クセナキスをレコードで聴く—LPで楽しむ代表作と盤選びの完全ガイド

序文 — クセナキスを「レコードで聴く」意味

イアニス・クセナキス(Iannis Xenakis, 1922–2001)は、建築家であり数学者でもあったユニークな経歴を背景に、音楽に確率や群論、物理的なモデルを持ち込んだ20世紀後半の最重要作曲家の一人です。オーケストラの「大群衆的音響」から、極限まで抽出されたソロ楽器曲、電子音響、打楽器アンサンブルまで、その語法は多岐にわたります。

クセナキスの音楽は、実演やスコアだけでなく、録音(特にヴィニール)で聴く価値が高いです。初期録音や作曲者の関与が強い盤は、当時の演奏習慣や音響的現場感を伝え、作品の物質性をより直接的に体験できます。本コラムでは「レコード(LP)で入手・鑑賞する際におすすめしたい盤・作品」と、その聴きどころを深掘りします。

クセナキス聴取の前提知識(短め)

  • 確率的・統計的手法:クセナキスは「群の振る舞い」を用いて多数の音の集合体からテクスチャを生成します。個々の声部よりも集合の動きに注目すると聴きやすくなります。

  • 物理的・建築的発想:彼の音響は「空間」でのエネルギー分布を念頭に置いているため、録音の空間情報(マイク位置やホール響き)によって印象が大きく変わります。

  • ジャンル横断性:オーケストラ曲、打楽器、独奏、電子音響のどれから入ってもクセナキス独特の思想は体感できます。

必聴の代表作と、レコードで探すべき録音

以下は「入門〜愛聴盤」として特におすすめする作品群と、レコードを探す際のヒント(どんな演奏/盤を選ぶと良いか)です。盤名や年号よりも「誰が演奏しているか」「作曲者の監修があるか」「初期録音か再録音か」を選定基準にしてください。

  • Metastaseis(メタスタシス)

    クセナキスを世に知らしめた代表作の一つ。弦楽器と金管が「波」のように動き、電子的処理を使わずとも、衝撃的なテクスチャを作り出します。レコードで聴くなら:

    • 初期のオーケストラ録音(作曲当時に近い解釈)を探すと、スコアの物理的インパクトが強く伝わります。

    • 指揮者の表現(作曲者と交流のあった指揮者)がある盤は、テンポ設定やダイナミクスの解釈が「作曲者の意図」に近いことが多いです。

  • Pithoprakta(ピトプラクタ)

    弦楽器群を使って統計的・熱力学的なモデルを音にした作品。クセナキスの数学的発想が最もわかりやすく現れる曲と言えます。

    • ソロ楽器の動きではなく「弦楽器群の運動」を重視した録音を選ぶと、各奏者の細かさよりも集合体のうねりが味わえます。

  • Persephassa(ペルセファッサ)

    打楽器アンサンブルの傑作。空間配置を用いる作品で、演奏者がホール内に分かれて演奏することが多く、録音の空間情報が重要です。

    • Les Percussions de Strasbourg(ストラスブール打楽器団)の演奏は特に有名で、レコードで見つける価値があります。演奏の緻密さと空間感の再生が鍵です。

    • ステレオ感/ライヴ録音の迫力を活かす盤を優先すると、作品の立体感が直感的に伝わります。

  • Nomos Alpha(ノモス・アルファ)

    ソロチェロの代表作で、チェロの響き・左手の技術・音の物質性が前面に出る作品。クセナキスの極端な奏法要求を知るのに最適です。

    • ソリストの技量がダイレクトに作品の表情を作るため、名手(当時有名なチェリスト)の録音を探すと良いです。オリジナル録音は貴重な資料価値があります。

  • Eonta / Aïs / Mikka(混成)

    Eonta(トランペット/トロンボーンなどの特殊奏法)、Aïs(合唱やハープを含む大編成)など、多様な編成の作品群もLPで聴く価値があります。クセナキスの“音響的冒険”を広く味わえます。

