モーツァルト「行進曲 ニ長調 K.290 (K6.167a/b)」徹底解剖:成立・編成・演奏のポイント
序論:モーツァルトの行進曲とは何か
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは交響曲や協奏曲、室内楽、オペラで知られますが、短く機能的な「行進曲(Marsch/Marcia)」も多数残しています。これらは宮廷や軍事、行列、劇場上演といった儀式的・実用的な用途に用いられ、気軽で明快な音楽語法が特徴です。本稿では、題名に「行進曲 ニ長調 K.290(ケッヘル第6版表記では K6.167a/b の表記が見られることがある)」とされる作品を中心に、その成立事情、楽曲構造、編成と演奏上の留意点、版と資料事情、実演と録音での扱いなどを詳述します。
成立と番号付け(ケッヘル目録の事情)
モーツァルトの作品番号付けは初期のケッヘル目録から後年の改訂版まで変遷があり、短小な行進曲や断片は番号や付随資料が混乱しがちです。K.290 とされる行進曲についても、旧来の目録や第6版(K6)での再配列により別表記(例:K6.167a/b)を見ることがあります。作曲年や用途については資料によって差異があり、はっきりとした確定年は示されない場合が多いことに留意してください。
楽曲の性格と機能
モーツァルトの行進曲は一般に短い二部形式(AとBの反復を含む)を採り、明瞭なリズム(付点リズムや四分音符+八分音符の典型的な行進リズム)と平明な旋律線を持ちます。K.290 とされる作品も例外ではなく、ニ長調というトランペットやティンパニと相性の良い調性を採ることで、屋外や式典での響きを意図している可能性が高いです。機能的音楽としての側面から、繰り返しや単純な和声進行が用いられ、情緒的な掘り下げよりも明確な動機提示と展開の単純化が特徴です。
形式と分析(主部・トリオ・再現)
典型的な行進曲の形式は、大きく分けて「主部(ストレイン)→反復→トリオ→反復→主部に戻る」といった構造をとることが多いです。ニ長調の行進曲では主部がトニック(D)を中心に展開され、トリオでは調性の変化(しばしば副調や下属調のG、あるいは属調のAが用いられる)が起き、色彩の転換が図られます。和声的にはダイアトニックな進行が主で、終止形は完全終止で明快に着地します。楽想の反復や対位的要素は最小限に抑えられ、合奏のまとまりを優先します。
編成とオーケストレーションの特徴
行進曲の編成は用途により柔軟ですが、典型的には弦楽合奏に対してトランペットおよびティンパニを加えた小編成オーケストラ、あるいは木管・金管を含む吹奏楽的な編成が考えられます。ニ長調は古典派の自然トランペットが鳴らしやすい調であるため、トランペットとティンパニの存在は実用的な配慮といえます。編曲や楽譜版によってはフルートやオーボエが旋律を補強し、弦は和音的な支持とリズム推進を担います。
楽譜・原典資料と版の問題
モーツァルトの短い行進曲群は自筆譜が必ずしも完全に残っているわけではなく、写譜や出版譜に依存することが多いです。ケッヘル目録やニュー・モーツァルト・アウスガーベ(NMA/Neue Mozart-Ausgabe)の各巻、さらには19世紀の出版物を比較することが重要です。版によっては繰り返しや装飾、実際の配器に差異があるため、演奏を準備する際には信頼できる原典版を確認することをお勧めします。
演奏上の実践的助言
- テンポ:行進曲らしい中庸のテンポ(過度に遅くせず、歩調を感じさせる適度な速度)を基準にする。実演用途(屋外/式典)ではややしっかりしたテンポが適する。
- アーティキュレーション:付点リズムや短いスタッカートを明確に。木管や弦のタンギング/弓使いで輪郭を出す。
- ダイナミクス:古典派の均整を保ちながら、主部とトリオのコントラストは明確に。トリオをやや柔らかくして戻る際に再び明るさを取り戻すのが効果的。
- ピッチと楽器選択:史的演奏(HIP)を志向する場合、自然トランペットと古典型ティンパニの使用を検討すると当時の色彩に近づく。
編曲・教育的活用
短く覚えやすい主題と明快な進行は、吹奏楽や学校行事、室内オーケストラのレパートリーとしても馴染みやすい素材です。ピアノ連弾や吹奏楽版、弦楽四重奏への編曲もしばしば行われ、教育現場ではリズム訓練や合奏の基礎指導に適しています。ただし、モーツァルトの器楽語法を損なわぬよう、過度なロマンティックな処理は避けるのが望ましいでしょう。
録音と参考演奏の選び方
この種の短い行進曲はフル・アルバムの中心にはなりにくく、モーツァルトの小品集や舞踏・軍楽集の一曲として収録されることが多いです。演奏を選ぶ際は、編成(原典に近いか)、テンポ感、アーティキュレーションの明瞭さを基準に聴くと良いでしょう。史学的な関心が強ければ、ニュー・モーツァルト・アウスガーベに基づく演奏や、古楽器団体の録音を優先してください。
作品の位置づけ:モーツァルトの実用音楽としての意味
行進曲はモーツァルトのキャリアにおける実用的な側面を示すもので、作曲家が宮廷・劇場・市民生活の様々な機会に即応して音楽を供給していたことを思い起こさせます。K.290 とされる行進曲は決定的な技術的挑戦を提示するものではありませんが、モーツァルトの軽妙さ、明晰な対位感覚、和声の手練れを短い中に凝縮しています。それゆえ本作は日常的な儀礼での機能性とともに、作曲技法の縮図として興味深い資料です。
結び:実用性と音楽性の両立
行進曲 ニ長調 K.290(K6.167a/b)を深く理解するためには、楽曲の短さに惑わされず、当時の用途、版の成立、楽器編成、そして演奏上の慣習を総合的に考えることが重要です。式典音楽としての実用性を保ちながらも、モーツァルトらしい旋律感と和声感覚が光るこの種の小品は、聴衆に即時的な効果を与えると同時に、古典派の様式的特徴を学ぶ格好の教材でもあります。
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参考文献
- Neue Mozart-Ausgabe(オンライン版) - Internationale Stiftung Mozarteum
- Köchel catalogue(ケッヘル目録) - Wikipedia(目録の改訂と表記について)
- IMSLP / Petrucci Music Library(楽譜検索・史料参照)
- Mozarteum Foundation Salzburg(モーツァルテウム財団)
- Bärenreiter(Neue Mozart-Ausgabe 出版元の一つ)
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