交互走査(インターレース)の仕組みと歴史—デインターレースと3:2プルダウンが現代映像に与える影響

交互走査(インターレース)とは

交互走査(こうごそうさ)とは、映像信号を出力する方式の一つで、1フレームを2つの「フィールド(field)」に分けて順次表示する方式です。一般に奇数ライン(1,3,5…)をまとめたフィールドと偶数ライン(2,4,6…)をまとめたフィールドを交互に描画するため「交互走査」と呼ばれます。英語では「interlaced scan(インターレース)」と呼ばれ、テレビ放送や従来のブラウン管(CRT)ディスプレイで広く採用されてきました。

なぜ交互走査が生まれたか(歴史的背景と目的)

交互走査は主にアナログテレビの時代に考案されました。CRT(ブラウン管)ディスプレイは、電子ビームで画面を走査して像を描くため、フレームレートが低いとちらつき(フリッカー)が発生しやすくなります。一方、送受信の帯域幅は当時非常に限られており、フレームレートを単純に上げてちらつきを抑えるのは困難でした。そこで、1フレームの垂直解像度を2分割してフィールドごとに表示することで、実質的にフィールドレート(表示更新回数)を2倍に上げつつ、送信する情報量(帯域)はほぼ同じに保つというトレードオフが採られました。

仕組み — フレームとフィールド、周波数の例

  • 1フレーム = 2フィールド(奇数ラインフィールド + 偶数ラインフィールド)
  • フィールドごとの表示が交互に行われるため、観測者には高い更新レート(フィールドレート)があるように感じられる
  • 代表的な規格例:
    • NTSC系(北米など): 480i(実運用では29.97フレーム/秒 → 59.94フィールド/秒)
    • PAL系(欧州など): 576i(25フレーム/秒 → 50フィールド/秒)
    • HDTVでも1080iなど(1080i50や1080i60 と表記されることがある)

交互走査の長所

  • 同じ伝送帯域で高い「見かけの」更新率(フィールドレート)を実現し、ちらつきを抑えやすい
  • CRTなどの走査型表示装置と親和性が高く、当時の放送・受像機との互換性が保てた
  • 送信データ量を抑えながら動きに対して滑らかさを保てる(静止画では高い垂直解像度を維持)

交互走査の短所(現代で問題になりやすい点)

  • 動きのある被写体に対して「コーミング(櫛目)ノイズ」や輪郭のズレが発生しやすい。これは2つのフィールドが異なる瞬間の情報を混在させるために生じる
  • 逐次スキャン(プログレッシブ)表示のディスプレイ(LCD・有機EL・プラズマなど)ではフィールドを統合して表示する必要があり、デインターレース(deinterlacing)処理が必須となる
  • 編集や特殊効果処理が複雑化する。フィールドの順序(フィールド優位、top-field-first / bottom-field-first)を誤ると映像がジャンプしたりジッターが発生する
  • 映像圧縮やストリーミングではインターレースが扱いにくく、効率や品質に影響する場合がある

フィールド順(トップフィールドファースト / ボトムフィールドファースト)と重要性

インターレース映像には「どちらのフィールドを先に描くか(フィールド順)」という属性があります。これをTop Field First(TFF、上位フィールド先)やBottom Field First(BFF、下位フィールド先)と呼びます。このフィールド順はキャプチャ機器、放送局、編集ソフト、プレイヤー間で一致していないと、映像の時間的整合性が崩れてしまいます。特にテレシネやフィルム→テレビ変換(3:2プルダウン等)時には、フィールド順の扱いが重要です。

テレシネ/3:2プルダウンと逆テレシネ

映画フィルム(24fps)をNTSC(59.94 fields/s)に変換する際に用いられるのが3:2プルダウン(3:2 pulldown)などの方式です。これにより24フレームの映像が59.94フィールドにマッピングされますが、後段で正確に元の24fpsに戻す(逆テレシネ)にはフィールド単位の整合と適切な処理が必要です。誤った処理はカクつきや繰り返しフレームの破綻を招きます。

デインターレース(Deinterlacing)— プログレッシブ表示への変換

モダンなディスプレイはプログレッシブ走査(逐次走査)が基本のため、インターレース映像を表示する際はデインターレースが必要です。代表的な手法には次のようなものがあります。

  • ウェーブ(Weave): 2つの連続フィールドを重ね合わせて1フレームにする。動きがなければ高品質だが、動きがあるとコーミングが出る。
  • ボブ(Bob): 各フィールドをそれぞれ拡大(垂直補間)して独立したプログレッシブフレームにする。動きには強いが垂直解像度が落ちる。
  • モーション適応型(Motion-adaptive): 動きが少ない領域はウェーブ、動きが大きい領域はボブといった領域分割を行う。
  • モーション補償型(Motion-compensated): 前後のフレーム/フィールドから動きベクトルを推定し、動きに合わせて補間する。高品質だが計算負荷が高い。

現代の映像機器やソフトウェアはこれらを組み合わせ、シーンに応じて最適な処理を選ぶことで見かけ上の品質を高めています。

デジタル放送・HD時代での位置づけ

デジタル放送・HDTVの時代に入っても、帯域や互換性の理由で1080iなどのインターレース形式は長く使われてきました。ただし、スポーツなど高速動体を扱う場合は720p(プログレッシブ)が好まれることが多く、ストリーミングやオンライン配信では逐次走査が主流になりつつあります。ATSCやDVBなどのデジタル放送規格はインターレースとプログレッシブの両方をサポートしていますが、配信側でどちらを選ぶかは用途や帯域、機器の互換性によります。

実務上の注意点(撮影・編集・配信)

  • 撮影機材の設定(インターレース撮影かプログレッシブ撮影か)を意識する。特に古い放送用カメラや安価なキャプチャカードはインターレース出力の設定がある。
  • 編集時にはフィールド順を正しく認識する。誤ったフィールド順はCG合成やスローモーションで顕著な破綻を生む。
  • 配信やWeb向けにする際は、基本的にプログレッシブへ適切にデインターレースしてからエンコードする。単純なフィールド間の重ね合わせだけではコーミングが残る。
  • 古い素材(フィルム由来やアーカイブ映像)を扱う場合、テレシネの履歴を確認し、逆テレシネや適切な再サンプリングを行うことで品質を回復できる場合がある。

まとめ(将来展望)

交互走査はテレビ放送の歴史的制約から生まれた解決策で、多くの利点をもたらしましたが、現代のディスプレイ技術や配信環境では扱いの難しさが目立ちます。現在はプログレッシブ中心への移行が進んでおり、インターレースは互換性や一部放送用途で残るにとどまると考えられます。ただし、多数の既存資産(アーカイブ映像、放送アーカイブなど)がインターレースで存在するため、適切な理解と処理技術は今後も重要です。

参考文献