第一転回(和声学):機能・記譜・実践的ボイシングまで徹底解説

第一転回とは

音楽理論における「第一転回」とは、三和音や四和音(7の和音)を構成する音のうち、第3音(長三度・短三度)を最低音(ベース)に置いた状態を指します。三和音を例にとれば、C(ド)-E(ミ)-G(ソ)の和音は、第一転回ではE(ミ)-G(ソ)-C(ド)という並びになり、ベースに和音の第3音が位置します。記譜や和声分析では、スラッシュ・コードで「C/E」や、通奏低音(figured bass)では「6」と表記されるのが一般的です。

記譜と表記法

第一転回を表す方法はいくつかあります。

  • 現代のコードシンボル:ルート名のあとにスラッシュでベース音を示す(例:C/E)。ポピュラー音楽やジャズでよく使われます。
  • 通奏低音(figured bass):三和音の第一転回は「6」で表されます。これはベースから見た上の音が3度と6度の関係にあるためです。
  • ローマ数字分析:和声機能を示す際にも、第一転回を明示するために小文字の付記や脚注を用いることがあります(例:I6)。

7の和音(四和音)の第一転回は、ベースに第3音が来る点は同じですが、figured bassでは通常「6/5」と表記されます(上から見た音程構成により、ベース上に5度と6度の音程が存在するため)。

第一転回の音響的特徴と機能

第一転回は根音がベースにないため、根音位置の和音に比べると安定感が弱く、曖昧さや和声的中立性を生みます。これにより以下のような用途で重宝されます。

  • 音の連結(スムーズなベース進行):ベース音の跳躍を避け、近接進行を可能にするため、和声の連結を自然にします。
  • 和音の機能を弱める、あるいは“延長”するため:第一転回は和声の機能(主和音・下属和音・属和音)を和らげ、代理や飾りとして用いることが多いです。
  • 装飾的・進行的役割:パッシングコード、ネイバーチョード、ペダル上の和音変化などで使用され、流動的なテクスチャを作ります。

ボイシングと倍音(doubling)の注意点

第一転回ではどの音を倍音(重奏)するかが音響的安定性に大きく影響します。通奏低音の慣習では、一般的に以下の点が推奨されています。

  • 根音の倍音:第一転回では根音(上声や内声でのCなど)を倍音することで、和音の安定感を補うことが多い。
  • 導音(leading tone)の扱い:和声的に重要な導音(例えばGメジャーのF#のような)は、第一転回でも通常倍音しないか、慎重に扱います。導音を不適切に倍音すると解決の方向感が失われることがあります。
  • 減三和音の第一転回:減三和音(例:7度上の音を含む和音)の第一転回では倍音を避けるべき音が増えるため、ボイシングには特に注意が必要です。

ただし、これらは様式による違いが大きく、バロック通奏低音、古典派和声、ロマン派の豊かな和声、ジャズ/ポップのボイシングではそれぞれ推奨が異なります。

和声進行と代表的用法(実例)

第一転回がよく現れる典型的な進行をいくつか挙げます。

  • パッシング・コードとして:I - I6 - Vなど、ベースラインが歩行する際の一時的な和音として。
  • ネイバー・コード(隣接和音):I - I6 - Iなど、隣接音で短く挿入される場合。
  • ペダル上の和音変化:ベースが踏み固められている間に上声で和音を変えるとき、第一転回は中間的な色合いを与える。
  • カデンツァルな用法:終止形に向かう過程で、第一転回を経由して解決することで、期待感や和声の柔らかさを演出する。

例えばCメジャーにおいて、I6(E-G-C)が介在することでベースが上行・下行する際に滑らかな接続が得られます。ポピュラー音楽では、ベース音を変えたいが和音の基本色を保ちたいときにスラッシュ・コード(C/E)が多用されます。

7の和音における第一転回

四和音(7の和音)を第一転回にすると、和音の第3音がベースに来るため、和音の緊張と機能が大きく変化します。figured bassでは「6/5」と表記され、解決は文脈に依存します。属7の第一転回(V6/5)は、通例として次のような解決をとることが多く、声部進行の約束事が存在します。

  • 導音は主音へ(解決)
  • 7度は通常下方へ解決する
  • 並進や逆進を避けるために、声部は可能な限り近接進行で動かす

第一転回の7の和音は、三和音の第一転回以上に不安定さを帯びるため、和声的機能を曖昧にしたいときや、緊張を段階的に解放したいときに効果的です。

歴史的・様式的視点

第一転回の使い方は時代と様式で変遷してきました。バロック期には通奏低音の記譜法と密接に結びつき、装飾的、進行的な役割が強調されました。古典派では機能和声の枠組みの中で第一転回が代理和音や平滑な連結として多用され、倍音の選択や声部進行の規則が明文化されました。ロマン派以降では、和声色彩の一要素としてより自由に用いられ、第一転回が和声の曖昧さや色彩的効果を生む手段として利用されます。現代音楽やジャズでは、第一転回は独立した響きの一形態として、ボイシングやテンションの管理に活用されます。

実践的な練習と分析のヒント

第一転回を確実に扱えるようになるための練習法をいくつか挙げます。

  • 簡単な三和音を順に第一転回にし、ベースを固定して上声を動かす練習(写譜と耳の訓練)。
  • 通奏低音読みの練習:figured bassで6を見たら即座に第一転回を想起する練習。
  • 既成の曲(バッハのコラール、ハイドン・モーツァルトの弦楽四重奏など)で第一転回がどのように用いられているかを分析する。特に倍音、声部の動き、機能的な置き換えに注目する。
  • ジャズ・ポピュラーのボイシング練習:スラッシュ・コードを使ってベースの変化に伴う和声的効果を耳で確認する。

分析するときは、第一転回が「機能を弱めるのか」「単に声部連結の便宜なのか」「色彩的効果なのか」を判断することが重要です。周辺の和声進行とベースラインを必ず照合しましょう。

まとめ

第一転回は、一見単純な和音変形に見えますが、和声的機能、音響的印象、声部の扱い、様式による慣習など多面的な要素が絡み合うテーマです。通奏低音の「6」やスラッシュ・コード表記、7の和音では「6/5」といった記譜法を理解した上で、具体的なレパートリー分析とボイシング練習を重ねることで、実践的な運用力が身につきます。

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参考文献