ONU入門ガイド:GPON/EPONの仕組み・設置・運用・トラブル対策とセキュリティを徹底解説

はじめに

「ONU(Optical Network Unit)」という用語は、FTTH(Fiber To The Home)や光アクセス網の文脈でよく登場します。家庭や事業所でインターネットに接続する際、壁の近くに設置された白い箱やルーターに光ケーブルが接続されているのを見たことがある人は多いでしょう。それがONU(あるいはONT)です。本稿では、ONUの役割・仕組み・種類・運用・トラブル対応・セキュリティ面まで、技術的な背景も交えて詳しく解説します。

ONUとは何か(定義と基本機能)

ONU(Optical Network Unit)は、光アクセス網におけるユーザー側の端末装置で、光(光信号)を電気信号に変換して家庭内・事業所内のネットワーク機器(ルーター、スイッチ、IP電話機、STBなど)に接続する機能を担います。プロバイダや通信事業者側の中心装置であるOLT(Optical Line Terminal)と対をなす装置です。

  • 光信号 ↔ 電気信号の変換(光-電気変換)
  • パケットの整形、フレームの処理、VLANタグ処理などのレイヤ2処理
  • VoIP(電話)、IPTV(映像)、データ(インターネット)など複数サービスの収容・分離
  • 通信事業者によるリモート管理・監視(設定配信、軟体更新など)

ONU と ONT の違い

ONUとONT(Optical Network Terminal)はしばしば混同されます。厳密にはONUは光アクセス網の「ネットワーク単位」を指す一般名詞であり、ONTはユーザー宅に設置される「端末」を指すことが多い、という使い分けがあります。実務上はどちらも同じ機器を指して使われることが多く、プロバイダやベンダごとに呼称が異なります。

PON(Passive Optical Network)の仕組みとONUの位置づけ

家庭側の ONU は、PON(Passive Optical Network)トポロジの末端に置かれます。PONは光ファイバ上でOLTと多数のONUを分岐器(光スプリッタ)によってパッシブ(電源不要)に共有する構成です。特徴は次の通りです。

  • トポロジ:OLT(局舎) —(単一ファイバ)— スプリッタ —(分岐)— ONU(各加入者)
  • 波長:一般的に下り(OLT→ONU)は1490nm、上り(ONU→OLT)は1310nm、映像用として1550nm帯を使う場合がある(仕様により異なる)。
  • 到達距離:標準仕様では20km程度が一般的。長距離や特殊構成では延伸も可能。
  • スプリット比:よく使われるのは1:32や1:64。構成や光予算によっては1:128等も技術的に可能だが、品質や光予算の制約がある。

主要なPON方式と管理プロトコル

ONUが使うPON方式には主に以下があります。

  • GPON(G.984 系列、ITU 標準) — 下り/上りの効率化やOMCIによる管理が特徴。
  • EPON(IEEE 802.3ah / 802.3av 等) — イーサネットフレームベースで構成。家庭向けで広く採用。
  • 10G系(XG-PON、XGS-PON、10G-EPON など) — 帯域拡張向け。

機器管理面では、GPON系での「OMCI(ONT Management and Control Interface)」が重要です(ITU-T G.988)。また、CPE(顧客端末)一般のリモート管理にはTR-069(Broadband Forum)等が用いられることがあります。これらにより、事業者はONUの設定配信、監視、障害検出、ファームウェア更新などを遠隔で実施できます。

ONUの種類と主な機能

ONUは用途や製品によって多様な形態があります。

  • 単機能ONU(光-電気変換+1〜数ポートのEthernetのみ)
  • ONT(Wi-Fiルーター内蔵) — ONU機能に加えルーター、無線AP、スイッチ機能を内蔵。住宅用として一般的。
  • VoIP対応ONU — 電話ポート(RJ-11)を備え、SIP等でIP電話に対応。
  • STB/IPTV向け機能を備えたもの — VLANやマルチキャストの最適化機能を備える。
  • SFP形状のONU(業務向け) — 小型モジュールとしてONU機能をSFP差込口に収める製品。

さらに、ONUは複数のVLANをサポートし、プロバイダからのトラフィックをサービスごとに分離します(例えばテレビは別VLAN、電話は別VLAN、インターネットは別VLAN)。接続方式はPPPoEやIPoE(DHCP、静的IP)など多様です。

設置・配線・安全上の注意点

ONU設置時のポイントと注意点は以下の通りです。

  • 光コネクタは非常に細かい光学部品を含み、汚れや傷が通信品質低下の主原因。接続前に必ずクリーニングする。
  • ファイバはレーザ光を扱うため、素人が断面を直接覗き込むのは避ける(安全のため)。
  • ONU自体は電源を必要とする(多くはACアダプタ)。停電時の電話対応が必要ならバッテリバックアップを検討する。
  • 屋外工事や光配線の引き込みは資格を持つ技術者に依頼する。光ケーブルの曲げ半径や張力に注意。

トラブルシューティングの基本

ONUに関する典型的な障害とその切り分け方法は次の通りです。

  • リンク不成立(インターネットに繋がらない)→ ONUの電源・LED状態を確認。光リンク(PON)LEDが消灯なら光ファイバ断や接続不良が疑われる。
  • 光の減衰(速度低下や断続)→ コネクタの汚れ、スプリッタ故障、光パワー不足など。光レベル(dBm)測定器で光受信レベルを確認する必要がある。
  • 登録不可(OLTに登録されない)→ ONUのシリアルや認証情報の不一致、OLT側での設定未登録の可能性。事業者に連絡してONUのプロビジョニングを確認。
  • Wi‑Fiの不具合→ ONUにルータ/Wi‑Fi機能が内蔵されている場合は無線側の設定・干渉、チャネル、ファームウェアをチェック。

光学系の詳細な測定(光パワー、BERなど)は専門機器と技術が必要なので、ISPや保守業者に依頼するのが一般的です。

セキュリティと運用管理

ONUはネットワークの境界をなすため、適切な運用管理とセキュリティが重要です。

  • 遠隔管理(OMCI、TR-069など)により事業者が設定配信や監視を行うが、管理系インターフェースは厳重に保護されるべき。
  • 家庭内ネットワーク側はルータ機能でNATやファイアウォールを適切に設定する。ONTがブリッジモードの場合は別途ルータで対策。
  • ファームウェアの更新は脆弱性対策に有効。事業者は定期的な更新を配信するが、ユーザー側でも公開情報をチェックする。
  • マルチサービス(音声・映像・データ)はVLAN等で分離し、サービス間の干渉や盗聴リスクを低減する。

運用上の実務メモ(ISP/技術者向け)

  • プロビジョニング:ONUのシリアル番号(S/N)や機種に基づき、OLT側での登録、サービスVLANや帯域制御を行う。
  • 帯域管理:PONは上り帯域を複数ONUで共有するため、帯域保証やスケジューリング(ダイナミックバンド幅割当、DBA)が重要。
  • ログと監視:ONUのアラート、光受信レベル、CRCエラー等を監視し、閾値超過で保守通知を出す。

まとめ

ONUは光アクセス網の末端で光信号をユーザー側の電気信号に変換する重要な装置であり、単に「光ケーブルの先にある箱」以上の多機能を持ちます。PONの特性、GPON/EPONなどの規格、OMCIやTR-069といった管理プロトコル、VLANを用いたサービス分離、光学的な配線・保守の注意点などを理解することで、設置・運用・トラブル対応がスムーズになります。個人ユーザーはコネクタの取り扱いや電源・バックアップに注意し、事業者側は適切なプロビジョニングと監視で品質を維持することが求められます。

参考文献