Glenn Branca入門ガイド:おすすめレコードと聴取ポイントで紐解く音楽の世界
Glenn Branca入門 — 本稿の目的
Glenn Branca(1948–2018)は、エレクトリック・ギターを多数並べた〈ギター・オーケストラ〉と、倍音・チューニングの誇張を用いた作曲で知られるアメリカの作曲家/ギタリストです。ノー・ウェイヴ/ポストパンクの文脈から出発しながら、クラシックのシンフォニックな構造とロック的な生音の圧力を結びつけた独自の世界を切り開きました。
ここでは「レコード(アルバム/EP)」単位でおすすめの作品を掘り下げ、音楽的特徴・聴きどころ・入門者が何を期待すべきかを解説します。再生や保管の実践的コツは除外し、作品理解に集中します。
おすすめレコード(厳選)
Lesson No. 1(EP)
Brancaの初期を代表する短いリリース。エレクトリック・ギター群が繰り返しのリズムと倍音的な和音を作り出すという彼の基礎が、最もストレートに聴ける作品です。ノー・ウェイヴ~初期ポストパンクの現場で「生音の物理」を突き詰めた音像が特徴で、短い時間で強烈な印象を残します。
聴きどころ:単純なリフや和音の反復が、スピーカーや耳に「物理的に」作用する感覚。楽曲の構造よりも音の場(サウンドスケープ)を体感することが肝心です。
The Ascension(LP)
Brancaの名盤としてしばしば挙げられる大作。多数のギターをレイヤーして作る「和声の洪水」と、徐々に変化するダイナミクスが、長尺の中で濃密に展開します。ノイズと和声のはざまで生まれる緊張感、演奏の物理的疾走感を堪能できる一枚です。
聴きどころ:冒頭からの密度・音圧の変化、各ギター群が作る干渉パターン(うなり・ビートの揺らぎ)、終盤の解放と残響感。初めて聴く人は一曲目を通してじっと聴くことをおすすめします。
主要なシンフォニー作品(中〜後期の楽曲群)
Brancaは晩年まで「シンフォニー」と名付けたシリーズを多数作曲しました。代表的なタイトル例として「Symphony No.6(“Devil Choirs at the Gates of Heaven”)」や「Symphony No.13(“Hallucination City”)」といった大作があり、これらはギター群だけでなく、打楽器や金管、弦楽器などを拡張して用いる点が特徴です。
聴きどころ:大編成になるほど〈和声の空間〉と〈構造的プロセス〉が明確に表れるため、素材(微分音・倍音)と形式(展開・反復)がどのように結びついているかを意識して聴くと深まります。録音によってはコンサートの臨場感が強く出るため、ライヴ盤や良好なリマスター盤を合わせて聴くのが効果的です。
初期ライブ/コンピレーション盤
Brancaの音楽的特徴は「演奏の物理」でもあるため、スタジオ録音よりもライヴで真価を発揮することが多いです。初期のライブ音源やシングル曲をまとめたコンピレーションは、短時間でBrancaのエネルギーと手法を理解するのに便利です。
聴きどころ:会場の響きやマイク配置、演奏の生の暴力性がそのまま音像に反映されるため、曲の〈熱〉を肌で感じることができます。
後期の録音・再演シリーズ(再構築されたシンフォニー録音など)
後期は構成的に正確さを増しつつ、より大規模な作品や異なる楽器編成に挑戦しています。再演・再録音されたシンフォニー作品は、初期の即興的暴力性とは違った“作曲家としてのBranca”を示しており、音楽的完成度の別面が窺えます。
聴きどころ:楽曲内の対位法的処理、楽器間の役割分担、指示された微細なチューニングやノート選択がどのように全体の響きに寄与しているか。
各作品の楽しみ方(実践的な聴取ガイド)
「音の厚み」を聴く:Brancaは同一の和音やリフを複数のギターで重ね、微妙に異なるチューニングやアンサンブルのずれを作り出します。結果として倍音が強調され、単一の音から複雑なスペクトルが現れます。音像の厚み・うなり・ビートの揺らぎに注目してください。
「時間の経過」を味わう:多くの曲は長尺で、即時のメロディや歌によるカタルシスではなく、時間経過そのものが構成要素です。短期的な変化を追うより、じっくり浸かることを優先しましょう。
「ダイナミクスのスケール」を意識する:Brancaの作品は非常に大きな音量差(小さなざわめきから爆発的な音塊まで)を利用します。静かな部分と爆発の対比が物語を作るので、音量のレンジに留意して聴くと発見が増えます。
「演奏者の物理性」を観察する:ライヴ映像やライナーノーツを参照すると、指示・配置・奏法などの物理的な要素が作曲上どのように組み込まれているかが分かり、音の成り立ちを理解しやすくなります。
どの盤を買うか(選び方のヒント)
入門者は:まずは短めで構造が分かりやすい「Lesson No. 1」や、代表作として名高い「The Ascension」から。Brancaの基礎的手法が最も明瞭に出ています。
中級者は:シンフォニー系のスタジオ録音やライヴ録音へ進むと、作曲的な広がりが堪能できます。リマスターや良好なライヴ録音を選ぶと、アンサンブルの細部が聴き取りやすいです。
コレクターは:初期のオリジナル盤(特に限られたプレス)は音像やパッケージの魅力がありますが、音質や出音の好みでリイシュー版を選ぶのも合理的です。ライナーノーツやクレジットを比較すると各演奏の違いがわかります。
さらに深く――周辺作家・文脈
Brancaはソニック・ユースやライ・チャダム、ライス・チャップマンなど同時代の知られたミュージシャンと交差しました。彼の手法はノー・ウェイヴや実験音楽、ミニマル・ミュージックの延長線上にあり、その交差点をたどることでBrancaの位置づけがさらに見えてきます。
おすすめの聴取順(例)
Lesson No. 1(導入・短時間でインパクトを得る)
The Ascension(代表作で構造とダイナミクスを体感)
ライヴ録音やシンフォニー録音(作品世界の全容を把握)
周辺作家や影響を受けた/与えたバンドを横断(文脈理解)
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参考文献
- Glenn Branca — Wikipedia
- Glenn Branca — AllMusic
- Glenn Branca obituary — The Guardian
- Glenn Branca — Discogs


