ショパンの「Op.(番号欠落)」を読み解く:なぜ番号がないのか・目録の見方と演奏への影響

序論:Op.とは何か(そして『番号欠落』とは)

音楽で「Op.」はラテン語の opus(作品)を略したもので、作曲家の作品番号を示します。伝統的には出版社や作曲家自身が作品を出版する際に番号を付け、作品を整理しました。しかし実際には、すべての作品にきれいに番号が割り振られるわけではありません。ショパンにおいては、とくに未発表曲、草稿、遺作、あるいは出版時に番号が与えられなかった短い小品が多数存在し、それらは「番号欠落(Op.なし、またはOp. posth.=遺作表記)」として扱われます。本稿では、なぜ番号が欠けるのか、ショパン固有の事情、目録の読み方、研究・演奏上の実務的な注意点までを詳しく掘り下げます。

なぜ作品番号が欠落するのか:歴史的・実務的理由

  • 出版と作者の意図のズレ:19世紀には出版社が商業的理由で作品を編纂・番号付けすることが多く、作曲家が生前に正式に番号を与えなかった作品は後に番号が付かないまま出版されることがあった。

  • 遺作・草稿:作曲者の死後に見つかった作品は、完全な校訂が行われないまま出版されることがあり、正式な opus 番号を与えられない場合がある(しばしば "Op. posth." として分類される)。

  • 私的流布や断片:家族や友人、門弟のために書かれた小品・練習曲・習作などは商業出版を目的とせず、結果として番号が付与されないまま残る。

  • 複数の編集版・改訂:同一作品に複数の版が存在すると、どの版に基づく番号を正規とすべきかが曖昧になり、番号欠落の扱いが生じる。

ショパン固有の事情:出版史と友人の役割

ショパンの場合、彼の多くの作品は生前に出版社を通して体系的に出版されましたが、未発表の小品や家族・生徒向けの草稿が多数残りました。さらに、ショパン没後に彼の友人・弟子が遺稿を整理・出版したことが大きく影響しています。代表的な人物にジュリアン・フォンタナ(Julian Fontana)があり、彼はショパンの遺稿を集めて出版・編纂を行いました。フォンタナの編集は当時としては有益でしたが、彼の編集判断や編纂順によって「どの作品をどの番号に対応させるか」という基準が一義的ではなくなった面もあります。

体系化のための研究目録:B、KK、WNなど

番号が欠落する作品を整理するため、音楽学者たちはショパン作品の主題目録(thematic catalogue)を作成しました。主要なものとして以下がよく参照されます。

  • B(Brown)番号:Maurice J. E. Brown などによる編年的・主題的目録で、Op.番号を持たない作品や断片にも一意の番号を与え、研究や引用に便利です。

  • KK(Kobylińska)番号:Krystyna Kobylińska によるテーマ目録で、より詳細に草稿・版の違いを分類しています。学術研究や校訂の参照に使われます。

  • WN(Wydanie Narodowe = ショパン国立版)番号:ポーランドのナショナル・エディション(国立版ショパン全集)が採用する体系で、原典に基づく批判校訂により現在の標準校訂の基礎を提供します。

これらの目録番号は相互に参照されることが多く、論文やレコーディングの曲目表では「作品名 / Op.番号(もしあれば) / B番号 / KK番号 / WN番号」のように併記されることがあります。特にOp.がない作品を扱う際には、いずれかの目録番号で参照するのが通例です。

代表的なケースと注意点(具体例の扱い)

ショパンの作品群には、習作や未完成の断片、学生向けの練習曲などが多数あり、これらはOp.なしで流通することが多いです。いくつかの著名な例は研究書や演奏会で頻繁に取り上げられており、典型的な扱いとして次の点に注意が必要です。

  • 有名遺作の扱い:たとえば〈幻想即興曲〉(Fantaisie-Impromptu)のように非常に人気のある遺稿は、出版史の過程で "posthumous"(遺作)として広く認知されている。こうした作品はOp.が付かないこともありますが、目録番号で確定的に指示できます。

  • 版による差異:刊行された版が複数ある場合、それぞれに演奏上の差が出ます。楽譜を選ぶ際は必ず最新の批判校訂(たとえばショパン国立版)を照会し、異稿や訂正を確認することが肝要です。

  • 断片と復元:断片的な草稿を基に現代の編曲者が補筆した版も存在しますが、それらは原典主義とは異なる実践です。楽曲を演奏・録音・出版する場合は、補筆の所在と編集者の判断を明記するべきです。

演奏家・研究者のための実務ガイド

Op.番号がないショパン曲を扱う際に実務的に気を付ける点をまとめます。

  • 引用方法:プログラムノートやCD解説では、作品名に加え目録番号(B, KK, WNなど)を併記することで聴衆や研究者に正確に情報を伝えられます。

  • 楽譜選び:可能な限り批判校訂版を使用する。校訂報告(Critical Report)を読み、原典に基づく解釈上の争点を把握する。

  • 史料確認:オートグラフ(自筆譜)や初版、フォンタナら編集者による遺稿集などを参照すると、表記や指示の由来が明確になります。オンライン・データベース(ショパン研究所、IMSLPなど)を活用すると良い。

  • 録音・出版時の注記:遺稿や補筆版を録音・出版する場合は、編集方針・出典を明示し、聴衆に誤解を与えないようにする。

研究動向と今後の課題

近年、デジタル化の進展により自筆譜や初版の高解像度画像がオンラインで利用可能になり、目録の精度向上や新発見が進んでいます。さらに、音楽学的・演奏学的なアプローチが融合し、遺作の解釈や補筆の是非についても活発な議論が行われています。今後の課題は、一般聴衆に向けた分かりやすい表記(どの番号体系を併記すべきか)と、学術的厳密さの両立です。

結語:Op.が欠けていることの意味

ショパンにおける「Op.(番号欠落)」は単なる表記上の空白ではなく、作品の成立過程、出版史、編集史、そして現代の受容に深く関わっています。演奏者・聴衆・研究者はいずれも、その背景を理解することで楽曲の歴史性や演奏解釈の幅を広げることができます。作品番号の有無に囚われず、原典への関心と適切な目録参照を習慣化することが重要です。

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参考文献