モーツァルト:ホルン協奏曲第4番 K.495(変ホ長調) — 歴史・構成・演奏解釈と聴きどころ
モーツァルト:ホルン協奏曲第4番 変ホ長調 K.495(1786)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのホルン協奏曲第4番 K.495(変ホ長調)は、1786年に作曲された作品で、同年に活躍していた古典派の室内楽的感覚と歌謡性がよく表れている協奏曲の一つです。通称「第4番」として親しまれ、自然ホルン(ナチュラル・ホルン)を前提に書かれた楽器習性を活かす旋律、狩猟風の効果音、そして穏やかで歌うような緩徐楽章が特徴です。作曲の目的は当時の名手ヨーゼフ・ロイトゲープ(Joseph Leutgeb)への委嘱(または献呈)とされ、ロイトゲープのために音域や技法が考慮されていることが知られています。
歴史的背景と成立
1786年、ウィーンで活躍していたモーツァルトはオペラ『フィガロの結婚』の成功(同年初演)や絶え間ない作曲活動の最中に、コンサートやサロンで演奏されるための器楽曲も数多く手がけています。ホルン協奏曲は、彼の晩年に近い時期に書かれた作品群の一部で、いずれも友人ロイトゲープに宛てたものと考えられています。モーツァルトはロイトゲープの演奏技術と楽器の制限を熟知しており、それが楽想の生き生きとした写実性につながっています。
楽器編成
- 独奏ホルン(当時はナチュラル・ホルン。楽譜は変ホ長調)
- 弦楽合奏(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)
- 木管:オーボエ2(編成によっては省略や代替あり)
- 副次的にオーケストラの意匠としてホルン2(通奏低音的役割)を置く版もある
この編成は典型的な古典派の協奏交響的伴奏で、独奏ホルンの音色を際立たせつつも室内楽的な対話を可能にします。
楽曲の構成と形式
一般に3楽章構成で演奏され、所要時間は演奏解釈によりますがおおむね15〜18分程度です。各楽章の性格は以下の通りです。
- 第1楽章: Allegro(ソナタ形式)
明るく雄大な主題で始まり、ホルンは開放音(オープンノート)を活かした長い歌い回しと華やかな跳躍を見せます。伴奏は和声の確立と主題提示の役割を果たし、展開部ではホルンと弦楽の掛け合い、短い模倣を含みつつも全体としては軽やかな古典様式に収束します。ホルンの自然的制約を考慮した書法(開放音と手止めの使い分け、狩猟風フレーズ)はここで明瞭に表れます。
- 第2楽章: ロマンス(Larghetto/Adagioなどの緩徐楽章)
歌うことを主眼に置いた緩徐楽章で、ホルンの暖かい中音域が生きる心地よい旋律が続きます。自然ホルン特有の柔らかい倍音と手の位置での微妙な色彩変化が、この楽章では特に魅力的です。和声は穏やかで、シンプルな伴奏に乗って独奏が詩的に歌います。装飾やテンポの揺れ(ルバート)は歴史的演奏慣習に基づき適度に取り入れられることが多いです。
- 第3楽章: ロンド(Rondo:Allegro)
陽気でリズミカルなロンド主題が繰り返され、間に挟まるエピソードで多彩な表情を見せます。狩猟風のリズムや短い呼びかけに由来するフレーズが散りばめられ、終結に向けて活気を増してゆきます。形式上は古典的なロンド(ABACAなど)を基にしており、ホルンの技術的見せ場も多く、終楽章として爽やかに締めくくられます。
楽想とホルン特性の関係
モーツァルトのホルン協奏曲は自然ホルンの物理的・音色的制約を前提に作曲されています。自然ホルンはピストンやロータリーで半音を自由に作れないため、特定のキー(この場合は変ホ長調)が扱いやすく、開放音(自然倍音列)を中心としたフレーズが書かれる傾向があります。モーツァルトはその特性を活かして、開放音による純度の高い旋律、手の位置による色彩変化、そしてハント(狩猟)的モチーフや呼びかけを効果的に取り入れました。
演奏上の注意点(現代楽器とピリオド・アプローチ)
- 現代のロータリー/ピストン式ホルンで演奏する場合、音色はより均一になり、かつ技術的には容易ですが、ナチュラル・ホルンの持つ倍音の明瞭さや手止めによる色彩変化を意識して表現する必要があります。
- 歴史的演奏(ピリオド・パフォーマンス)を目指す場合、ナチュラル・ホルンを用いることで当時の音色とニュアンスを再現できますが、音程とダイナミクスの管理が難しく、それ自体が表現手段ともなります。
- カデンツァについて:モーツァルト自身が詳細なカデンツァを書き残していないため、演奏家は自作あるいは後世の作家が作ったカデンツァを用いるか、自ら即興または作曲的にカデンツァを準備します。古典派の様式を踏まえた抑制の効いた装飾が好まれます。
- テンポ設定やフレージングは、ホルンの自然な息継ぎやフレーズの歌わせ方に合わせ、伴奏との対話を重視して決定するとよいでしょう。
分析的聴取ガイド(楽章ごとの聴きどころ)
- 第1楽章
冒頭の主題提示でホルンの音色と旋律線を確認してください。中間部の展開ではホルンが短い動機を繰り返し提示し、弦との呼応やハーモニーの転調による色彩変化を聴き取ると構成が見えてきます。
- 第2楽章
旋律の歌わせ方、ポルタメント的な表現や手止めによる色合いの変化に注目します。伴奏は控えめで、独奏のフレーズの余韻をどのように伴奏が受け止めるかを聴いてください。
- 第3楽章
リズムの切れと軽やかな反復、ロンド主題の戻りごとに表情をどう変えるかを聞き比べてください。終結部に向けての勢いの付け方も聴きどころです。
位置づけと受容
モーツァルトのホルン協奏曲群は、ホルンという楽器のソロ・レパートリーにおいて重要な位置を占めます。第4番は、技術的な見せ場だけでなく、旋律美と楽器の歌心を最大限に生かした作品として、ソロ奏者から聴衆まで広く愛されています。歴史的にはロイトゲープとの交流や宴席での演奏が想像され、今日ではコンサート・プログラムや録音で頻繁に取り上げられます。
録音・演奏を選ぶ際のヒント
- 古典派の均整を重視する演奏と、ロマン派的表現や個性的な色付けをする演奏とでは印象が大きく異なります。演奏スタイルによりテンポやルバートの使い方、カデンツァの有無が変わる点に注目してください。
- ピリオド楽器(ナチュラル・ホルン)による録音は、当時の音色や音程の揺らぎも含めた歴史的な響きを得られます。一方で、現代楽器(バルブ式ホルン)では技術的な明瞭さとダイナミックな表現が生きます。それぞれの特色を聴き分けると楽しみが広がります。
まとめ
ホルン協奏曲第4番 K.495は、モーツァルトの旋律的才能と古典派の形式感が絶妙に融合した作品です。自然ホルンの特性を反映したフレーズ、歌うような緩徐楽章、そして活発なロンドが三位一体となり、聴く者に親しみやすさと深い音楽的満足を与えます。演奏史的にも解釈の幅が広く、ピリオド奏法と現代奏法のいずれにも魅力があるため、何度でも聴き返す価値のある協奏曲です。
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参考文献
- Wikipedia: Horn Concerto No. 4 (Mozart)
- IMSLP: Horn Concerto No.4, K.495(楽譜)
- Encyclopaedia Britannica: Mozart — Horn concertos
- Neue Mozart-Ausgabe(デジタル・モーツァルト全集)
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