バッハ作品目録(BWV)徹底解説:歴史・分類・番号の読み方・最新の発見まで
バッハ作品目録(BWV)とは何か
バッハ作品目録(Bach-Werke-Verzeichnis、通称BWV)は、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685–1750)の作品を整理・索引するためのカタログです。ドイツの音楽学者ヴォルフガング・シュミーダー(Wolfgang Schmieder)によって編纂され、1950年に初版が刊行されました。BWVは作曲年代順ではなく、作品をジャンル別に配列する方式を採っている点が大きな特徴です。
なぜBWVが重要なのか
BWVはバッハ研究・演奏・録音の標準的な参照枠として広く定着しています。作品に固有の識別子(例:BWV 232、BWV 1007など)を与えることで、異なる版や編曲、演奏形態が混在するバッハの膨大な作品群を明確に指し示すことが可能になります。音楽学の論文や演奏会プログラム、録音リリースではBWV番号が頻繁に使用され、研究と実践をつなぐ共通語となっています。
BWVの構成と分類方法
BWVの特徴は「ジャンル別配列」です。シュミーダーはバッハの作品を大まかに以下のようなカテゴリに分け、それぞれの中で便宜的な順序を付けました。
- 教会カンタータ、世俗カンタータ
- モテット、ミサ曲、受難曲(受難劇)
- 鍵盤楽器(チェンバロ・クラヴィコードなど)のための作品
- オルガン作品
- 室内楽曲(無伴奏、通奏低音付きなど)
- 協奏曲・管弦楽曲(ブランデンブルク協奏曲など)
- フラグメンツ、散逸作品、真偽不明・模作などの補遺(Anhang)
このためBWV番号から直接作曲年を読み取ることはできません。むしろ作品のジャンルがわかるように体系化されている点が、歴史的・実務的に有用です。
番号の付け方の特徴と注意点
BWV番号は基本的に作品の“識別子”です。以下の点に注意してください。
- ジャンルごとの連番であり、例えばBWV 1〜BWV 200番台は主にカンタータに割り当てられている、というような傾向はありますが厳密な境界はないこと。
- BWVには付番されない断片や同定されていない伝承曲も多数存在し、これらは補遺(Anhang, Anh.)に分類されます。補遺には「疑わしい」「紛失」「模作」などの注記が付されます。
- 同一作品の版や複数の自筆稿がある場合、番号に小文字の付番(例:BWV 80bなど)や別番号で整理されることがあります。
- BWVは初版後も研究の進展や新資料の発見により番号の追加や注記がなされてきました。新発見作品には新たな番号が与えられることがあります(例:後述のBWV 1127など)。
代表的な番号と作品例
以下は音楽ファンや演奏会でもよく登場する、BWV番号と代表作の例です(いずれも広く認知されている作品であり、番号も一般に定着しています)。
- BWV 232:ミサ曲ロ短調(Mass in B minor)
- BWV 244:マタイ受難曲(St Matthew Passion)
- BWV 245:ヨハネ受難曲(St John Passion)
- BWV 565:トッカータとフーガ ニ短調(Toccata and Fugue in D minor)※作曲者帰属に議論あり
- BWV 1007–1012:無伴奏チェロ組曲(Cello Suites)
- BWV 1046–1051:ブランデンブルク協奏曲(Brandenburg Concertos)
- BWV 147:カンタータ「心と口と行いと生き方」(Herz und Mund und Tat und Leben)中の合唱「Jesu, Joy of Man's Desiring」
- BWV 140:「目を覚ませ、呼ぶ声あり」(Wachet auf, ruft uns die Stimme)— 教会カンタータの代表作の一つ
(注)上の例はBWV番号と作品名の対応が広く受け入れられているもので、演奏や学術書でも頻繁に引用されます。
補遺(Anhang)と作品の真偽問題
