Tom Waits 全アルバム徹底ガイド|レコードで聴くおすすめ順と聴きどころ
Tom Waits の世界へようこそ — イントロダクション
Tom Waits(トム・ウェイツ)は、ジャズ、ブルース、フォーク、アヴァンギャルドを横断する孤高のシンガーソングライターです。低く掠れた声と物語性の高い歌詞、独特の楽器編成やサウンドメイクで、1970年代のバラード中心の作風から1980年代以降の実験的・演劇的表現へと劇的に変化していきました。本コラムでは「レコードで聴くべきおすすめアルバム」を中心に、作品ごとの聴きどころや背景、代表曲を深掘りして解説します。
選び方のコツ(短く)
- 「初期のメロウなシンガーソングライター風」を求めるなら:1970年代のアルバム(例:Closing Time)。
- 「荒々しく実験的で演劇的な表現」を求めるなら:1983年以降(Swordfishtrombones〜)。
- 「傑作ワンボックスやレア曲を網羅したい」なら:オーファンズ(Orphans)。
Closing Time(1973)
デビュー作。ピアノ主体の落ち着いたアレンジで、若き日の抒情性が際立ちます。ジャズ調のコード進行とシンプルな伴奏に、暖かくも少し影のある歌声が乗る作品群。
- 代表曲:“Ol' '55”、“Martha”
- 聴きどころ:歌詞に流れる郷愁と夜の情景描写。後の奇抜さがない分、詞とメロディの良さがストレートに伝わる。
- おすすめリスナー:まずはウェイツの声と物語性に触れたい人向け。
The Heart of Saturday Night(1974)
夜の街や旅情をテーマにした、都会的で映画的なアルバム。ジャズ/ブルースの影響が色濃く、ムーディーなピアノとストリングスも魅力。
- 代表曲:タイトル曲“(The) Heart of Saturday Night”
- 聴きどころ:街角の物語や職業的なアウトロー像の描写。メロディの美しさと語り口が合わさる。
Small Change(1976)
徐々に“夜の都会とアウトサイダー”への関心が深まり、より演出されたジャズ/バーソングの世界が色濃く出る一枚。プロダクションが凝っており、ナレーション的な歌唱が増える。
- 代表曲:“Tom Traubert's Blues (Waltzing Matilda)”
- 聴きどころ:叙情性と暗いユーモア、セリフのような歌い回し。
Blue Valentine(1978)
メロディアスでありながら陰鬱さを帯びた楽曲が並ぶ転機的なアルバム。ロマンティシズムと諦念が混在する作品で、初期の集大成的な面もあります。
- 代表曲:“Blue Valentine”、“Somewhere”
- 聴きどころ:バラードの深い感情表現、ストリングス/アレンジの効果的使用。
Swordfishtrombones(1983)
キャリア上の大きなターニングポイント。従来のピアノ中心のサウンドから一転して、打楽器的・民族的な楽器や異形の音響を導入。作風の革新が明確に表れます。以後の「実験的Tom Waits」がここから始まるとされます。
- 代表曲:“Underground”、“Swordfishtrombone”
- 聴きどころ:異形の楽器、奇妙なリズム、朗読/演劇的な表現への傾斜。
- おすすめリスナー:ルーツ音楽を新解釈した音像が好きな人、ボーカルの表現の幅に驚きたい人。
Rain Dogs(1985)
多くの評論家が傑作と評する一枚。アメリカの路上文化を横断する物語性、民族音楽やストリートサウンドの断片をミックスした構成で、聴くたびに新たな発見があります。
- 代表曲:“Singapore”、“Jockey Full of Bourbon”、“Downtown Train”(後に他アーティストがカバー)
- 聴きどころ:アンサンブルの豊かさ、楽曲ごとの世界観の強さ。プロダクションの妙が光る。
- おすすめリスナー:Tom Waitsの「入口」として最も魅力的な作品の一つ。
Franks Wild Years(1987)
演劇的なコンセプトアルバム。ひとつの人物(Frank)の物語を軸に、舞台音楽的な構成が取られています。物語性を重視するファンにはたまらない深み。
- 代表曲:“I'll Be Gone”
- 聴きどころ:台詞と歌の境界が曖昧になる演劇性、ヴァリエーション豊かなアレンジ。
Bone Machine(1992)
ダークで原始的なサウンドが特徴。レコード全体に「遺骨の部屋」にいるような陰鬱さとユーモアが同居しています。グラミー賞も獲得した評価作。
- 代表曲:“God's Away on Business”、“I Don't Wanna Grow Up”
- 聴きどころ:打撃系の質感、粗削りだが緊張感のある演奏。声の表現力が極限まで活かされる。
Mule Variations(1999)
比較的“聴きやすい”側面を持ちながら、独特の土臭さとアーシーなグルーヴが魅力のアルバム。幅広いリスナー層に支持された作品です。
- 代表曲:“Hold On”、“What's He Building?”