    • コンピレーションLPや作曲家作品集("Complete Works"系)には、異なる時期の録音がまとめられていることが多く、比較鑑賞に向きます。

どの盤を選ぶか — 具体的な探し方の指針

  • 初期録音 vs 再録音:初期録音は作曲当時の解釈や現場感が残っていて歴史的価値が高い一方、再録音(近年の録音)は音質や演奏技巧、録音技術の向上で作品の細部がよりクリアに聴こえます。どちらを重視するかをまず決めて探しましょう。

  • 演奏団体・演奏者:打楽器はLes Percussions de Strasbourg、現代音楽系の専門アンサンブル(Ensemble InterContemporain 等)や、クセナキスと関係の深い指揮者・演奏者の名前を手がかりに探すと良い録音に当たりやすいです。

  • レーベル:Mode Records、HatHut、DG(Deutsche Grammophon)、EMI、Philipsなど、現代音楽を扱ってきたレーベルをチェック。国内盤であれば解説が日本語で付くこともあるので、解説重視の方は国内盤や日本盤再発を探すのも手です。

  • 盤の版・エディション情報:LPのプレス(オリジナル・オリジナル・リイシュー)、マスタリング情報、ライナーノートの有無なども価値判断の材料になります。作曲者のコメントや初演者の証言があるライナーは保存的価値が高いです。

リスニング・ガイド:盤ごとの聴きどころ

  • オーケストラ作品(Metastaseis / Pithoprakta):「テクスチャの立ち上がり」「楽器群ごとの分布」「グリッサンドや瞬間的な密度の変化」を追い、個々の音ではなく「音の塊の運動」を追跡すること。LPだとホール響きも含めてその動きを俯瞰できます。

  • 打楽器(Persephassa等):空間に置かれた奏者の位置関係や、打撃のアタック/減衰の差が作品の核心。ステレオ/ライヴ感のある盤で聴くと、演奏者の位置移動や相互作用がより鮮明に感じられます。

  • 独奏曲(Nomos Alphaなど):奏者の物理的な技巧、特殊奏法、残響の扱いに注目。LPの温かみある中低域がチェロや低音楽器の物質感をよく出します。

  • 電子音響作品:スピーカー配置やミックスの違いで作品の「空間性」が大きく変わるジャンル。可能ならオリジナルの機材やミックスに近い盤を探すと、作曲者の音響意図が伝わりやすいです。

購入・収集の実務的なおすすめ(探すための優先度)

  • まずは「代表作」を収めたLP(あるいはコンピレーション)を一枚選ぶ。Metastaseis、Pithoprakta、Persephassa、Nomos Alpha のいずれかを含む盤が狙い目です。

  • その後、特定の演奏(例えばPersephassaのストラスブール盤、Nomos Alphaの名演奏)を個別に追いかける。好みの演奏者が見つかれば、その録音のリイシューや関連盤もチェックしましょう。

  • リイシュー盤は音質や入手性が良い反面、オリジナルのライナーやジャケットが再現されないことがあります。コレクターかリスナーかで優先順位を決めてください。

ディスクガイド(入門セット例)

以下は「クセナキス入門」を目的とするLPセット例(コンセプト)です。具体的なリリース年やカタログ番号はショップでの検索時に調べてください。

  • コンパクトにクセナキス像を掴める一枚:Metastaseis / Pithoprakta を中心に収めた盤

  • 打楽器のインパクトを知る一枚:Persephassa を含む打楽器作品集(Les Percussions de Strasbourg 等)

  • 作曲者の極限技巧を体験する一枚:Nomos Alpha(ソロチェロ)

  • 電子/実験音響の側面を知る一枚:初期電子音響作品や実験的録音を集めた盤

コレクションを深めるための読み物・資料

LPのジャケットやライナーノートはクセナキスの理論や演奏上の注意を読むのに有用です。作曲者自身のテクストや、信頼できる学術・演奏家による解説を手元に置くと、聴取体験がさらに深まります。

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最後に:クセナキスを「続けて聴く」ために

クセナキスの音楽は一度で理解できるものではありません。LPという物理的フォーマットは、ジャケットや曲順、ライナーとあわせて「作曲家の時代」を体験させてくれます。まずは上に挙げた代表作を一枚ずつじっくり聴き、気に入った演奏家やレーベルを軸にディグ(さらなる掘り下げ)することをおすすめします。

参考文献