モーツァルト:バスーンとチェロのためのソナタ 変ロ長調 K.292 — 真贋・様式・演奏の読み解き

作品概説──K.292とは何か

「モーツァルト:バスーンとチェロのためのソナタ 変ロ長調 K.292(K6.196c)」(以下、本作)は、しばしばヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに帰属される小品として紹介されます。ただし、その成立年として伝えられる1775年という日付や作曲者の確実性については、研究上の議論が残されています。楽譜が伝来した経緯や筆写稿の所在、楽想の様式的特徴などから、真作か模作・編曲かをめぐって見解が分かれているのが現状です。

目録番号と資料事情

通称「K.292」と表記されることがありますが、ケッヘル目録の改訂(第6版など)で番号の振り直しや併記が行われてきたため、文献によっては K.196c や別番号で扱われる場合があります。作品の原典(自筆譜)が現存するか、あるいは筆写譜や後世の編曲楽譜のみで伝来しているかが、帰属判断の重要な鍵です。現存する写譜が作曲当時のものか、後補の装飾や改変を含むかといった書誌学的検証が行われています。

編成と楽器の役割

標題どおりの編成、すなわちバスーンとチェロのデュオという編成自体は古典派期においては珍しいものではありません。17世紀末から18世紀にかけては、低音域の重なりや対話を楽しむために、バスーンが旋律を担当し、チェロが通奏低音を補うという編成が見られます。本作でも、伝統的なバロックから古典への移行期にある書法──バスーンが独立した旋律線を受け持ち、チェロが伴奏的に支える場面と、両者が対等な二重奏を繰り広げる場面とが混在している可能性が高いと考えられます。

様式分析(概念的な読み解き)

真作であると仮定して考察すると、1775年前後のモーツァルトは交響曲やソナタ類で古典様式の特徴を明確に示し始めた時期です。本作にもしっかりとした主題提示と経過句、展開(あるいは模倣処理)、再現に相当する構成要素が見られれば、古典的ソナタ形式や二部形式に基づく小品として捉えられます。

一方で、もし様式上に18世紀前半のガバメントや室内楽的な通奏低音の痕跡が強ければ、作曲者がモーツァルト以外(あるいは編曲者の介入)である可能性が高まります。和声進行、主題の動機処理、装飾音の扱い(トリルやアッペジャトゥーラの書法)などが検討ポイントです。

演奏上の特徴と留意点

  • 対話性:バスーンとチェロの音色差を活かしつつ、フレージングで互いの主張と呼吸を調整する。バスーンは歌うように、チェロは支えつつ時に応答する役割を担う。
  • ピッチと調性感:古典派の曲を演奏する際、古楽器(バロック/古典派型)を用いる場合はピッチ(例えばA=430〜415Hz)や調性の色合いが変わる。モダン楽器で演奏する場合は響きのバランスに注意する。
  • アーティキュレーション:短い句ごとの音価処理、軽やかなスタッカートとレガートの対比をはっきりさせると、古典派の明晰さが引き出せる。
  • 装飾とインプロヴィゼーション:当時の慣習に鑑み、トリルや小さな装飾は文脈に応じて加減する。過度なロマンティック処理は避け、様式に忠実な節度が望ましい。

楽譜・版の問題点

本作に関しては、複数の写譜や近代版が存在する可能性があります。これらの版は校訂者の判断が反映されているため、音符の長さや装飾、休符の取り扱いに差異が生じることがあります。演奏や録音を行う際は、可能な限り一次資料(自筆譜や初出譜)に近い版を参照し、注釈や校訂報告を確認することが推奨されます。Neue Mozart-Ausgabe(新モーツァルト全集)やその他の批判版があれば、それらを根拠に解釈を固めるのが安全です。

真贋論争──どこが焦点か

学術的な真贋論争の焦点は主に次の点に集約されます:

  • 筆跡・写譜学的証拠:自筆譜の有無、写譜の筆者や年代の特定。
  • 様式的一致性:旋律の処理、和声進行、対位法的処理などがモーツァルトの他の同時期作品と整合するか。
  • 出典の伝来経路:楽譜がどのように流布し、どの版が初出か。版に付された献辞や注記も手がかりになる。

これらを総合して判断するのが通例で、どれか一つの証拠だけで決着することは少ないのが現実です。結論が出るまでの間、本作は「モーツァルトに帰属されることがある作品」として扱われることが多いでしょう。

レパートリーとしての位置づけと現代的評価

バスーンとチェロという珍しい組合せは、古典派の室内楽レパートリーの中で特異な魅力を放ちます。研究者や演奏家は、作品の歴史的意義だけでなく、音色の対比や二重奏としての可能性を評価して取り上げることが多いです。コンサート・プログラムに組み込む際には、同時代の他の室内楽(弦楽五重奏や木管五重奏など)と並べて、様式や楽器編成の対照を提示すると聴衆にも分かりやすいでしょう。

実演・録音を試みるなら──具体的なアプローチ

  • 原典参照:可能な限り一次資料に当たる。自筆譜や初出譜の注記を確認する。
  • 楽器選定:古典派の色調を出したければ古楽器(ガダン型バスーンや古典的チェロ弓)を検討する一方、現代音楽会で聴衆に伝えるなら現代楽器でも十分。
  • アンサンブル練習:音量バランスとアタックの統一、呼吸の合わせに時間を割く。チェロは時にバスーンの旋律を支える低音の輪郭を明示する役割を担う。
  • プログラミング:同時代のソナタや序曲、あるいはモーツァルトの他の室内楽と対比させることで、作品の特性が際立つ。

まとめ

K.292(K6.196c)とされる「バスーンとチェロのためのソナタ」は、資料学的・様式的検討の余地が残る作品です。真作であるか否かの確定が得られていないため、学術的には慎重な扱いが求められます。一方で、バスーンとチェロの音色の対話や古典派的な明晰さを楽しめる点で、演奏会や録音で取り上げる価値は高いと言えます。演奏者は原典に基づいた解釈と、当時の演奏慣習を意識した表現を心がけることで、本作の魅力をより豊かに伝えられるでしょう。

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参考文献