モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136(1772)徹底解説 — 編成・構成・演奏の聴きどころ
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136(K.125a) — 概要と位置づけ
W. A. Mozart(1756–1791)が1772年に作曲したディヴェルティメント ニ長調 K.136(K.125a)は、同年に作られた3曲のディヴェルティメント(K.136–138)のうちのひとつです。モーツァルト16歳頃の作品で、軽快で明るいガラント様式の魅力を示す一方、既に対位法や動機展開の技巧も垣間見せる点が特徴です。本稿では楽曲の歴史的背景、編成と楽譜事情、楽曲構成と分析、演奏・解釈上のポイント、聴きどころなどを詳しく掘り下げます。
歴史的背景
1772年のモーツァルトはザルツブルクに滞在し、教会音楽、器楽曲、協奏曲など多彩な作品を手がけていました。ディヴェルティメントは当時の宮廷や市民の社交場での演奏を想定した『気軽な室内音楽』で、K.136–138は同じ調性と編成でまとめられ、夕べの余興や家庭音楽のレパートリーとして機能しました。ケッヘル目録(Köchel catalogue)では番号の変遷があり、K.136はしばしば括弧付きでK.125aと併記されます(改訂版の番号付けに由来する表記の揺れ)。
編成と楽譜の系譜
原典の編成は弦楽三重奏(3つの弦楽器による編成)として伝わっています。伝統的に弦楽三重奏とはヴァイオリン2+チェロ、あるいはヴァイオリン/ヴィオラ/チェロの組み合わせなど、複数の編成例が存在し、版によって表記に差異があります。実際の演奏では弦楽四重奏(第1・第2ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ)に編曲して演奏されることも多く、これにより内声の充実やバランス調整が可能になります。また、18世紀の写譜や初期版の差異、後世の編曲(ロマン派以降のアレンジ)も少なくありません。初期楽譜(Neue Mozart-Ausgabeや手稿譜の校訂版)を参照することが重要です。
楽曲構成(演奏形態:速―緩―速の三楽章構成)
K.136は古典期の軽快な3楽章構成で、典型的には「速い楽章―緩徐楽章―速い楽章(フィナーレ)」の並びになります。楽章ごとの性格は次の通りです。
- 第1楽章(速い楽章):明るいニ長調で開始する、ソナタ風の性格を帯びた楽章。主題は簡潔で歌いやすく、動機の反復と短いシーケンスにより前進します。対位的な掛け合いが散見され、二つの高弦がしばしば掛け合いを行い、チェロが安定した低音形を支えます。
- 第2楽章(緩徐楽章):抒情的で歌謡的なアンダンテやアダージョ調の性格。装飾的なオブリガートや内声の対話が特徴で、モーツァルトの歌心が前面に出ます。和声進行は平明ながらも短い呼吸で表情が付けられ、旋律線の間に器楽的な応答が織り込まれます。
- 第3楽章(速い楽章):軽快なプレストやロンド風のフィナーレ。舞曲的なリズムや反復動機を用いながら、終結に向けてテンションを高めます。短い主題の再現と裏方の駆使で構成され、聴衆に爽快感を残して終わります。
楽曲の特徴と和声・様式面の解説
K.136の特徴は「明晰さと均衡」です。ガラント様式の典型として、単純で覚えやすい動機、透明なテクスチャ、短いフレーズ構成が基盤にあります。一方で、モーツァルトは若年ながら対位法的な書法や系列進行(sequence)を効果的に用い、単なる背景音楽に留まらせない構成力を示します。和声面では主調(ニ長調)と属調(イ長調)を中心にした古典的進行が主体ですが、経過的に短調への流入や借用和音を用い、鮮やかな色彩を添えます。チェロは単に低音を支えるだけでなく、時に独立した主題を奏し対話に参加します。
演奏・解釈のポイント
演奏における最大のポイントは「透明性」と「対話のバランス」です。原典に忠実な解釈では、装飾は控えめにし、音色は明晰に保ちます。ヴィブラートの用い方、弓の位置(フロント/ボウ)やアーティキュレーション(スラーやスタッカート)の取り方で18世紀的な軽やかさを再現できます。現代楽器で演奏する場合は表現幅が広がりますが、過度なロマンティシズムは作品の性格を損なうため注意が必要です。弦楽四重奏編成で演奏する際は、ヴィオラを加えることで内声が豊かになりますが、元来の三声的整合性を保ちながら、各パートの役割(主題提示・伴奏・低音)を明確にすることが求められます。
聴きどころ
注目すべきは次の点です:第1楽章の冒頭主題の呼吸感と小フレーズの整合、第2楽章の歌わせ方(特に第2ヴァイオリンとチェロの対話)、第3楽章におけるリズムの軽やかさと終結に向けた推進力。細部では序盤の装飾音の処理、経過句での和声的転換、終止や半終止の処理などが演奏者によって異なり、その差が聴き比べの面白さになります。古楽系アンサンブルの機敏さと現代アンサンブルの音色の豊かさ、両者を比較すると新たな発見があります。
楽譜と校訂版の選び方
演奏や研究用途ではNeue Mozart-Ausgabe(NMA:新モーツァルト全集)や信頼できる校訂版、原典写譜にアクセスすることが望ましいです。ネット上ではIMSLPで手稿や初版の画像が閲覧できるため、版の差異を確認する際に便利です。編曲版や近代版には後世の補筆や前近代的な装飾が付されていることがあるため、目的に応じて原典主義的な版と演奏目的に合わせた実用版を使い分けると良いでしょう。
終わりに — なぜK.136を聴くべきか
K.136は短いながらもモーツァルトの成熟した様式感と作曲技法を楽しめる佳曲です。若き天才が伝統的なディヴェルティメントの枠組みを用いながら、旋律の豊かさや対位的工夫を織り込んでいる点は、彼が後年に到るまで磨き上げる作曲技法の萌芽を感じさせます。室内楽ファンのみならず、モーツァルト研究やクラシック入門にも適した一曲です。
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参考文献
- IMSLP: Divertimento in D major, K.136
- Wikipedia: Divertimenti, K.136–138 (Mozart)
- Wikipedia: Köchel catalogue(ケッヘル目録)
- Neue Mozart-Ausgabe (DME) — Digital Mozart Edition
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