モーツァルト 弦楽四重奏曲第6番 K.159 — 深読みガイドと聴きどころ
モーツァルト:弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K.159(1773) — 概要と位置づけ
弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K.159 は、モーツァルトが十代後半(1772–1773年頃)に作曲した一連の初期四重奏曲群(K.155–160)の一曲として位置づけられます。モーツァルトは当時イタリア滞在やヨーロッパ各地での交流を通じて、室内楽の様式やオペラ的な表現を吸収しており、その学習過程がこの時期の四重奏曲に色濃く反映されています。K.159は全体として明るい変ロ長調の写し出す古典様式の雅やかさと、まだ発展途上にある作曲家の実験性が同居する作品です。
歴史的背景:若き作曲家の学習と影響
1773年当時、モーツァルトは17歳前後で、イタリア遠征を終えた直後、あるいはその前後の時期にあたります。彼はハイドンの弦楽四重奏やイタリアの器楽様式、さらには当時の宮廷音楽やオペラの語法に触れることで、四重奏という編成に対する新しい視点を獲得していきました。K.159 を含む一連の作品では、第一ヴァイオリンが主導する“ソロ的”な役割と、他の3つの声部が対話的に絡む様式が見られます。これは後の《ハイドン四重奏曲》群へと至る過程での重要な萌芽です。
楽曲構成と形式の特色(概説)
初期のモーツァルト四重奏では、古典派の標準的運動形式(速—中—速あるいは速—緩—速)を採ることが多く、K.159 も例外ではありません。第一楽章はソナタ形式の枠組みを基に、平明で歌うような主題と、それを展開していく対位法的要素を含みます。第二楽章(あるいは内的楽章)は穏やかな歌唱を重視した緩徐楽章やメヌエット(舞曲)で、古典期の均整の取れた装飾や対位的処理が見られます。終楽章はロンド的要素や短いソナタ形式を混在させ、主題の再現と変奏を通じて作品全体を明快に閉じます。
詳細な音楽分析(聴きどころ)
- 主題の語法と歌い回し:K.159の主題は古典的な対句構造(呼吸点で区切られた二つのフレーズ)をもち、歌うことを第一としたメロディーラインが特徴です。モーツァルト特有の“呼吸感”と短い装飾句が随所に現れ、単純に見える主題が微妙なリズムのずれや裏拍の強調で生き生きと動きます。
- 対話的なアンサンブル:初期作品ながら四重奏としての〈会話性〉が意識されており、第一ヴァイオリンが主導する場面と、第二ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロが独自の応答を行う場面が交互に現れます。特にチェロには単なる低音陪伴を越えた独立した主張が見られ、後年の室内楽作品への布石となっています。
- 和声と転調の運用:変ロ長調という調性は、近接調(フーガントな属調や平行調)への移行が自然であり、モーツァルトはこれを古典的語法の範囲で巧みに利用します。短い副次主題や橋渡しの部分では二次音による色彩感や減七の導入が行われ、表面的な明朗さの陰で巧妙な和声計算が働いています。
- 形式の凝縮とコントラスト:初期作ゆえに各楽章は比較的短く、無駄のない構築がなされています。一方で、短い中にもティンバー(音色)やダイナミクスのコントラストを効果的に配置し、聴き手の注意を引き続けます。
演奏上の留意点と解釈の指針
演奏者は以下の点を意識すると、K.159 の魅力を引き出せます。
- フレージングは歌うことを優先し、句の終わりでの自然な減衰や短いルバートで呼吸感を表現する。
- 第一ヴァイオリンに偏りがちな主題を、他パートとのバランスで協働的に響かせる。対話的要素を強めることで室内楽の深みが出る。
- 古典期の演奏習慣(やや軽めのアーティキュレーション、必要最小限のヴィブラート)を意識することで、透明感ある響きが得られる。
- 和声的な転換点や短い副主題には細やかなダイナミクス変化を与え、構成音型の違いを明瞭にする。
K.159 の位置づけと今日の受容
一般的にモーツァルトの〈後期〉四重奏曲群(いわゆるハイドンへの献呈四重奏曲など)ほど高頻度で演奏されることは少ないですが、K.159 を含む初期四重奏には独自の魅力があります。それは「学びの痕跡」としての純粋さ、素材を無駄なく扱う技巧、そして若々しい創意にあります。今日では、歴史的演奏法を採るアンサンブルや、モーツァルト四重奏曲全曲セットを録音する主要カルテットの手により再評価が進んでいます。
聴きどころまとめ(実践的ポイント)
- 冒頭の主題の“呼吸”とフレーズ終端の処理に注目する。
- 中間部でのパート間の応答や、チェロの独立した線を追いかけると新たな発見がある。
- 短い楽章ごとの対比(速さ・強弱・音色)を明確に感じ取り、古典期の均衡感を味わう。
- 同時代の作品(ハイドン、イタリアの室内楽)と並べて聴くと、影響関係やモーツァルトの個性が浮かび上がる。
推薦図書・参考視聴の探し方
専門的な解説を読みたい場合は、学術資料や新版楽譜(Neue Mozart-Ausgabe 等)にあたるのが確実です。録音は全集録音や歴史的演奏法を採るカルテットの演奏を比較することで、表現の幅を知ることができます。特に、古典派のフレージングやアーティキュレーションを重視する演奏と、現代的な豊かな音色でまとめる演奏の違いは本作の理解を深めます。
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参考文献
- IMSLP: String Quartet No.6, K.159 (Mozart) — 楽譜の参照に便利です。
- Mozarteum - Neue Mozart-Ausgabe / Digital Mozart Edition — 正確な校訂版や原典資料を確認できます。
- Oxford Music Online (Grove) — モーツァルトや弦楽四重奏の概説、学術的背景の参照に有用です(購読制)。
- Wikipedia: String Quartet No.6 (Mozart) — 基本的な情報の概観に便利です(詳細は上記一次資料で確認してください)。
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