- 聴きどころ:ポピュラー性と芸術性のバランスがよく取れている。ライブで映える楽曲も多い。
Alice(2002)/Blood Money(2002)
いずれも舞台作品(演劇や舞台音楽)と連動した二枚。Aliceはより繊細で幻想的、Blood Moneyはより劇的でダーク。どちらもシアトリカルな演出と緻密な歌詞が光ります。
- 代表曲:Aliceから“Good Morning Mr. Hyde”、Blood Moneyから“God's Away on Business”(流用的要素あり)
- 聴きどころ:声の語りと楽器の隙間を効果的に使った構築。劇場での物語を想像しながら聴くと深まる。
Orphans: Brawlers, Bawlers & Bastards(2006)
3枚組ボックスで、未発表曲、デモ、風変わりなセッション、ライヴ音源まで網羅する大箱。コレクターや熱心なファンにとっては必携です。全方位のTom Waitsが詰まっており、作品の幅広さを再確認できます。
- 聴きどころ:レア曲や異色曲、B面的な魅力に触れられる。入門者はまず薄くつまみ食いしてから深く掘るのがおすすめ。
Bad as Me(2011)
最新期のスタジオ作のひとつ。初期からの延長線上にある歌心と、成熟した表現が合わさった傑作。多様な楽曲群が並び、長年のファンにも新鮮に響く構成です。
- 代表曲:“Bad as Me”
- 聴きどころ:凝縮されたエネルギーと風格。近年のトーンを知るうえで重要。
入門者向けのおすすめ順(レコードで聴く場合)
- 1. Closing Time(原点として声と歌を知る)
- 2. Rain Dogs(傑作であり変化の集約)
- 3. Swordfishtrombones(作風転換を味わう)
- 4. Mule Variations または Bone Machine(成熟期の力強さ)
- ボーナス:Orphans(深堀り用)
アルバムごとの聴き方・ポイント
- 歌詞の物語性に注目:人物描写や街の描写、風景描写が多く、1曲ごとに短編小説を聴くような感覚が得られます。
- アレンジの変遷:ピアノ中心(初期)→奇抜な打楽器や実験音(中期以降)という流れを追うと、Tom Waitsの芸術的成長が見えてきます。
- ライブ録音や未発表曲で別の表情が出る:Orphansのような編集盤で多面性を確認しましょう。
コラボレーターと制作背景(簡潔に)
初期はよりプロデューサー主導の洗練されたアレンジ、1980年代以降はKathleen Brennan(彼のパートナー)の影響も大きく、サウンドと表現が劇的に変わりました。ギタリストやパーカッション奏者など個性的な演奏家が作品ごとに色を添えています。
コレクター向けのちょっとした提案
- オリジナル盤が手に入らない場合でも、リマスター盤や公式再発で音質や収録曲の違いを楽しめます(リマスターで音像が変化することあり)。
- 限定盤やボックスセット(Orphansなど)は内容が魅力的なので、ディープリスナーは要チェック。
まとめ
Tom Waitsは一度聴いただけでは計り知れない深さを持つアーティストです。まずは代表作を数枚聴いて「この人の語る物語」を味わい、もっと知りたくなったら劇的転換期の作品やボックスセットへと深掘りしていくのが楽しい道筋です。レコードは曲の流れやアルバム単位の演出をそのまま体験できる媒体なので、ぜひLPでアルバム単位の構成を楽しんでください。
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参考文献
- Tom Waits 公式サイト
- Tom Waits discography — Wikipedia
- Tom Waits — AllMusic(ディスコグラフィ)
- Tom Waits — Rolling Stone(アーティスト解説)
- Tom Waits — Discogs(リリース情報)


