モーツァルト 弦楽四重奏曲第5番 K.158(ヘ長調)徹底解説 — 作曲背景・楽曲分析・聴きどころ

作品概要

『弦楽四重奏曲第5番 ヘ長調 K.158』は、モーツァルトが1772年(または1772-1773年頃)に作曲した弦楽四重奏曲のひとつで、ケッヘル目録ではK.158と番号付けされています。本作はしばしばK.155〜160の一連に含められ、「ミラノ/イタリア時代の弦楽四重奏曲群(Milanese quartets)」の一部として扱われることが多いです。短い楽想ながらも、当時の様式感とモーツァルト独特の歌謡性が同居しており、初期の室内楽の中で魅力的な位置を占めています。

作曲の背景と歴史的文脈

1770年代初頭、モーツァルトはイタリアを含む演奏・作曲の旅を続けていました。この時期の作品にはイタリア・オペラの影響や、宮廷・市民のサロンで求められる『聞きやすさ』が色濃く表れています。弦楽四重奏という編成自体は、ハイドンが牽引したジャンルであり、ハイドン作品の影響は若きモーツァルトにも及んでいました。ただし、本作ではハイドン流の対位法的発展性よりも、旋律の自然な流れや軽妙な対話、ガランとした(galant)様式が際立ちます。

編成・演奏時間

標準的な弦楽四重奏の編成(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)で書かれ、演奏時間は録音やテンポの取り方によって前後しますが、概ね10〜15分程度の比較的短い曲です。四楽章形式をとるのが通常で、古典派の典型的な配置(速い楽章—遅い楽章—メヌエット—速いフィナーレ)となっています。

楽曲構成(概説)

  • 第1楽章:序奏的ではなくすぐに主題が提示される短調と長調の交錯がなく、明快で歌うような第1主題が中心。ソナタ形式の骨組みを感じさせるが、展開部は比較的簡潔。
  • 第2楽章:緩徐楽章。歌のような旋律線が主眼で、弦楽器同士の柔らかな掛け合いが聞きどころ。
  • 第3楽章:メヌエットとトリオ。古典的な舞曲の形式に則りつつ、モーツァルトらしいリズムのひねりや小さな装飾が現れる。
  • 第4楽章:終楽章は快速で軽快な性格。短い動機の連結や対位的な掛け合いによって締めくくられる。

主題と様式の特徴

本作では、第一ヴァイオリンに歌わせる場面が多く、モーツァルトの『オペラ的』なメロディー感覚が室内楽の語法に取り込まれているのが特徴です。一方で、弦楽四重奏という室内楽の性格上、楽器間の対話(テーマの受け渡しや応答)も随所に見られますが、後年の成熟した弦楽四重奏曲群に比べると、役割分担はやや一面的で、旋律主体のホモフォニックな書法が中心です。

和声と形式的な工夫

和声的には古典派初期の明快な調性感が保たれており、主調の明るさ(ヘ長調)が全体を支配します。展開部における転調は比較的穏やかで、第二主題や中間部で短い遠隔調への顔出しがあるものの、急進的な転調実験は見られません。形式面ではソナタ形式や変奏的な要素を簡潔に扱うことで、聴き手に即時的な満足感を与えます。

楽器間のバランスとテクスチャ

第1ヴァイオリンに主旋律が多く与えられるものの、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが伴奏だけにとどまらず時折主題提示や装飾を分担します。チェロは低音の支えとしての役割だけでなく、旋律線を引き継ぐ場面もあり、モーツァルトの室内楽におけるテクスチャの起伏が味わえます。全体としては「対話的でありながらも聴かせる」バランスが取られています。

聴きどころ・演奏上のポイント

  • フレージングの歌わせ方:第一主題の歌い出しはシンプルだが、その内的呼吸をどう作るかが演奏の印象を左右します。ヴィブラートやポルタメントは過度に用いず、古典的な端正さを保つことが肝要です。
  • テンポとアゴーギク:緩徐楽章やメヌエットではテンポの弾力(rubato)を抑えめにして、リズムの均衡を重視すると古典派的な響きが出ます。
  • ダイナミクスの扱い:声部間のバランスを意識し、伴奏パートが埋もれないようにしつつも旋律を際立たせる微妙なタッチが求められます。
  • アンサンブルの精度:短い動機の受け渡しや切れ目のあるフレーズでは、音の立ち上がりと切れの統一が演奏の洗練度を決めます。

他作品との比較・位置づけ

K.158はモーツァルトの初期弦楽四重奏の一つであり、ハイドンの四重奏曲から影響を受けつつも、モーツァルト特有の歌謡性と簡潔な構成感が前面に出ています。後の『ハイドンへの6つの四重奏曲』(K.387 ほか)ほどの構造的発展や対位法の技巧は見られませんが、若きモーツァルトの創作の方向性(旋律の美しさ、器楽的会話性の模索)が読み取れる重要な作品です。

楽譜・録音を選ぶときのアドバイス

楽譜については、原典に近い写しや校訂版を参照するのが望ましいです。IMSLPなどで原典版や校訂譜が入手できるため、演奏や分析の際は複数版を照合すると解釈の幅が広がります。録音は時代を超えた名演が多数ありますが、演奏スタイルによって印象が大きく変わるので、古典的な団体(例:Amadeus Quartetなど)と古楽・歴史的奏法に基づく演奏(例:Quatuor Mosaïques のような古楽系四重奏団)を聴き比べると面白い発見があります。

聴きどころの具体的な場面

・第1楽章の冒頭:短いが耳に残る主題の提示。ここでのフレージングが楽曲全体の印象を決める。 ・第2楽章の歌い回し:オペラ的なアリアを思わせる旋律線が現れ、ヴァイオリンとヴィオラの掛け合いに注目。 ・メヌエットのリズム感:舞曲らしい躍動と、ところどころに見える小さな装飾的パッセージが巧みに配置されている点。

まとめ

K.158は構造的には簡潔でわかりやすく、モーツァルトの若年期における室内楽の魅力が詰まった作品です。ハイドン的な伝統とイタリア的な歌謡性が交差する点、そして楽器間の会話性を楽しめる点が大きな魅力です。演奏・鑑賞の際はフレーズの歌わせ方、テンポ感、アンサンブルの微細な調整に注目すると、新鮮な発見があるでしょう。

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参考文献