モーツァルト K.25:オランダ歌曲『ヴィレム・ヴァン・ナッサウ』による7つの変奏曲(ニ長調)— 来歴・分析・演奏のポイント
作品概説
モーツァルトの「オランダ歌曲『ヴィレム・ヴァン・ナッサウ』による7つの変奏曲 ニ長調 K.25」は、幼少期の鍵盤変奏曲の一作で、主題を素朴な民謡(あるいは愛国的な歌)に取り、連続する7つの変奏で多彩に展開します。短いながらも変奏技法、対位法的処理、鍵盤技巧の工夫に富み、後の大作へと繋がる若き才能の萌芽をうかがわせる作品です。
作曲の時期と背景
この変奏曲は、モーツァルトがまだ10歳前後の時期にあたる1760年代の作品とされ、ケッヘル目録ではK.25に分類されています。ウィーンやヨーロッパ各地への旅を続けるなかで、各地の民謡や流行歌を素材に変奏曲を作ることは、当時の音楽家にとって一般的な実習であり、若きモーツァルトもその伝統を受け継いでいます。題材となった「ヴィレム(Willem)・ヴァン・ナッサウ」はオランダに由来する歌で、ウィレム・ファン・ナッサウ(オラニエ公ウィレム)に関連する民衆歌として知られる旋律が基になっているとされます(国民的な歌「Wilhelmus」と直接同一視するのは慎重さが必要です)。
編成・所要時間
編成は独奏鍵盤楽器(当時はクラヴィシン、クラヴィコード、初期のフォルテピアノのいずれでも想定可能)向けで、演奏時間は演奏者のテンポ設定にもよりますが、おおむね4〜6分程度の短い作品です。簡潔な主題提示と7つの変奏で構成され、各変奏は演奏技術や音色、テクスチュアの違いで明確に特徴づけられます。
主題について
主題はニ長調の素朴で歌いやすい旋律。短いフレーズがはっきりし、変奏の素材として扱いやすい設計になっています。モーツァルトはこのような民謡的主題をそのまま示して聴衆に提示し、続く変奏で対比を生み出すことで、変化の効果を際立たせます。
構成と変奏の特徴(概説)
- 主題(テーマ):明快な歌唱線と簡潔な伴奏。各変奏はこの基本素材を参照しつつ発展する。
- 変奏1〜3(装飾とリズムの変化):初期の変奏では旋律の装飾や部分的なリズム変化で主題が装われます。トリルや装飾音、短い装飾的パッセージによって歌唱線を引き立てます。
- 中間変奏(テクスチャの変化):伴奏形の変化、分散和音や対話的な左手と右手の掛け合いなどで、音色と響きの対比を作ります。時に和声的な転調や経過和音を用いて部分的な緊張を生むこともあります。
- 上級変奏(技巧的発展):速い分散和音、パッセージワーク、両手を使った交錯など、演奏技巧が前面に出る場面。ここでテンポやダイナミクスの拡張が行われ、クライマックスを形成します。
- 最終変奏とまとめ:往々にして最終部は華やかな装飾やさらなる活発な動きを伴い、短い終結句やコーダで締めくくられます。
音楽的分析(技巧と和声)
K.25に見られる技巧は、単なる速弾きや装飾に留まらず、和声進行の工夫やモーション(進行感)の制御にも関わります。モーツァルトは主題の和声的要素を抽出して、シーケンスや転調を用いることで短い作品のなかに起伏を作り出します。また、伴奏型のバリエーション(アルベルティ・ベース風、分散和音、オスティナート的パターンなど)を組み合わせ、右手の旋律線を際立たせつつ楽曲全体のバランスを保ちます。これは彼が当時既に持っていた様式感覚と、和声語法への敏感さを示しています。
演奏上の注意点(実演ガイド)
この作品を演奏する際に考慮すべき点を挙げます。
- 楽器選び:原則として当時のタッチ感を再現するフォルテピアノやクラヴィコードでも面白い効果が得られます。現代ピアノで演奏する場合は、軽やかさと透明感を損なわないことが重要です。
- テンポ感:変奏ごとにテンポに大きな変化をつけず、各変奏の性格(歌う・装飾する・活発にする)をテンポとタッチで表現します。速さだけで技巧を示すのではなく、フレージングと音色で違いを作ると効果的です。
- 装飾の扱い:原典にある装飾は当時の慣習に従って自然に処理します。過度なロマンティックなルバートや過度のペダリングは避け、明晰さと均衡を重視するのが古典スタイルの要諦です。
- 音量バランス:伴奏と旋律のバランスに注意し、旋律が常に明瞭であること。とくに分散和音や低音の動きが複雑になる箇所では、右手の歌い方を優先します。
作品の位置づけと意義
K.25はモーツァルトの幼年期の小品群に属しますが、そこには彼の創作上の学習過程が自然に反映されています。民謡や流行歌を材料にして即興的に変奏を作る技能は、当時の音楽家にとって必須のレパートリーであり、モーツァルトはそれを短期間で高い完成度にまで磨き上げています。こうした短い鍵盤変奏は、後のハイドンやベートーヴェン、さらには自らの大作への土台ともなりうる簡潔な構築力を示します。
聴きどころと鑑賞のポイント
鑑賞者としての注目点を挙げると、まず主題の穏やかさと、変奏ごとに生まれる性格の階層化です。最初は素朴な歌唱が提示され、次第に装飾やテクスチャの変化で色彩が増していく過程を追ってください。また、短い時間における和声の小さな転換や、リズムの変化がもたらすニュアンスも味わいどころです。演奏によっては、最終変奏での活発さが小品を小さなドラマへと高めます。
演奏史と版について
K.25は広く演奏される代表作ではないため、主要な録音や版は限られます。楽譜は国際的なデジタル・アーカイブや楽譜サイトで入手可能で、原典版や校訂版を参照することで当時の表記や装飾の扱いを確認できます。古楽器による演奏は作品の本来の響きを示す一方、現代ピアノでの演奏はより色彩豊かな表現が可能です。
まとめ
「ヴィレム・ヴァン・ナッサウによる7つの変奏曲 K.25」は、モーツァルトの幼年期における変奏技法の習熟と作曲センスの早熟さを伝える小品です。短いながらも構成の巧みさ、和声の運用、鍵盤技巧の工夫が詰まっており、演奏・鑑賞ともに小さな発見が多い作品です。演奏する側は古典的な明晰さと歌を忘れず、聴く側は変奏を通じて広がる表情の違いを味わってください。
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参考文献
- IMSLP:7 Variations on the Dutch Air "Willem van Nassau", K.25(楽譜)
- Wikipedia:Variations on "Willem van Nassau", K.25(概説)
- Encyclopaedia Britannica:Wolfgang Amadeus Mozart(生涯と作品の概説)
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルト版、作曲年代・原典情報の参照)
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