偶数フィールドとは何か?インターレース映像の基礎と実務対応を徹底解説
偶数フィールドとは — 定義と基本概念
「偶数フィールド(even field)」は、主にインターレース(走査方式)の映像において使われる用語で、走査ライン番号が偶数で構成されるフィールド(半フレーム)を指します。インターレース映像は1フレームが2つのフィールドに分かれており、奇数ライン(1,3,5,…)を含む「奇数フィールド(odd field、Top Field)」と、偶数ライン(2,4,6,…)を含む「偶数フィールド(even field、Bottom Field)」が順次表示されることで全体の像を作ります。
歴史的背景:なぜフィールドが存在するのか
インターレース方式は主にブラウン管(CRT)ディスプレイと帯域幅の限られたアナログ放送環境で採用されました。フレーム全体を毎秒繰り返し描画する代わりに、フィールド単位で描画することで垂直解像感を維持しつつ必要帯域を半分に抑え、表示のちらつきを低減する狙いがありました。NTSCやPALといった標準はフィールドベースで設計されたため、映像機器や放送規格は長年にわたりフィールドの概念を前提にしています。
偶数フィールドの技術的な特徴
- 構成:偶数フィールドは映像の偶数番目の走査ライン(2,4,6,…)で構成され、1フレームは奇数フィールドと偶数フィールドの2つに分かれる。
- 表示タイミング:テレビ信号ではフィールドの表示レートがフレームレートの2倍になる。たとえばNTSC系(29.97fps相当)のフレームは59.94フィールド/秒になる。
- フィールド順(Field Order):どちらのフィールドが先に表示されるか(Top Field First(TFF)=奇数フィールド先行、Bottom Field First(BFF)=偶数フィールド先行)は重要で、撮影・編集・放送での同期や動きの再現に影響する。
実務上の重要性:なぜ偶数フィールドを意識する必要があるか
現代のワークフロー(撮影→編集→配信)では、フィールドの扱いを誤ると以下のような問題が発生します。
- コーミング(櫛状ノイズ):高速な被写体の動きがあると奇数・偶数フィールドの時間差が露出し、フレーム合成時に縞模様のような断裂が生じる。
- ジャダー(歩留まり):フィールド順が異なる素材を混ぜると、上下にわずかなズレや揺れが生じ、映像の安定性が損なわれる。
- テレシネやフレームレート変換での残像:フィルム(24fps)からNTSC(29.97fps)へ変換する3:2プルダウンなどは、フィールドの重複・繰り返しパターンを生み、適切に逆変換(IVTC)しないとモーションが不自然になる。
代表的な規格・数値(例)
- NTSC(北米等):フレーム約29.97fps → フィールド約59.94Hz(インターレース時)
- PAL/SECAM(欧州等):フレーム25fps → フィールド50Hz
- HDインターレース:1080iはインターレースで1920×1080の解像度をフィールド単位で伝送するフォーマット。1080i/29.97や1080i/25などが存在。
フィールド順(Top Field First / Bottom Field First)と偶数フィールド
「偶数フィールドが先に来る」場合を一般にBottom Field First(BFF)あるいはBottom Firstと呼びます。システム間でフィールド順の扱いが一致しないと、編集点で上下方向に1ライン分のズレが生じたり、フレーム境界で映像が不安定になります。NLE(非線形編集ソフト)やエンコーダはソースのフィールド順メタデータ(または手動設定)を正しく扱う必要があります。
アナログ→デジタル、デジタルコーデックにおける偶数フィールド
デジタル化された映像でもフィールドの概念は残ります。MPEG-2やH.264など多くのビデオコーデックはインターレース映像を扱え、ストリームやコンテナにフィールド順やインターレースフラグを含めます。ただし、配信やウェブ再生ではプログレッシブが主流なため、インターレースを扱う際はデインターレース(deinterlace)やフレーム変換処理が必要です。
デインターレース(逆インターレース)と偶数フィールドの扱い
インターレース映像をプログレッシブ表示向けに変換する際、偶数フィールドは重要な要素になります。一般的なデインターレース手法:
- Weave(ウィーブ):奇数・偶数フィールドを合成してフレームを作る。動きが少ない場面では高品質だが、動きがあるとコーミングが発生する。
- Bob(ボブ):各フィールドを独立したフレームとして扱い、垂直補間で欠落ラインを補う。動きの滑らかさは得られるが垂直解像度が低下する。
- Motion-adaptive / Motion-compensated:動きを検出・予測して最適にフィールドを合成。高品質だが計算コストが高い。
デインターレースのアルゴリズムは偶数フィールドと奇数フィールドをどのように参照し合うかで結果が大きく変わるため、元素材のフィールド順が正確に認識されていることが前提となります。
テレシネ(3:2プルダウン)と偶数フィールド
映画の24fps素材をNTSCの29.97fpsに変換する「3:2プルダウン」では、フィルムの1フレームがインターレースのフィールドに対して2〜3フィールドのパターンで割り当てられます(例:A→2フィールド、B→3フィールド、C→2、D→3…というサイクル)。この処理は偶数フィールド・奇数フィールドの順序に依存するため、逆テレシネ(IVTC)や正確なフレーム再構成では、どのフィールドが元のどのフィルムフレームに対応するかを特定することが必要です。
編集・ポスプロにおける実務的注意点
- 素材のフィールド順を必ず確認する(カメラ設定やメタデータ、キャプチャソフトの設定をチェック)。
- 異なるフィールド順の素材を混在させるときは、編集前に統一する(フィールド順の変更や適切なデインターレース処理を行う)。
- アーカイブやマスターは可能な限り元の解像度・時間軸(フィールド情報を含む)で保存する。将来の再処理で元情報が重要になるため。
- ウェブ配信やモバイル配信はプログレッシブが主流のため、最終配信用に高品質なデインターレースやフレーム補間を行う。
ツールと実例(概念レベル)
実務では、FFmpegやHandBrake、Adobe Premiere Pro、DaVinci Resolveなどがインターレース素材の取り扱いやデインターレース、フィールド順の調整をサポートしています。FFmpegではフィールド順を指定するフィルタやデインターレースフィルタ(yadif, bwdif 等)が用意されており、編集ソフトでも「Top Field First / Bottom Field First」設定が存在します。
現代の映像環境と偶数フィールドの位置づけ
4K/8Kや高リフレッシュレートのディスプレイ、ストリーミングの普及により、プログレッシブ映像が主流になっています。しかし放送や一部のカメラワーク、既存のアーカイブ資産の多くはインターレース由来であり、偶数フィールドという概念は今なお重要です。特に放送ワークフロー、旧素材の復元、ライブ信号の取り扱いではフィールドの正確な扱いが品質を左右します。
まとめ
偶数フィールドは単に「偶数番号のライン群」ではなく、映像の時間的構造に深く関わる概念です。インターレース映像を扱う際は、フィールドの構成や順序を正しく理解・管理しないと、コーミングやジャダー、タイミングのズレなどの視覚的欠陥が現れます。現代のワークフローではプログレッシブ化が進んでいますが、インターレース由来の素材や規格を扱う現場では偶数フィールドの知識は必須です。
参考文献
- インターレース映像(Wikipedia 日本語)
- Field (video) — Wikipedia (English)
- Deinterlacing — Wikipedia (English)
- Telecine / 3:2 pulldown — Wikipedia (English)
- ITU-R Recommendation BT.601 — Studio encoding parameters of digital television for standard 4:3 and 16:9 aspect ratios
- ITU-R Recommendation BT.709 — Parameter values for the HDTV standards
- FFmpeg filters — yadif (Yet another deinterlacing filter)


