モーツァルト「カノン ハ長調 K. deest(断片、11小節)」徹底解析 — 真贋・作曲技法・演奏ガイド
概要:作品の位置づけと基本情報
「カノン ハ長調 K. deest(断片、11小節)」は、通称の記載にある通りウォルフガング・アマデウス・モーツァルトに帰属される短いカノンの断片で、作品番号(ケッヘル番号)が与えられていないものを指して“deest”(ラテン語で「欠如」)と表記します。現存部分はおよそ11小節ほどの短い断片であり、単独で完結した楽曲というよりは、モーツァルトの手になる短い即興的・家庭音楽的な作品群の一例と考えられます。
歴史的背景:モーツァルトとカノンの習慣
18世紀後半、カノンは学術的な対位法の実践であると同時に、宮廷・家庭で楽しむ娯楽音楽として広く親しまれていました。モーツァルトは生涯にわたって多くの短いカノンを残しており、その用途は多様でした。宗教的あるいは演奏会向けのものもありますが、友人や家族との遊興の席で歌うため、あるいは手稿の中にメモとして残したために短く軽妙なものが多数あります。こうした「小品」群はしばしば断片的で、真贋や成立事情の解明が難しいものもあります。
資料・出典と真贋問題
「K. deest」と付される作品群は、古来ケッヘル目録の編纂対象外であったもの、あるいは後年に発見・伝承されたが真正性に疑義があるものを含みます。このカノンの断片についても、完全に自筆であると確認されている場合と、筆写譜や写本を通じて伝わったものが混在し、学界では資料学的に慎重な扱いがされています。デジタル・モーツァルト・エディション(DME)や主要な手稿カタログ、ならびにIMSLP等の楽譜アーカイブで該当断片の画像や登録情報を確認できますが、最終的な作曲帰属については研究者間で見解が分かれることがある点に注意が必要です。
楽曲の構造と音楽的特徴(断片に基づく分析)
断片の長さは約11小節で、調性はハ長調。モーツァルトの小品に共通する以下の特徴が読み取れます。
- メロディは明晰で歌いやすく、短い動機が反復・変形されることで統一感を持たせている。
- 和声進行は機能和声に基づき、トニックとドミナントのやりとりを中心に短い序列を作る。短いながらも終始感や部分的なカデンツが描かれていることが多い。
- カノンの仕掛けは典型的な模倣(追いかけ)に基づくもので、模倣開始の遅れ(エントリーの間隔)や模倣の度合(同一音程・オクターヴ・逆行など)は限定的で、実用的・即興的な性格を示す。
- 拍節感やリズムは明瞭で、歌詞の有無により歌物としても器楽としても演奏しやすい。
断片であるため、完全な形式(たとえば再現部や拡張された終結部)が欠けている可能性が高く、楽曲全体の設計を推定するには類似の完全作品との比較が有効です。
対位法的手法:モーツァルトのカノンに見られる工夫
モーツァルトは対位法を単なる理論演習に留めず、親密な場での余興やユーモア表現にまで応用しました。短いカノンでは、以下のような工夫がよく見られます。
- エントリーのずらし方によるハーモニーの一時的な曖昧化(クロス・ハーモナイズ)
- 上声と下声の動機的連続性を保ちながら、短調への一時的な転調や副次的な和音で表情を作る手法
- 可唱性を重視した音域設定と句の終わりにおける小さな装飾
これらは、11小節の断片からも部分的に読み取れるモーツァルトらしい「技術の透明性」を示す例と言えます。
演奏上の留意点と編曲の可能性
断片を演奏する際は、欠落している箇所をどう扱うかが重要です。実務的なアプローチは次の通りです。
- 原稿のテクストに忠実に、短い断片をそのままレパートリーの一部(アンコール、小品集の一曲)として演奏する。
- 同時代の類似作品(他のモーツァルトの短カノン)を参照しつつ、欠落部分を補作する。ここでは当時の和声語法や対位法的慣習に沿うことが大切。
- 器楽編成としては声楽(2〜3声)やピアノ連弾、弦楽アンサンブル等、断片の性格に応じた柔軟な編成が考えられる。声楽の場合は歌詞が伝わっていれば意味づけが可能だが、無ければ器楽的に扱うのが自然。
- テンポやアゴーギクは軽快で明瞭な発音を心掛け、対位法の線を際立たせること。装飾は当時の慣習に基づく控えめなものが望ましい。
比較:他のモーツァルト短カノンとの相関
モーツァルトには「短カノン集」とも呼べるほど多くの小品があり、それらと今回の断片を比較することで作曲的特徴や成立事情のヒントが得られます。たとえば有名な2声・3声のカノン群(いくつかはK.の付番がある)は、しばしば会話的でユーモラスな歌詞が付され、家庭での披露を想定したものが多く見られます。今回の断片も同様に“家庭音楽”や“余興”的性格を帯びている可能性が高く、短さや簡潔さがその証左といえるでしょう。
学術的意義と今後の研究課題
この断片は、モーツァルト研究における“断片資料”が持つ二つの側面を示します。一つは、モーツァルトの創作過程や日常的な音楽利用を垣間見ることができる点。もう一つは、真贋判定や補作の問題という方法論的課題を投げかける点です。今後の研究では以下が有益です。
- 原典(手稿・筆写譜)の詳細な写本学的調査と比較。紙質、筆跡、訂正痕などの検討。
- 類似カノンとの様式比較による統計的・様式学的検証。
- 音楽学的補作(エディティング)を行う際の透明な注記と、歴史的慣習に基づく実演検証。
まとめ:鑑賞と実践のために
「カノン ハ長調 K. deest(断片、11小節)」は短いながらもモーツァルトの創作の一断面を伝える興味深い資料です。断片であること、ケッヘル番号が割り振られていないことから研究上の慎重な取り扱いが必要ですが、同時に現代の演奏家や編曲家にとっては自由度の高い素材でもあります。オリジナルの雰囲気を尊重しつつ、歴史的文脈に配慮した補作や編曲を通じて聴衆に届けることが可能です。
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参考文献
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルト・エディション) — モーツァルト原典資料の総合的なデジタル・リポジトリ。
- IMSLP(国際楽譜ライブラリ)検索:"K. deest Mozart" — 公的ドメインの楽譜・写本画像等の検索に有用。
- Köchel catalogue(ケッヘル目録) — Wikipedia(ケッヘル目録の解説) — ケッヘル番号付与の実務的説明。
- Bärenreiter(Neue Mozart-Ausgabe / Neue Ausgabe sämtlicher Werke) — 標準的な批判版出版社。
- Maynard Solomon, Mozart: A Life(Princeton University Press) — モーツァルトの生涯と作品群を概説する研究書。
- Grove Music Online / Oxford Music Online — モーツァルトとカノンに関する専門的解説(要購読)。
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