メル・トーメ完全ガイド:代表曲・名盤と聴きどころ(The Christmas Songの魅力)

プロフィール — メル・トーメとは

メルヴィン・ハワード・トーメ(Melvin Howard Tormé)、通称メル・トーメは、1925年生まれ、1999年没のアメリカのジャズ・ヴォーカリスト、作曲家、アレンジャー、ドラマーでもあったマルチな音楽家です。やわらかく艶のある低めの声質と表現力豊かなフレージングから「The Velvet Fog(ベルベット・フォッグ)」の愛称で親しまれ、スウィングからバラード、ゴスペル風の表現まで幅広いレパートリーを持ちました。

キャリアの概観

若くしてプロとして活動を開始し、1940年代には自身のヴォーカル・グループ「Mel-Tones」を率いてラジオやレコーディングで注目を浴びました。戦後はソロ歌手として本格的に活動を展開し、ジャズのスタンダードやポップスの名曲を洗練されたスタイルで歌うことで人気を高めました。作曲面では、ボブ・ウェルズ(Bob Wells)と共作した「The Christmas Song (Chestnuts Roasting on an Open Fire)」が広く知られ、クリスマスの定番曲として今も世界中で歌われ続けています。

歌唱スタイルと技術的魅力

  • 音色と柔らかさ:トーメの声は艶やかで温かく、安定した中低域の音色が特徴です。どの音域でも落ち着いた響きを保ち、聴き手に安心感を与えます。
  • フレージングの妙:歌詞の意味やグルーヴに応じてフレーズを伸縮させる巧みさがあり、ジャズ的な「間(ま)」の取り方や、語るような語尾の処理が非常に秀逸です。
  • スキャットとリズム感:スキャット歌唱やリズムの処理に長け、ドラマーとしてのバックグラウンドが生きたタイトなタイム感を持っています。ジャズの即興的要素も自然に取り入れられている点が魅力です。
  • 多才さ:歌だけでなく作編曲、ピアノ演奏や打楽器もこなし、音楽全体を俯瞰して表現できる点が、単なる「歌手」に留まらない深みを生み出しています。

作曲・編曲・他ジャンルでの活動

トーメは作曲家としても成果を残しており、前述の「The Christmas Song」はその代表例です。自身で編曲を手がけることもあり、アレンジャーとの共同作業を通じて凝ったハーモニーやブラス、デクテット(10人編成)などの編成を巧みに使い分けました。ジャズの即興性を残しつつも、聴衆に届きやすい歌メロや構成を大切にする姿勢が特徴です。

代表曲・名盤(押さえておきたい作品)

  • The Christmas Song (Chestnuts Roasting on an Open Fire) — トーメが共作したクリスマスの不朽の名作。彼自身の録音は数多く存在し、各録音で味わいが異なります。
  • Mel Tormé and the Marty Paich Dek-Tette — 1950年代にマーティ・ペイチ(Marty Paich)と組んだデクテット編成の名盤群は、洗練されたアレンジとトーメのヴォーカルが相互作用する好例です。
  • Comin' Home Baby! — R&Bやソウル寄りのリズム感を取り入れたヒット曲。トーメのレパートリーの幅広さとポップ性を示す代表作です。
  • 後年のライヴ/共演作(George Shearingらとの共演) — ピアニストとのデュオや共演アルバムで見せる緻密で暖かいアンサンブルは、晩年の魅力的な聴きどころです。

ライブでの魅力・ステージング

トーメはライブでも非常に聴き応えのあるパフォーマーでした。トークを交えつつ曲の解釈を変える自由さ、バンドとの呼吸、観客の雰囲気に応じた即興的アプローチなど、ライヴならではの「生」の魅力を遺憾なく発揮しました。落ち着いた立ち居振る舞いと確かな音楽的知性が、どんな編成でも高品位な時間を作り出します。

後世への影響と評価

トーメはヴォーカル・ジャズにおける表現の多様性を示した人物で、後のジャズ・シンガーたちに大きな影響を与えました。技巧的なスキャット、語るようなナレーション的フレージング、そしてポップスとジャズを行き来する柔軟性は、多くの歌手にとっての学びの対象です。また、作曲家としての功績も含め、ジャズの伝統と大衆音楽の橋渡しをした重要人物として評価されています。

聴きどころとおすすめの楽しみ方

  • まずは「The Christmas Song」を複数の録音で聴き比べ、フレージングやテンポ感の違いを味わってみてください。
  • マーティ・ペイチとのデクテット録音では、アレンジと声の配置が楽曲の魅力を引き立てるので、全曲通してアレンジの妙を楽しんでください。
  • ライブ盤やデュオ盤では、トーメの即興的なやり取りやマイクワーク(マイク・コントロール)など、歌の「技術」的側面がよく分かります。
  • 歌詞の語り口や英語の発音、フレーズの切り方に注目すると、ジャズ・ヴォーカルの教科書のような学びが得られます。

こんな人におすすめ

  • ジャズ・ヴォーカルの名唱をじっくり味わいたい人
  • 「歌手でありミュージシャン」であるアーティストの表現を学びたい音楽学生やアマチュア奏者
  • クリスマスの定番曲のルーツや、ポップとジャズの交差点に興味があるリスナー

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参考文献