レスター・ヤング(Prez)入門:代表曲・名盤と聴き方でわかるテナーの本質

イントロダクション — 「Prez」レスター・ヤングとは

レスター・ヤング(Lester Young, 1909–1959)は、アメリカのジャズ・テナーサクソフォーン奏者。ビリー・ホリデイが付けた愛称「Prez(プレズ=大統領)」で知られ、カウント・ベイシー楽団や小編成のセッションでの活躍を通じて、モダン・ジャズの語法に決定的な影響を与えました。軽やかで伸びやかな音色、独特の間(ま)と歌うようなフレージングは、以後のクール派〜モダンなサックス奏者たちに深く受け継がれています。

生涯の概略

ミズーリ州生まれ。10代から黒人音楽の盛んな地域で活動を始め、1930年代にカンザスシティ・ジャズの現場で腕を磨きます。1936年頃からカウント・ベイシー楽団に参加し、1930年代後半から1940年代前半にかけてのベイシー・バンドの重要なソロイストとして名を上げました。戦後は小編成での録音やリーダー作も多く残しますが、晩年は健康上の問題やアルコール依存などで演奏活動が制約され、1959年に亡くなりました。

サウンドと表現の特徴

  • 軽くて透き通るようなトーン:ホーキンス流の肉厚な音色とは対照的に、レスターは柔らかく薄めの音色で歌うように吹きます。これが「クール」な響きの源です。
  • “後ろ”に構えるリズム感:スイングの拍をわずかに遅らせたり、フレーズを余白(間)を生かして配置することで、独特の揺らぎと推進力を作ります。
  • 旋律志向のソロ作り:和声を細かく分解してコード・トーンを装飾するより、歌心あるメロディラインを紡ぐことを重視。反復モティーフや短いフレーズを変奏する形で一貫性のある語りをします。
  • 語彙(ボキャブラリー)の独自性:スラング的な語り口や「プレズ語」とも言える言い回しを演奏上でも持ち、演奏そのものが人格的な魅力を持っています。

主要な活動と代表的な共演

  • カウント・ベイシー楽団:1930年代後半〜1940年代前半、ベイシー楽団でのソロは彼を一躍有名にしました。バンドの軽快なスイングと相性が良く、多くの名演を残しました。
  • ビリー・ホリデイとの関係:ホリデイとは長年にわたる相互尊敬の関係があり、彼女が「Prez」と呼んだことはあまりにも有名。ホリデイの歌の伴奏で見せる繊細な応答性もレスターの魅力の一部です。
  • 小編成/ピアノ・トリオとの共演:晩年にかけてはオスカー・ピーターソンらと共演した録音など、小編成での柔軟な表現を追求しました。

代表曲・名盤(入門ガイドとおすすめ聴取順)

以下は入門者に特におすすめの曲・盤(※オリジナルLP名や編集盤のタイトルは出版本によって表記が異なる場合があります)。まずは代表的な“かたち”を掴むために選びました。

  • 「Lester Leaps In」 — ベイシー楽団との代表曲の一つ。チャーリー・クリスチャンやピアノのリズムと溶け合う軽快なテンションがわかりやすく聴けます。
  • ベイシー楽団でのコラボレーション曲群 — 1930年代末〜40年代のベイシー録音を通して、レスターのスウィング感とアンサンブルでの立ち居振る舞いを聴いてください。
  • 小編成/リーダー作(例:Pres and Sweets, The President Plays…) — 小規模編成での自由度の高いソロが楽しめます。歌うような長いフレーズや、息遣いまで感じられる録音が多数。
  • ビリー・ホリデイとの共演録音 — 彼女の歌に寄り添うアプローチはレスターの「伴奏者」としての美点を示します。
  • 編集盤・コンピレーション — 「Complete」や「Essential」的な編集盤で年代順に聴くと、スタイルの変遷と成熟がよくわかります。

レスターを深く聴くためのポイント(聴き方/学び方)

  • フレーズ単位で耳を傾ける:長いソロを一度に追うのではなく、2〜4小節のモティーフの繰り返しと変化に注目すると彼の構築術が見えます。
  • 「間」と音の抜き方を意識する:余白を活かすことでフレーズに重みと意味が生まれる。休符やブレスの場所に注目してください。
  • 他のテナー奏者と比較する:コールマン・ホーキンスの連続的で力強いアプローチと比べると、レスターの“歌うような線”が際立ちます。違いを聴き分けることで特徴が鮮明になります。
  • トランスクリプションを活用する:気に入ったソロを採譜して音程・リズム・アクセントを分析すると、フレーズ構築の技法がつかめます。

影響と遺産

レスターの影響は幅広く、1950年代以降のクール・ジャズや西海岸派、さらには多くのテナー奏者に受け継がれました。スタン・ゲッツ、ポール・デスモンド、ジェリー・マリガンなどの“クール系”奏者がレスターの線的で歌心あるフレージングを参照し、さらにモダンジャズ全体の「物語を語る」ソロ作りの土台を作ったとも言えます。

人物像と伝説

ステージ上のクールで飄々としたイメージと、私生活での苦悩が混在する人物像は、伝説的なカリスマ性を強めました。仲間や若手からの信望も厚く、ビリー・ホリデイをはじめ多くのミュージシャンにとって特別な存在でした。音楽的な語彙だけでなく、ジャズ文化上の言葉遣いや態度にも影響を与えた稀有な存在です。

まとめ

レスター・ヤングは、テナー・サックスの可能性を新たに示した演奏家です。軽やかな音色、余白を生かしたフレージング、そして歌うような旋律性は、ジャズの語法を変え、数々の後進に受け継がれました。まずは代表曲やベイシー楽団での演奏、小編成での自由なソロを順に聴き、フレーズの作り方や呼吸、間の取り方を味わうことをおすすめします。

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参考文献