モーツァルト K.72a「モルト・アレグロ」断片を読み解く:若き天才の片鱗
モーツァルト:モルト・アレグロ ト長調 K.72a(断片) — 概要
モーツァルトの作品目録における K.72a と記された「モルト・アレグロ ト長調」は、現存が断片的であるため一般にはあまり知られていない若年期の作品です。作品番号や様式から、編年上はモーツァルトが少年期(1760年代後半から1770年代初頭)に作曲した可能性が高いとされますが、原典の散逸や伝来経路の不明瞭さから成立年・演奏形態・正確な編成については確定的な結論が出ていません。本稿では、現存史料や様式的特徴、演奏・版の問題点を照らし合わせながらこの断片の意味を掘り下げます。
編年と史料の状況(慎重な整理)
K.(ケッヘル)番号はモーツァルト作品の通し番号を示すもので、K.72a のような「a」付き番号は、後代の研究で断片・付随譜例・版によって分類されたものであることが多いです。K.72a に関しては一次オートグラフ(作曲者自身の自筆譜)が完全には現存していない、または複数の写譜や断片的な資料の集合からその存在が確認されているという扱いが一般的です。
モーツァルトの若年期は頻繁な旅行(欧州各地・イタリア遠征など)と師事・出会いが重なった時期で、J. C. バッハやイタリア楽派の影響が早くから顕著に表れます。K.72a が作曲されたと推定される時期にも、イタリア風の明快な主題、簡潔な和声進行、活発なリズムといった特徴が見られ、当時流行していたガラン様式(galant style)と古典様式の接点に位置します。
楽曲の様式的特徴(断片から読み取れること)
断片作品ではありますが、以下のような様式的特徴が指摘できます(以降はいずれも断片に基づく推定的な分析です)。
- 調性とテンポ表記:ト長調、モルト・アレグロという快速な指定は、楽曲が陽気で機能的な性格を備えていることを示します。ト長調は管弦楽・鍵盤いずれでも明るく映える調で、若きモーツァルトが好んで用いた鍵調の一つです。
- 主題とフレーズ構成:短い動機を繰り返し発展させる傾向にあり、左右の対話や市松模様的なリズム(8分音符の連続と切分)が見られます。主題は歌謡的で覚えやすく、即興的な装飾を施しても破綻しにくい構造です。
- 和声進行:基本的にはトニック—ドミナントを中心とした古典期の機能和声が支配的で、二次的転調は控えめです。これは序奏のないアレグロ楽章や短い楽曲断片に共通する特徴でもあります。
- 対位法的扱いと伴奏形:和声的な伴奏(アルペジオや分散和音)と旋律の明快な配置が見られ、複雑な対位法はあまり用いられていません。若年期のモーツァルト作品に共通する「明晰さ」が際立ちます。
形式についての考察:ソナタ形式か、あるいは別形か
モルト・アレグロという標題を持つ楽章が単独で存在する場合、しばしばソナタ形式(あるいは簡易化されたソナタ形式)に基づくことが多いですが、断片であるため終結部や展開部が欠けている可能性があります。開頭部に主題提示と対照主題が明瞭に確認できればソナタ形式の痕跡と見なせますが、単一主題のみが残る場合は小品的なロンドやソナチネ風の構成であった可能性も排除できません。
演奏・解釈上の留意点
断片を演奏する際には、以下の点が実務的な問題になります。
- 「補綴(ほてつ)」の判断:断片の欠落部分をどの程度補って上演するかは解釈者次第です。研究者はモーツァルトの同時期作品群を参照し、類推で展開部や再現部を補作することがありますが、その際は補筆と明記するのが学術的な慣行です。
- 楽器選択:当時の演奏慣習に倣えばフォルテピアノ(古典期のピアノ)やチェンバロ、あるいは小編成の室内楽編成が想定されます。現代ピアノで演奏する場合はタッチの軽快さとアーティキュレーションの明瞭さを意識すると良いでしょう。
- 装飾とカデンツァ:モーツァルトの若年期作品は装飾を演奏者が加える余地が大きく、トリルやモルデント、即興的な小規模装飾で表情を付けられます。ただし楽曲の簡潔さを損なわない範囲が重要です。
版と資料:研究者・演奏家が向き合う現状
K.72a のような断片は、完全版が存在しないために写譜や引用、断片を収めた資料集に依存することが多いです。近年はデジタルアーカイブ(デジタル・モーツァルテウム等)や楽譜公開サイトを通じて断片資料へのアクセスが向上していますが、版によって読み替えや解釈が異なることがあり、演奏や論考には慎重な出典注記が求められます。
録音と上演の実態
K.72a は断片であること、そして知名度が低いことから商業録音や定期的な演奏機会は限られます。断片集や若年期作品集のボーナストラックとして収録されることがある程度で、一般的な演奏レパートリーにはなっていません。しかし、歴史的演奏実践(古楽器)を志向するアーティストや学術的な試演会では、断片を補筆して上演する試みが見られます。
音楽史的意義:断片が教えること
完全な楽曲でないにもかかわらず、K.72a のような断片は若い作曲家の「素材の発見」として貴重です。主題の構造、和声感覚、リズム処理などに後年の巨匠的な兆候が読み取れる場合、後の作品群への発展的な連関を議論する手掛かりとなります。モーツァルト研究においては、こうした断片の比較研究が作曲家的発達の過程を補強する役割を果たします。
まとめと今後の研究課題
K.72a「モルト・アレグロ」は、断片であるがゆえに多くの議論と想像を引き起こす素材です。確固たる史料が乏しいことから成立年や編成、完全版の有無については依然として慎重な扱いが必要ですが、若年期モーツァルトの様式的特徴や当時の習作的側面を考察するうえで有益な手がかりを提供します。今後、写譜の再発見やデジタル化、比較楽曲分析が進めば、より具体的な理解が進むでしょう。演奏家にとっては、断片をどのように補って提示するかが創造性と研究的誠実さの両面で問われるポイントになります。
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参考文献
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルテウム/Neue Mozart-Ausgabe のオンライン資料)
- IMSLP (International Music Score Library Project) — Mozart カテゴリ
- モーツァルトの作品目録(日本語版ウィキペディア)
- Köchel catalogue(ケッヘル目録) — 英語ウィキペディア
- Oxford Music Online / Grove Music Online(作曲家論・作品解説の総合データベース)
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