイント
Citraに限らずホップは酸化に弱く、香りの保持が重要です。以下の点に注意してください。
- 冷凍保管:使用までの酸化を防ぐために真空包装や窒素置換されたパッケージで冷凍保存するのが標準的。
- 脱酸素パッケージ:酸素バリアのある包装を選ぶと香りの劣化を抑えられる。
- 粉砕や破砕は使用直前に:加工すると表面積が増え酸化が進むため、必要以上に前処理しない。
注意点・副作用(醸造上のリスク)
- ホップクリープ(Hop Creep):特にドライホップ後に微生物酵素が残糖を分解し、予期せぬ二次発酵(発泡や圧力上昇)を引き起こすケースが報告されています。冷蔵発酵や二次発酵の管理、発酵の十分な確認が重要です。
- 過度のドライホップ:長期間・大量にドライホップすると青臭さや葉のような雑味が出ることがあるため、接触時間と量のバランスをとること。
ペアリング(料理との相性)
Citraの柑橘・トロピカルな香りは、次のような料理と非常に相性が良いです。
- シーフード:グリルした白身魚やエビ、カルパッチョ
- アジアンフュージョン:スパイシーなタイ料理やベトナム料理の酸味と好相性
- シトラスを使った料理:レモンやライムを使った前菜やサラダ
まとめ:Citraを活かすための要点
- Citraは柑橘とトロピカルな芳香が強く、後半添加・ドライホップで真価を発揮する。
- 保存は冷凍・脱酸素が基本。長期保管では香りの劣化に注意。
- 相性の良いホップや酵母と組み合わせることで香りの幅を広げられる。
- ドライホップ時の接触時間や量、ホップクリープ対策は醸造管理上の重要ポイント。
参考文献
- Citra (hop) — Wikipedia
- Citra — Yakima Chief Hops(製品情報)
- Hop Breeding Company(育種企業の公式サイト)
- Brewers Association(醸造技術・参考資料)
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