Glenn Branca(グレン・ブランカ)— ギター・オーケストラで拓く現代音楽の境界とノーウェイヴ影響
Glenn Branca — プロフィール
Glenn Branca(グレン・ブランカ、1948–2018)は、アメリカ出身の作曲家/ギタリストであり、1970年代後半から2010年代にかけてエレクトリック・ギターを中心に据えた前衛的な作曲と演奏で国際的な評価を得ました。ノー・ウェイヴやポストパンクのシーンと深く結びつきながら、ミニマリズム、現代音楽(アヴァンギャルド)とロックの間を横断するような独自の音楽語法を築き上げました。Thurston MooreやLee Ranaldo(のちのSonic Youthのメンバー)など多くのミュージシャンに影響を与えただけでなく、ギター・オーケストラという概念を現代音楽の一つの主要な表現手段として提示しました。
経歴の概略
ブランカは1970年代末のニューヨークのアート/音楽シーンで頭角を現しました。当初は実験音楽やノー・ウェイヴ系のシーンで活動し、やがて複数のエレクトリック・ギターを並べたアンサンブル(ギター・オーケストラ)を編成して独自の「シンフォニー」を作曲・上演するようになります。彼の作品は小編成のエレクトリック・バンドから、大規模なギター隊+打楽器・管弦楽を含むものまで幅広く、ライブは音響的・視覚的にも圧倒的な体験を与えることが多かったです。
作曲技法と音響美学
- 倍音(オーバートーン)とビートの活用:大量のギターが同じラインや微妙にずれたピッチで繰り返すことにより、強烈なビートや倍音的干渉が生じ、耳に残るうねりや音の「色」が生まれます。これは単なる轟音ではなく、倍音列(ハーモニクス)を意識した精密なサウンドデザインです。
- チューニングと調律の実験:標準的な平均律に留まらず、部分的な変則チューニングや微分音的なズレを用いることで、音同士が干渉して新たな音色を形成することを狙いました。
- ロック的エネルギーと現代音楽的構造の融合:パワーコードや歪んだギターの音色、反復的なリズムや高音量のインパクトと、現代作曲で用いる規則的あるいはプロセデューラルな構造(楽曲全体の進行や変化の設計)とを共存させました。
- スケールの拡張と空間性:大編成での演奏は物理的な音場(会場の残響や個々のアンプの放射特性)をも作曲素材にし、観客は音の「壁」や「雲」に包まれるような感覚を経験します。
代表作と聴きどころ
ブランカの作品はレコード/CDでの再現も迫力がありますが、ライブでの体験は格別です。以下は入門者にも聴きやすく、彼の核をつかめる代表的な録音です。
- Lesson No. 1(1980):初期の衝撃的な作品群を収めたシングル/EP的な作品で、彼のギター・オーケストラ的なアプローチの萌芽が感じられます。
- The Ascension(1981):ブランカの初期の代表作。ミニマル/ノイズ/ロックが昇華したような大作で、当時のニュー・ヨークの前衛シーンに強い衝撃を与えました。
- ギター・シンフォニー群(初期から晩年まで):タイトルに「シンフォニー」を冠した一連の作品群は、スケール感と音響実験の両立を追求したもの。レコーディングやライヴでの編成により表情が変わります。
ライブ/演奏体験の特徴
- 非常に高音量で、全身に振動が伝わるような物理性がある。
- 視覚的にも音の壁が作られるため、演奏そのものがインスタレーション的な側面を持つ。
- 演奏者が大量のギターで同じ素材を長時間保持・変形していくため、聴覚的に「変化がゆっくりと浮かび上がる」時間が多い。
影響とレガシー
ブランカはSonic Youthをはじめとするインディー/オルタナティヴ・ロックの多くのミュージシャンに直接的・間接的に影響を与えました。彼の提示した「ギターを用いた現代音楽的発想」は、ロック的エネルギーとアヴァンギャルドの技術を結びつけ、以降のノイズ/実験音楽シーンでの言語を拡張しました。また、作曲家としては大編成作品やオーケストラ作品にも着手し、クラシックの世界とも接続することを示しました。
聞き方・楽しみ方の提案
- 音の総体(倍音やビート)を味わうため、ヘッドフォンよりもできればスピーカーで、かつ大きめの音量で聴くと良い。だが耳を痛めない音量で。
- 断片的なメロディや歌を探すのではなく、「音のうねり」「時間の流れ」「物理的な振動」を聴くこと。聴覚以外の身体感覚が刺激されるのを楽しむ。
- ライヴ映像やインタビューを見ると、演奏者どうしの身体的な関係性や舞台配置、アンプ群の存在感など、音源だけでは見えない情報が補完され、より深く理解できる。
批評的視点 — 長所と好みの分かれる点
長所は、音楽の素材(ギター、アンプ、チューニング)を徹底的に掘り下げ、既成のジャンル枠を突破した点にあります。挑発的でありながら知的な設計があり、音そのものを聴く訓練を促してくれます。一方で、長時間の反復や高音量、テンポや和声の伝統的展開の欠如は、従来の「歌もの」や即時的なメロディを求めるリスナーには辛い場合があります。要は、体験型のサウンドアートとして受け取れるかどうかが好みの分かれ目になります。
まとめ
Glenn Brancaは、エレクトリック・ギターを単なるロック楽器から音響素材へと大胆に転換し、倍音や干渉、空間性を駆使した独自の音響世界を構築しました。彼の仕事は「耳で聴く」ことを越え、身体全体で音を受け止めさせる力を持っています。現代音楽とロックの溝を埋めたパイオニアとして、その影響は現在の実験音楽やインディー・シーンの至る所に残っています。
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参考文献
- Glenn Branca — Wikipedia
- Glenn Branca, Composer Who Explored Guitars’ Sonic Boundaries, Dies at 69 — The New York Times
- Glenn Branca obituary — The Guardian
- Glenn Branca — Biography — AllMusic


