モーツァルト:ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191(K.186e) — 作曲背景と楽曲解説、演奏のポイント
概要
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの『ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191(K.186e)』は、1774年に作曲された作品で、モーツァルトがサンクト・ギルゲン/ザルツブルクの宮廷楽団の需要に応えて書いた管楽器のための協奏曲群の一つです。通称「ファゴット協奏曲」は、今日のファゴット・レパートリーの中でも特に重要な位置を占め、教育的にも演奏会用レパートリーとしても広く用いられています。
この協奏曲のケッヘル番号は K.191(改訂番号 K.186e)で、クラシック期の典型的な三楽章構成をとり、典雅で歌心に富んだ旋律と、楽器の特性を巧みに活かしたソロパートが特徴です。
作曲の背景と成立
1774年当時、モーツァルトは18歳。ザルツブルク宮廷での仕事を中心に、室内楽や協奏曲、宗教音楽など多岐にわたる作品を次々と作曲していました。宮廷楽団には多くの有能な奏者が在籍しており、モーツァルトはその個々の奏者のためにソロ作品を作ることが多く、このファゴット協奏曲もそうした需要に応えた一例と考えられます。
曲の成立年やケッヘル目録の番号に関しては、後の研究で番号の改訂が行われたため K.191 と K.186e の二つの表記が見られます。作品そのものは当時のコンサートや宮廷で演奏されることを想定した、比較的コンパクトで明快な造りになっています。
編成と楽器法
編成はソロのファゴットと弦楽合奏、および2本のホルン(当時の自然ホルン)を伴うのが標準的です。弦楽器が伴奏の中心をなす中で、ホルンは主に和声的な支えや色彩を与える役割を果たします。モーツァルトはファゴットの低音域の豊かな音色と、上行する歌うような音形を巧みに使い分け、楽器の幅広い表現力を引き出しています。
楽章ごとの分析
第1楽章:Allegro(変ロ長調)
第1楽章は典型的なソナタ形式。主題は明快で歌謡性があり、ホルンや弦との対話を通じて展開が進みます。ソロ・ファゴットは魅力的な歌唱線を担当する一方で、アーティキュレーションやスタッカート、跳躍を含む技術的側面も提示されます。提示部の再現や展開部では調性の動きを利用してドラマを作りつつも、全体としては古典的な均衡感が保たれます。
第2楽章:Adagio(変ホ長調)
第2楽章は第一楽章の主調の下属調である変ホ長調による緩徐楽章で、深い歌唱性と詩情が特徴です。ファゴットはまるで人声のように長いフレーズを紡ぎ、装飾的だが過度に技巧に走らないラインが求められます。伴奏は控えめで和声の色合いを作り、ソロを引き立てる役割を担います。ここは表現力とレガート技術が試される楽章です。
第3楽章:Rondo(Tempo di menuetto、変ロ長調)
終楽章はメヌエット風のロンド形式で、躍動感と明るさを取り戻します。主題(A)と中間主題(B/Cなど)の往復によって構成され、時に舞踏的なリズム、時に軽快なトリルや装飾が現れます。終楽章では技巧的なパッセージも登場し、演奏者の音色のコントロールとリズム感が重要になります。
演奏上のポイント
- 音色のバランスと歌心:ファゴットは低音域の太さと中高域の歌唱性の両方を持つ楽器であり、各楽章で求められる表現は異なる。特に第2楽章ではレガートと息継ぎの位置が作品の歌の流れを左右する。
- アーティキュレーション:古典様式に則った明快なアーティキュレーションが重要。短いパッセージでは明瞭さを保ちつつ、旋律線では柔らかさを造る必要がある。
- カデンツァと即興性:この協奏曲にモーツァルト自身のカデンツァが伝わっているわけではないため、歴史的な慣習に従い即興的な装飾や後世の作曲家・奏者によるカデンツァを用いることが多い。演奏スタイルに応じて、控えめな装飾から技術的に派手なカデンツァまで幅がある。
- オーケストレーションとのバランス:ホルンと弦の扱いに注意し、特に低音域やフォルテの場面でソロが埋もれないようダイナミクスを調整すること。
受容と影響
モーツァルトのファゴット協奏曲は以降のファゴット・レパートリーにおける基準のひとつとなり、教則的にも演奏会的にも頻繁に取り上げられます。モーツァルトらしい優美さと古典的な構築感が、初学者から熟練者まで幅広い演奏家に支持される理由です。また、同時代の他の管楽器協奏曲(ホルン、オーボエ、ファゴットなど)と同様に、楽器の音色と技術を古典様式の中で示すモデルケースとも言えます。
楽曲の版と校訂
この作品は長年にわたり多くの版が刊行され、現在では新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe)や信頼できる校訂版を基に演奏されることが多いです。原典版や手稿譜の研究により、装飾や強弱の解釈に関する理解が深まり、演奏の多様性が広がっています。
学習・オーディションでの位置づけ
技術的要求はそれほど過酷ではない一方、表現の幅や古典様式の理解が求められるため、多くの教育機関やオーケストラのオーディションで標準的に取り上げられます。音程の正確さ、フレージングの整合性、楽句感の明確化が評価の要点になります。
聴きどころとおすすめの聴取法
- 第1楽章:主題提示と展開の対比、ファゴットの技巧的要素に注意して聴く。
- 第2楽章:歌唱ラインと伴奏の繊細な色彩、呼吸の位置やレガートの繋がりに注目することで、モーツァルトの抒情性がより深く伝わる。
- 第3楽章:ロンド主題の親しみやすさと中間エピソードの変化、最後のまとめ方の爽快感を楽しむ。
演奏・録音の参考
録音は古楽器・歴史的演奏法を採るものから、現代楽器での演奏まで多彩です。解釈の違いを聞き比べることで、この作品の多様な表現可能性を実感できます。また、ソロのファゴットの個性や音色の違いが作品の印象を大きく左右するので、数種類の録音を聴き比べることをおすすめします。
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参考文献
- IMSLP: Bassoon Concerto in B-flat major, K.191 (Mozart) — 楽譜および原典資料
- Wikipedia: Bassoon Concerto (Mozart) — 概要と参考文献一覧
- AllMusic: Bassoon Concerto in B-flat major, K.191 — 解説と録音案内
- Neue Mozart-Ausgabe (Mozarteum) — 校訂版情報
- Oxford Music Online / Grove Music — モーツァルト作品論(参照用)
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