アフリカンドラムの起源と代表種・奏法・文化的役割を詳解(ジェンベ・トーキングドラムほか)
概要:アフリカンドラムとは何か
「アフリカンドラム」という呼称は非常に広義で、アフリカ大陸各地に存在する打楽器全般を指します。形状・素材・奏法は多様で、ひとつの楽器種に限定されませんが、共通する特徴としては皮や木を主素材にし、リズムを通じて儀礼・コミュニティ活動・情報伝達・娯楽など社会的機能を果たしてきた点が挙げられます。
起源と歴史的背景
アフリカの太鼓文化は文字記録以前から続く長い歴史を持ち、考古学的には古代から打楽器的要素が存在したことが示唆されています。地域ごとに発達した太鼓文化は、交易や宗教、王権儀礼、軍事、葬送など多岐にわたる用途で用いられてきました。
例えば、西アフリカのジェンベ(djembe)はマンデ諸民族(マリ、ギニアなど)を中心に発展し、19世紀から20世紀にかけて現在の形に整えられたとされます。トーキングドラム(hourglass-shaped talking drum)はナイジェリアのヨルバやガーナのアカンなどで長く使われ、語り(音高による「会話」)の機能を持つものとして知られます。
代表的な種類と地域差
- ジェンベ(Djembe):西アフリカ(特にマリ、ギニア、コートジボワール)に起源。木胴に山羊皮を張った杯形のハンドドラムで、バス・トーン・スラップなど多彩な音色を出す。
- ダンドゥン/ドゥンドゥン(Dunun / Dundun):ジェンベと組んで演奏される低音の棒状ドラム群(kenkeni、sangban、dununbaなどの種類がある)。スティックで叩き、金属のベル(kenken)とともに演奏される。
- トーキングドラム(Talking Drum / Tama / Djongo):腕で締め具を操作して音高を変化させる砂時計型のドラム。言語的なリズム表現や呼びかけに使われた。
- サバール(Sabar):セネガルの打楽器。片手とスティックの混合奏法で鋭いスラップ音を出す。
- ブガラブ(Bougarabou):ガンビア/セネガル地方の手持ち太鼓で、深い低音が特徴。
- ンゴマ(Ngoma):中央アフリカや南部アフリカで「太鼓」を指す総称的語。部族や行事ごとに形態が異なる。
- アシコ(Ashiko):円錐形や胴張りのドラムで、ナイジェリア周辺の伝統に由来するとされる。
構造・素材と製作法
伝統的なアフリカンドラムは主に木製胴と動物皮(山羊、牛、カバなど)を用います。胴は一本彫り(丸太を中空にする)で作られることが多く、皮は湿った状態で張り付け、ロープや革ひもで締め上げて張力を作ります。現代では金属リングとロープシステム、合成皮(プラスチック製のヘッド)を用いた製品も普及し、耐久性や湿度への影響が改善されています。
各部の要点:
- 胴材:通常は堅木(例:アフリカン・ローズウッド類など)を用い、共鳴と耐久性を確保。
- ヘッド(皮):山羊皮がジェンベで一般的。厚みや処理で音色が変化。
- 張力システム:ロープテンション、スクリュー式チューニング(現代的)など。
奏法とリズム言語
アフリカンドラム演奏は手やスティック、あるいはそれらの組合せで行われます。ジェンベでは基本的に「バス(低音)」「オープントーン(中音)」「スラップ(高音)」の三種が基礎となり、それらを組み合わせて複雑なリズムを紡ぎます。西アフリカ音楽の特徴は多声的・多層的なポリリズムで、ベースライン、リズムのモチーフ、即興パートが同時に進行します。
トーキングドラムのように音高を変えることで「言葉」を模倣し、遠隔地とのコミュニケーションに用いられた例もあります(ただし情報伝達としての実用性は地域・文脈に依存します)。
社会的・文化的役割
太鼓は単なる楽器以上の意味を持ちます。結婚式、葬儀、成人儀礼、収穫祭、戦争の準備、秘密社会の儀式など、社会的な節目における中心的な役割を担ってきました。太鼓は物語(歴史・系譜)を伝える手段であり、コミュニティのアイデンティティや社会秩序の再確認にも寄与します。
また、近代以降は観衆向けの舞台芸術や観光産業、世界音楽シーンでも重要な位置を占め、国外の教育機関やアマチュアサークルを通して世界中に広まりました。
保存・継承、そしてグローバル化の影響
グローバル化は演奏機会と市場を拡大した一方で、伝統的な文脈や技術の希薄化という問題も生じさせました。伝統的な師弟関係やカースト的な楽器職人制度が断絶しつつある地域もあります。こうした状況に対応するため、地域のワークショップ、教育プログラム、博物館や研究機関による記録保存、専門家による再評価が進められています。
メンテナンスと扱い方の実務的注意点
- 湿度・温度管理:動物皮は湿度によって伸縮するため、高温乾燥や直射日光は避ける。必要に応じて湿気を与えて張り直す。
- 保管:衝撃から保護するケースや布で包む。屋外放置は避ける。
- チューニング:ロープ式は定期的に締め直し、金属部は腐食をチェックする。合成ヘッドは天候に左右されにくいが、音色は天然皮とは異なる。
- 修理:割れや剥離は早めに専門家へ。胴の割れは湿潤処理や接着で対処するが、根本的な修理は職人技を要する。
購入・学習時のポイントと倫理的配慮
購入時は以下を確認してください:
- 素材の出自(違法伐採木や保護動物の皮の使用がないか)
- 職人や地域コミュニティに正当な対価が支払われているか(フェアトレード)
- 楽器の用途(伝統儀礼で不可欠なものを商業ルートで買い取ることで地域文化が損なわれないか)
学ぶ際には、演奏技術だけでなく文化的背景や礼節を尊重することが重要です。伝統文化の一部を切り取って商用利用する場合、出所の明示や地域への還元を考えるべきです。
教育・普及の現場と著名な実践例
世界各地のワークショップ、大学の民族音楽コース、コミュニティスクールでアフリカンドラム教育が行われています。西アフリカの各地では地域の年長奏者が次世代に伝承する師弟制度が根付いており、これが演奏技術とレパートリーの中核を担っています。国際的には、民族音楽家やワークショップ指導者がツアーや教材を通じて技術を伝えています。
まとめ
アフリカンドラムは形も用途も多様であり、楽器としてだけでなく文化的・社会的な価値を併せ持つ重要な存在です。伝統の継承と現代への適応、そして市場化による利点と課題の両方を理解した上で接することが求められます。楽器としての音色や技巧の魅力に加え、その背後にある歴史・社会性を知ることで、より深い理解と尊重が可能になります。
参考文献
- Djembe — Britannica
- Talking drum — Britannica
- Smithsonian Folkways — African Music resources
- British Museum — Drums (collection & articles)
- John Chernoff, "African Rhythm and African Sensibility" (1979) — Google Books
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