クラシック音楽の「カタログ番号」を読み解く:作曲・出版・録音をつなぐ識別子のすべて

はじめに — カタログ番号とは何か

クラシック音楽の世界で「カタログ番号」と聞くと、多くの人は作品の後ろに付く「K.」「BWV」「Op.」などを思い浮かべるでしょう。しかし「カタログ番号」は一義的なものではなく、作曲家作品の体系的な番号付け(作曲カタログ)から、出版社の品番、さらには録音や出版物の国際標準コードに至るまで、多様な意味を持ちます。本稿では、主要な作曲カタログの種類と成り立ち、識別子が果たす役割、注意点、そしてディスクやスコアの識別に使われるコード類(ISMN/ISRC/ISWC等)まで、実務的・学術的観点から詳しく解説します。

作曲カタログとその目的

作曲カタログ(作曲家作品目録、thematic catalogue)は、作曲家の全作品を整理・分類し、一意に識別できる番号を付けるためのものです。目的は大きく分けて三つあります。第一に、学術的に作品を確定し比較すること。第二に、出版社や図書館、演奏会プログラムで作品を正確に指すこと。第三に、版や版本の異同を追跡することです。カタログは通常、編纂者の姓や編纂法に由来する略号で呼ばれます。

主な作曲家別カタログの例

  • J.S. Bach — BWV(Bach-Werke-Verzeichnis):シュミーダー(Schmieder)による目録で、ジャンル別に番号が付されます(例:BWV 565〈トッカータとフーガ ニ短調〉)。
  • W.A. Mozart — Köchel(K. または KV):ルートヴィヒ・フォン・ケッヘルによる年代順目録。新版で番号付けや付録(Anh.)が整理され、版ごとの差異に注意が必要です(例:K.525〈『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』〉)。
  • L. van Beethoven — Op., WoO, Hess, Biamonti:ベートーヴェンは出版された序列を表すOp.が主ですが、出版されなかった作品はWoO(Werke ohne Opuszahl)やヘス(Hess)番号、ビアモンティ(Biamonti)など複数の補助目録で管理されます(例:Für Elise=WoO 59)。
  • F. Schubert — D.(Deutsch):オットー・エーリヒ・ドイチュによる編年的目録。交響曲『未完成』はD.759など(例:D.759)。
  • A. Vivaldi — RV(Ryom-Verzeichnis):ローマ=ヴァイオリン曲の体系化で知られるライム(Ryom)の目録。『四季』はRV 269/315/293/297のように個別番号を持ちます。
  • F. Liszt — S.(Searle):ハンフリー・シールによる分類。リスト作品はS.番号で参照されます(例:リスト『愛の夢』第3番はS.541/3)。
  • C. Debussy — L.(Lesure):フランソワ・ルスールの目録。『月の光』は組曲《ベルガマスク組曲》L.75に含まれます。
  • G.F. Handel — HWV(Händel-Werke-Verzeichnis):ヘンデルの目録。代表作《メサイア》はHWV 56など。
  • H. Purcell — Z.(Zimmermann):パーセル作品はジマーマン番号で整理されます(例:《ディドとエネアス》はZ.626)。

Opus(Op.)番号の特性と落とし穴

「Op.(オーパス)」は本来出版社が付ける番号で、必ずしも作曲順を反映しません。特に19世紀の作曲家では、人気作品を後からまとめて番号付けしたり、出版社ごとに異なる番号が付いたりすることがあり、研究や演奏史では注意が必要です。未出版・未番号作品の管理にWoOや編者番号が使われるのはこのためです。

カタログ番号が変わることがある理由

主な理由は次の通りです。第一に、新資料(自筆譜や写譜)が発見されると編年や帰属が変わること。第二に、初期目録の誤りや編者の解釈差によって新版が作られること(例:ケッヘル新版)。第三に、様式別・ジャンル別の配列方針の違い。したがって文献・演奏会案内ではカタログの版情報まで示すことが望ましいです。

録音・出版物における「カタログ番号」──ディスク番号、ISRC、ISMN

作曲作品を示すカタログ番号とは別に、録音や出版物にも固有の識別子が存在します。主なものを挙げます。

  • ISRC(International Standard Recording Code):個々の音源(録音トラック)を識別するコード。配信や権利処理で重要。
  • ISMN(International Standard Music Number):出版される楽譜(印刷物)に付与される国際標準番号。スコアの流通管理に使われます。
  • ISWC(International Standard Musical Work Code):楽曲(作品)そのものを識別するコード。作曲家が著作権管理団体で扱う際に用いられます。
  • レーベルのカタログ番号:レコード会社やレーベルが付与する固有の品番(例:DGやEMIの品番)はコレクターや図書館の収集管理で重要です。CDの裏面や盤面に記載されています。

実務上の利用法 — 検索・購入・研究でのコツ

  • 検索:作曲家名と併せてカタログ略号+番号(例:"Mozart K.525")で検索すると、版や演奏の情報を特定しやすい。
  • 購入:楽譜や録音を買う際は出版社品番やISMN/ISRCを確認すると誤購入を避けられる。
  • 学術引用:論文や注釈では編者名・カタログ名・版(改訂版)を明記する。例:「BWV 565(Schmieder版)」や「K.525(Köchel新版)」とする。
  • 演奏会プログラム:同じ『ピアノ協奏曲 第2番』でも作曲家や版によって楽章配列・テンポ表示が異なる場合があるため、K/BWV/Op.等の番号で明示する。

注意すべき点と誤解の生じやすいケース

一つの作品に複数の番号が付くケース(版や稿本の差)や、同一番号が異なる版で意味合いを変えるケースに注意してください。例えばモーツァルトはケッヘルの新版で番号が振り直されることがあり、文献によって旧番号と新番号が混在します。また、近年の音楽学的研究で作曲家の帰属が疑われる作品もあり、番号が示す「作曲家の意図」が必ずしも確定的でない場合があります。

カタログ番号とデジタル時代:DB・メタデータの重要性

デジタル音楽プラットフォームや図書館データベースでは、カタログ番号はメタデータの一部として極めて重要です。MusicBrainzやRISM、IMSLPなどのオンラインリソースはカタログ番号を索引項目として使い、信頼できる版を特定する手助けをします。またISWC/ISRCの活用により、配信時の権利処理やロイヤルティ分配が正確になります。

まとめ — カタログ番号は「言語」である

カタログ番号は単なる記号ではなく、歴史・版・権利・流通をつなぐ重要な情報です。演奏者・研究者・聴衆・コレクターそれぞれが、番号の由来と限界を理解して使うことで、より正確な情報交換と質の高い音楽体験が実現します。新資料の発見や目録の改訂は今後も続くため、最新のデータソース(公式目録、RISM、図書館蔵書目録等)を参照する習慣をつけることが肝要です。

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参考文献