モーツァルト 弦楽四重奏曲第7番 変ホ長調 K.160(K.159a)──若き日の技巧と対話性を聴く
概要
弦楽四重奏曲第7番 変ホ長調 K.160(旧番号 K.159a)は、1773年に作曲されたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの若年期の弦楽四重奏曲の一曲です。当時のモーツァルトは17歳。管弦楽曲やオペラ制作で既に秀でた才能を示していましたが、弦楽四重奏という室内楽フォーマットにおいても対話的な書法と古典的な形式感覚を示しています。本稿では作品の成立背景、楽曲構成、各楽章の音楽的特徴、演奏上の留意点、版と資料、そして聴きどころを深掘りします。
成立と歴史的背景
1773年のモーツァルトはサロン音楽や神聖な儀礼曲、オペラの台本曲など、多様なジャンルに取り組んでいました。弦楽四重奏という編成は18世紀後半にますます重要性を増しており、ハイドンをはじめとする作曲家たちの影響が色濃く反映されます。モーツァルトは既に室内楽における声部間の対話性に興味を持っており、K.160でも各声部を均等に扱う「会話」の技術が明瞭に示されています。
番号と版について(K.160 / K.159a)
本作はケッヘル目録において K.160 と標記されることが一般的ですが、旧来の版や目録では K.159a と併記されることがあります。ケッヘル目録はモーツァルト作品の成立年代や写譜事情の変遷により番号付けが調整されてきたため、複数の表示が残っています。正確な校訂譜・原典版を参照する際は、デジタル・モーツァルト・エディション(Digital Mozart Edition)や新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe)に基づいた版を用いるのが望ましいでしょう。
楽章構成と全体の特徴
本作は典型的な古典派の四楽章構成をとります(第1楽章:ソナタ形式を基盤とした速い楽章、第2楽章:緩徐楽章、第3楽章:メヌエットとトリオ、第4楽章:活発な終楽章)。各楽章において、主題の対位法的展開、声部間の応答、及び調性間の明快な駆け引きが作品の魅力となっています。若い作曲家としての瑞々しい旋律感と、既に習熟した古典的形式感覚が両立している点が聴きどころです。
第1楽章(概観と分析)
第1楽章はソナタ形式を基盤にしつつ、提示部の主題提示が明瞭で歌唱的です。主調の変ホ長調における安定感と、属調(変ロ長調)や短調領域への短い逸脱が、若々しい緊張感を生みます。第1主題は弦楽合奏風の力強い声明として現れ、第二主題では各声部が旋律を受け渡す対話的な書法が顕在化します。展開部では短い動機の断片が並べられ、転調と断続的なシーケンス(連続模倣)によって緊張が増幅され、再現部で調和的に回収されます。
第2楽章(緩徐楽章)の特色
緩徐楽章は歌詞的で内省的な性格を持ち、変ホ長調の持つ温かさが前面に出ます。ヴァイオリンによる装飾的な旋律と、中低声部の伴奏的な和音進行がバランスよく配され、時折現れる短調色が楽章に深みを与えます。モーツァルトはここで旋律的な呼吸と均整の取れたフレージングを練習しており、若いながらも成熟した音楽語法を感じさせます。
第3楽章(メヌエットとトリオ)
古典様式のメヌエットは舞曲的リズムを基礎にしつつ、内部に小さな対位的な仕掛けを織り込みます。トリオ部分では編成の色彩が変わり、楽器間の対比によって曲の構造が明示されます。踊りの性格を失わない範囲で、モーツァルトはリズムの変化やアクセントの移動を用いて聴衆の注意を引きつけます。
第4楽章(終楽章)のダイナミクスと形態)
終楽章は活発で軽快な性格を持ち、主にロンド風やソナタ・ロンド的な要素を含んでいます。主題の反復と変奏、短い模倣や瞬間的な対位によって曲は迅速に進み、最終的には調性上の安定を回復して締めくくられます。全曲を通じて聴かれるのは、表面上の簡潔さと内面に潜む技巧の両立です。
作曲技法と影響
K.160ではハイドンや当時の室内楽慣習の影響が明瞭です。モーツァルトはハイドン流の主題展開や対位法を学びつつ、自身の歌謡的な旋律線を融合させます。使用される和声進行は古典派の規範に則りつつも、ところどころに若々しい斬新さ(大胆な転調や短いモティーフの発展)を見ることができます。また、各声部をほぼ対等に扱う点は、室内楽の『会話』としての理想を早くから具現化している証左です。
原典・版と資料
校訂譜を選ぶ際は、原典に基づく信頼できる版を選ぶことが重要です。デジタル・モーツァルト・エディション(Digital Mozart Edition)や新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe)は、写譜資料や初期の出版譜を比較した上で注記を付しており、研究・演奏双方に有益です。また、パート譜の誤記や後補の装飾が入っている場合があるため、アーティキュレーションやダイナミクスは楽譜の注記を確認しつつ演奏者の判断で整えることが推奨されます。
演奏上のポイント(実践的アドバイス)
- 編成と音量の均衡:古典派の室内楽は声部間の対話が命。第一ヴァイオリンが旋律を取る場面でも内声を軽視しない。
- アーティキュレーション:長い音の支えは安定させつつ、短いフレーズは明瞭に切る。スタッカートとレガートの対比を効果的に使う。
- テンポ設定:緩徐楽章は歌うことを優先し、終楽章は軽快さを失わない範囲で躍動させる。過度に速くすることで失われる呼吸に注意。
- 歴史的演奏法の活用:ピリオド・インストゥルメンツ(ガット弦、古典型ボウ)を用いると、当時の音色感やレスポンスが再現され、テクスチャの透明性が増す。
聴きどころ(ガイド)
・第1楽章:主題の提示とその後の分割、対位法的な応答を追ってください。どの声部が主題を支配するかが頻繁に移り変わります。
・第2楽章:旋律の呼吸、装飾の位置、内声の和声的役割に注目。短調への一時的な移行が感情の深みを作ります。
・第3楽章:リズムの揺れと舞曲性。トリオでの色彩変化を味わってください。
・第4楽章:反復主題とその変化、終結部へのビルドアップを聴き取ると、モーツァルト若年期の構成力が見えてきます。
録音と解釈の楽しみ方
本作は録音が限られることもありますが、複数の演奏を比較することで解釈の幅が見えてきます。近年の歴史的演奏運動(HIP)に基づく演奏は音色とフレージングで新たな発見を与え、モダン楽器の演奏は音の厚みやダイナミクスで別の説得力を持ちます。演奏年代や用いる楽器に注目して聴き比べると、作品の多面性がより明瞭になります。
まとめ
弦楽四重奏曲第7番 K.160(K.159a)は、若きモーツァルトが古典的形式と個性的な旋律感を統合し始めた重要な作品です。対話的な声部配置、古典派の均整の取れた構造、そして時折覗かせる冒険的な和声は、後の成熟した作品群への橋渡しとなります。研究者・演奏者・愛好家それぞれが異なる角度から楽しめる作品であり、室内楽としての魅力を余すところなく持っています。
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参考文献
- IMSLP: String Quartet No.7 in E-flat major, K.160 (スコアとパート譜)
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルト・エディション)
- Oxford Music Online / Grove Music Online(Mozart項目)
- Wikipedia: String Quartet No. 7 (Mozart)
- Mozarteum Foundation Salzburg(モーツァルテウム財団)
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