バッハ:BWV93『愛する神のみに従う者(Wer nur den lieben Gott läßt walten)』徹底解説 — 歴史・構造・演奏のポイント

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はじめに — BWV93の位置づけと魅力

ヨハン・ゼバスティアン・バッハのカンタータBWV93「Wer nur den lieben Gott läßt walten(邦題:愛する神のみに従う者)」は、バロック宗教音楽の中でも穏やかで深い信仰表現によって知られる作品です。本稿では、このカンタータを歴史的背景、テキストとその元である讃美歌、楽曲構成と音楽的特徴、演奏上の注意点やおすすめの聴きどころまで、できる限り詳しくかつファクトチェックを意識して掘り下げます。

歴史的背景と成立

BWV93はバッハがライプツィヒに在任していた時期(1723年以降)に制作された教会カンタータの一つで、合唱と独唱、器楽を用いて典礼の中で演奏されることを想定した作品です。作品はルター派の讃美歌を素材にした「コラール・カンタータ」の系譜に属します。バッハはライプツィヒで1724〜25年頃にいわゆる『コラール・カンタータ年』を進め、多くの讃美歌を基にした作品を手がけました。BWV93もその流れの中で成立した作品と位置づけられます(成立年や初演日については資料により諸説ありますが、ライプツィヒ在任初期のコラール作品群に含まれることは広く受け入れられています)。

原曲となった讃美歌 — 作詞者とテキストの背景

カンタータの基になった讃美歌「Wer nur den lieben Gott läßt walten」は、17世紀のドイツ人詩人・作曲家ゲオルク・ノイマルク(Georg Neumark, 1621–1681)によるもので、信仰による委ねと神への信頼を歌った内容です。ノイマルクの原詩は17世紀のドイツの敬虔主義的な宗教感情を反映しており、バッハはそのコラールの言葉と旋律を借りつつ、カンタータとして礼拝のために再編・拡張しました。バッハのアプローチは典型的で、冒頭と終曲に原詩(コラール)の要素を保持し、中間の独唱部分では詩の内容を詩的に再解釈・展開しています。

テキスト構成と形式(概観)

  • 原詩(コラール)の第1節を用いた合唱的な冒頭(コラール・ファンタジア)
  • 間に置かれる独唱的なレシタティーヴォやアリア(詩の中間節を自由詩にして表現)
  • 最終的に全声部で歌われる四声コラール(詩の終節)による閉幕

このような構成は、バッハのコラール・カンタータに共通する典型的な配置です。冒頭で会衆に向けた“公的”な表明を行い、中間で個人の信仰や内省に寄り添う独唱部分を挿入し、最後に会衆的な応答として全員の和声で締めくくる。BWV93でもこの構造が用いられ、詞の信仰的テーマ(神への委ね/信頼)が音楽的にも階層的に扱われます。

楽器編成と声部(概要)

多くの資料は、BWV93が合唱(四声)と独唱(ソプラノ・アルト・テノール・バス)および弦楽器と木管、通奏低音を伴う編成であることを示しています。バッハの教会カンタータの標準に倣えば、ヴァイオリン、ヴィオラ、オーボエ類(あるいはオーボエ・ダモーレ等)、チェロ/ヴァイオローネとチェンバロ等の通奏低音が想定されます。ただし、写本や初期資料によって楽器名が必ずしも明確でない作品があるため、現代の演奏では歴史奏法に基づく多様な編成が採られています。

音楽的な特徴 — 聴きどころの分析

以下はBWV93を聴く際の主要な音楽的ポイントです。

  • 冒頭コラール・ファンタジア:コラール旋律が長い音価で現れる一方、下層では対位法的または伴奏的な動きが展開します。旋律の穏やかな進行と伴奏のリズムやハーモニーの動きが、信頼というテキストの意味を音で具現化します。
  • アリアとレチタティーヴォ:中間部に配置された独唱曲は、個人的な信仰の告白や情感の描写に重心を置きます。バッハはしばしば器楽モチーフを用いてテキストを象徴的に表現します(例えば『信頼』を支える低音の動きや、心の揺れを示す装飾的上昇など)。
  • 和声の扱いと終結コラール:終曲の四声コラールは、会衆的な確信と一致を表します。バッハの和声進行は簡潔ながらも巧妙で、最終和音に至るまでの展開には文学的な確立感があります。

演奏・解釈の実務的ポイント

演奏する際に考慮すべき点を挙げます。

  • 合唱の扱い:現代では『一声部一歌手(OVPP)』論が注目されますが、宗教曲としての公的な性格や教会空間での響きも考慮して、人数を増やした合唱での演奏も一般的です。曲の性格や録音/演奏会の目的に応じて選択します。
  • テンポ設定:テキストの明瞭さとコラール旋律の持つ『静けさ』を重視するならば、冒頭は過度に速めず、旋律が呼吸できるテンポを選びます。一方、独唱アリアでは言葉の感情に合わせた柔軟なテンポ処理が効果的です。
  • 装飾とヴィブラート:歴史的奏法に基づくと、装飾は演奏者の判断で必要最小限に留め、ヴィブラートも控えめにして旋律の明瞭さを保つことが推奨されます。ただし、現代楽器および現代的感覚を取り入れる演奏解釈も有効です。

代表的な録音と比較の視点

BWV93は比較的録音数の少ない作品ですが、コラール・カンタータ集の一部として収録されることが多いです。代表的な演奏例としては、歴史的奏法志向の指揮者(例:ジョン・エリオット・ガーディナーやマサアキ・スズキなど)による録音があり、それぞれアーティキュレーションや合唱規模、楽器の音色が異なります。こうした録音を比較する際は、テキストの語り方、合唱のスケール感、装飾の有無といった要素に注目すると解釈の差がよくわかります。

現代の受容と演奏機会

BWV93は大規模なオラトリオほど頻繁に上演されるわけではありませんが、礼拝やプロジェクト型のコンサート、バッハ全集録音プロジェクトの一環として演奏され続けています。信仰の確信という普遍的テーマを扱っているため、教会音楽プログラムや宗教的文脈の公演で特に共感を呼びます。

聴きどころのまとめ(短縮ガイド)

  • 冒頭のコラール・ファンタジアでの旋律の提示と伴奏の対話に耳を傾けること。
  • 独唱部ではテキストの語り口(語尾の処理、装飾)に注目すること。
  • 終曲の四声コラールでは和声の配置と最終的な確信感の高まりを感じ取ること。

結び — BWV93が教えてくれること

BWV93は過度に劇的な表現を避けつつも、音楽と言葉によって静かな確信を描き出す作品です。バッハの宗教音楽の美点である『信仰と音楽の有機的結合』がよく表れており、礼拝音楽としての機能性と芸術表現の双方が調和しています。演奏・鑑賞どちらの立場でも、テキストの意味を探りつつ細部の音楽的仕掛けを聴き取ることが深い理解につながります。

参考文献