バッハの作品とされてきたものの中には、後世の作曲家による模作や別人の作品が混入している例が多くあります。こうした作品はBWV Anhang(補遺)に分類され、疑わしいもの・紛失した作品・断片などが注記されます。近年の音楽学的検討や写本の研究、写譜の筆跡鑑定、紙・インクの年代測定などにより、ある作品の真贋が判明してBWV本体に移されたり、逆に補遺に移動したりすることがあります。
近年の新発見とBWV番号の拡張
新資料の発見は稀ですが、完全に起こらないわけではありません。例えば、2005年にベルリンの図書館所蔵資料から発見されたアリア(詩篇付き小品)はBWV 1127として登録され、これはバッハ研究に新たな光を当てました。こうした発見はBWVの補強と整理を促し、バッハ像の微修正につながります。
BWVと新バッハ全集(Neue Bach-Ausgabe)・デジタル資源との関係
BWVはあくまで目録であり、演奏用や研究用の校訂楽譜とは別物です。学術的な批判校訂版としては「Neue Bach-Ausgabe(新バッハ全集、NBA)」があり、楽譜の信頼性を高めるための注釈や稿本比較を提供します。近年はインターネット上のデータベース(例:Bach Digital)やデジタル版の目録も整備され、写本画像や校訂情報を横断的に参照できるようになりました。これにより、演奏家や研究者はBWV番号を手がかりに原典資料へ直接アクセスできるようになっています。
演奏・録音界におけるBWVの実用性
演奏会のプログラム、CDや配信サービスのトラック表記、レコード・ラベルのライナーノーツなどでは、BWV番号が曲目を特定するための標準表記になっています。特に同名の曲が複数存在する場合(例:「前奏曲とフーガ」など)や、編曲や移調が数多くある作品群では、BWV番号が誤解を避ける重要な手段となります。
BWVの読み方と使い方:実務ガイド
- プログラムでの記載:作品名に加えてBWV番号を必ず書く(例:「無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV 1007」)。
- 学術引用:BWV番号だけで作品が一意に特定できるため、引用・注釈に便利。
- 版の差異に注意:同一BWV内に複数の版(改訂版、編曲、自筆譜と写譜の差)が存在する場合があるため、版の出典(ライプツィヒ写本、ナンバー付きの写譜など)を確認する。
- 補遺の扱い:Anhangに分類されている作品は真偽や帰属が確定していないことを明記する。
研究の現在地:BWVの限界と今後の展望
BWVは非常に有用な目録ですが、次のような限界もあります。
- ジャンル別配列のため作曲年代を示さないことから、作曲史的研究には別途年代的体系が必要になる。
- 新版・補遺の追加は可能だが、目録自体の体系(ジャンル配列)は初版の設計思想を引き継いでおり、全面的な再編成は容易ではない。
今後はデジタル人文学の発展を背景に、写本画像や文献情報、演奏史データを統合した動的なデータベースがさらに進化するでしょう。BWVはその“通称ID”としての役割を保ちつつ、オンライン資源や批判校訂版と連携してバッハ研究を支える基盤であり続けると考えられます。
まとめ:BWVを使いこなすために
BWVはバッハの作品をジャンル別に整理した識別目録であり、1950年のシュミーダー版以降、学術・実務の双方で不可欠な参照体系となっています。番号が示すのは便宜的な分類であり、年代や版の差異は別途確認が必要です。新発見や研究の進展により補遺や注記が更新されるため、最新のデータベース(Bach Digital等)や批判校訂版(Neue Bach-Ausgabe)を併用して情報を確認する姿勢が重要です。
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参考文献
- Bach-Werke-Verzeichnis - Wikipedia (英語)
- Wolfgang Schmieder - Wikipedia (英語)
- Bach Digital(デジタル・バッハ資料館)
- Neue Bach-Ausgabe(新バッハ全集) - Bärenreiter
- The Guardian: Newly found Bach piece (BWV 1127) (2005)
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