ハブとは何か?EthernetハブとUSBハブの仕組み・歴史・運用とスイッチとの違いを徹底解説
ハブとは — IT分野における「集中接続機器」の総称
「ハブ(hub)」は英語で「中枢」や「集散点」を意味し、IT分野では複数の端末や機器を物理的に接続して信号やデータを集約・中継する装置を指します。文脈によって意味合いが異なり、代表的には「ネットワークハブ(Ethernetハブ)」や「USBハブ」があります。本コラムでは主にネットワーク機器としてのハブを中心に、USBハブとの違いや歴史、仕組み、運用上の注意点まで詳しく掘り下げます。
ネットワークハブ(Ethernetハブ)の定義と役割
ネットワークハブはOSI参照モデルの物理層(レイヤ1)で動作する多ポートのリピータです。受け取った電気信号を増幅・整形して他のすべてのポートに再送するため、接続されたすべての機器が同一の物理的な通信領域(コリジョンドメイン)を共有します。かつてはLAN(特に10BASE-T)で広く使われましたが、現在は多くの用途でスイッチに置き換えられています。
仕組み:リピータとしての動作とコリジョンの概念
リピータ機能:ハブはポートで受信した信号を増幅・整形(リジェネレート)し、受信ポート以外の全ポートへ送信します。これにより信号の減衰を補い、ネットワークの物理的距離制限を延ばす役割も果たします。
コリジョンドメイン:ハブでは全ポートが同一のコリジョンドメインに属します。複数の端末が同時に送信すると衝突(コリジョン)が発生し、CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)方式により再送が行われます。コリジョンは帯域効率を低下させるため、ネットワーク規模が大きくなると性能問題が生じます。
全二重通信と半二重通信:原理上ハブは物理層リピータなので基本的には半二重(同時送受信不可)で使われることが多く、全二重(同時送受信可能)に対応するにはリンク先がスイッチなどの別の機器である必要があります。
ハブの種類
パッシブハブ:受信した信号を増幅や整形を行わず単純に物理的に分岐するタイプ(主に古い同軸ケーブル接続で見られる)。
アクティブハブ(リピータハブ):信号の再生・増幅を行うことで長距離伝送を可能にする。ツイストペアEthernet用のハブは通常これに該当します。
スマートハブ/管理機能付きハブ:物理層に近い機器ながら、LED情報や一部の管理情報(ポートごとのリンク状態監視など)を持つもの。スイッチのようなMAC学習やフレーム転送の分割は行いません。
スイッチとの比較 — なぜスイッチに置き換わったか
動作層の違い:ハブはレイヤ1(物理層)で動作するのに対し、スイッチはレイヤ2(データリンク層)で動作します。スイッチは受信したフレームの宛先MACアドレスを学習し、宛先ポートにのみフレームを転送するため、帯域効率が格段に高くなります。
衝突回避と全二重:スイッチは各ポートが独立したコリジョンドメインを形成するため、コリジョンが発生せず全二重通信が可能です。これによりネットワーク容量が向上します。
機能性:スイッチはVLAN、QoS、ポートセキュリティ、PoE(Power over Ethernet)など多くの付加機能を持ち、企業ネットワークの要件に応えられるため、1990年代後半以降ハブは急速に姿を消しました。
ハブがまだ使われる場面
パケットキャプチャ・監視:ハブは受信したフレームを全ポートへそのまま送る特性を持つため、通信を傍受してキャプチャする用途(ネットワーク調査やトラブルシューティング)で便宜的に使われることがあります。現代では専用のネットワークタップが同様の用途で好まれますが、単純な環境ではハブの持つ“ブロードキャスト性”が役立ちます。
教育・検証目的:CSMA/CDや物理層の振る舞いを学ぶための教育用や古い機器との接続検証のために使われることがあります。
USBハブとの違い
「ハブ」はネットワーク機器だけでなくUSBなど他のインターフェースにも存在します。USBハブはホスト(PCなど)側のUSBポートを複数の下位デバイスに分岐する装置で、USBプロトコル(レイヤ的にはトランスポート〜セッション相当)に従って論理的にデバイスを管理します。USBハブには「ルートハブ(ホストコントローラに内蔵)」と「外付けハブ」があり、バスパワー(バス給電)かセルフパワー(外部電源)かで動作が異なります。USBハブは単なる電気的分岐にとどまらず、トランザクションを管理し、速度変換(トランザクショントランスレータ)などの機能を持つことがあります。
利点・欠点の整理
利点:
- 設置が簡単でコストが安い(特に古いハードウェア)。
- 信号を再生することで物理的距離を伸ばせる。
- パケットキャプチャや特殊な検査用途では有用。
欠点:
- 全ポートで帯域を共有するためスループットが低下しやすい。
- セキュリティ面での保護がない(全トラフィックを他ポートに流す)。
- 現代ネットワークで求められる機能(VLAN、QoS、PoEなど)を持たない。
運用上の注意とセキュリティ
盗聴のリスク:ハブは受信フレームを全ポートへ転送するため、許可されない端末で容易にトラフィックを傍受できます。機密情報が流れる環境ではハブの使用は避けるべきです。
性能管理:利用者が増えたり大容量通信が発生したりするとコリジョンによる再送で性能が急激に悪化します。設計段階でコリジョンドメインのサイズを小さくするか、スイッチ化を検討してください。
レガシーサポート:古い機器を接続する一時的な用途での使用は許容されますが、恒常的なインフラには相応しくありません。長期運用では管理機能のあるスイッチへの移行が望まれます。
歴史的背景と現状
初期のEthernetは同軸ケーブル(10BASE5/10BASE2)を用いるバス型トポロジが主流でしたが、ツイストペアを用いる10BASE-Tの登場によりスター型トポロジが普及し、各端末を中央のハブに接続する形が一般的になりました。1990年代後半からはスイッチのコストが下がり、性能面の優位性からスイッチへの置き換えが進み、現在では企業や家庭のネットワークの多くがスイッチ/ルータを中心に構成されています。一方でUSBハブはモバイル機器やPC周辺機器の普及に伴って今も幅広く使われています。
まとめ
「ハブ」は複数の機器を物理的に接続して信号を集約・中継する装置の総称であり、ネットワークハブ(物理層リピータ)とUSBハブ(プロトコルに従う分岐装置)が代表例です。ネットワークハブは低コストで単純な構成を実現しますが、コリジョンや帯域共有による性能低下、セキュリティ上の脆弱性を抱えます。今日の主流はスイッチであり、実務上はスイッチへの移行を優先すべきですが、教育、検証、簡易なパケットキャプチャなど特定用途ではハブが有用な場面もあります。USBハブは依然として日常的に使われているため、用途に応じてバスパワー/セルフパワーや速度特性を確認して選ぶことが重要です。
参考文献
- Ethernetハブ(日本語・Wikipedia)
- Ethernet hub (Wikipedia)
- Network switch (Wikipedia)
- CSMA/CD (Wikipedia)
- USB hub (Wikipedia)
- USB仕様・ドキュメント(USB Implementers Forum)
- Power over Ethernet (Wikipedia)
- Network tap(ネットワーク監視用タップ、Wikipedia)


