バッハ(帰属問題を含む)BWV1033 フルートと通奏低音のためのソナタ第1番 ハ長調 — 楽曲解説・歴史的背景・演奏ガイド

概要と位置づけ

BWV1033 は「フルートと通奏低音のためのソナタ第1番 ハ長調」としてバッハ作品目録に収められている曲です。編成は横笛(当時のトラヴェルソ)と通奏低音(鍵盤楽器+低弦または通奏低音群)で、軽やかなイタリア風の性格を持つ楽曲として広く演奏されてきました。ただし、この作品については作曲者の帰属に関して議論があり、伝統的にはJ.S.バッハに帰されてきたものの、楽曲の様式や写本資料から真正性に疑問を呈する研究も存在します。そのため、演奏や解釈にあたっては「バッハ作品」としての側面と、18世紀初期の広く共有された様式から生まれた作品としての両面を意識することが重要です。

写本と帰属問題

この曲の原典は自筆譜ではなく写本に頼る形で伝わっており、典拠とされる写本群の筆写者や来歴が必ずしも明確ではありません。写本の筆致や和声・対位の扱い、動機展開の方法などがJ.S.バッハの典型的な書法と完全には一致しないため、20世紀以降の音楽学では真正性を疑う見解が散見されます。一方で、バッハ・カタログ(BWV)には編入されており、演奏史上は長くバッハの管弦楽・器楽レパートリーの一部として扱われてきました。

楽曲構成と様式的特徴

BWV1033 はハ長調という明るい調性を基盤にしており、旋律面では歌謡的で流麗な横笛の声部が中心となっています。和声進行は比較的単純で機能和声に基づく流れを保ち、イタリア的なリズムやアクセント感が感じられる部分が多いのが特徴です。典型的なバロックのソナタ形式(ソナタ・ダ・チエーザ/ソナタ・ダ・カメラ双方の要素)を踏まえつつ、舞曲的要素(シチリアーナなどの緩徐楽章に見られる地中海的・田園的なリズム)や即興的な装飾が組み合わさります。

楽章ごとの聞きどころ(概念的分析)

楽曲は速い楽章と緩やかな楽章が対比される構成をとることが多く、曲ごとに以下のような聞きどころがあります(楽章名や数は版によって記載が異なる場合があります)。

  • 速い楽章(序楽章)— 活動的な動機の提示と、主和音⇄属和音中心の明快な調性の展開。フルートの跳躍やスケール的なパッセージが技巧的な効果を生みます。
  • 緩やかな楽章(シチリアーナ等)— 3/4または6/8系のゆったりとした拍子感を持つことが多く、歌うような旋律と穏やかな和声が心地よい反復構造を作ります。装飾や間の取り方で情緒が大きく変わります。
  • フィナーレ(速い舞曲風)— 軽快で駆け抜けるようなリズム感。フルートは連続する短い音形やトリル、スラーを用いて躍動感を出します。

重要なのは、版ごとに楽章の表記や順序・小節数が微妙に異なることがあるため、使用する楽譜版の出典を確認しておくことです。

旋律と和声の特徴—様式的観察

旋律線は比較的単純な歌謡的な動きに基づくことが多く、反復動機や短いフレーズで構成されています。対位法的展開は過度に複雑ではなく、バッハ(J.S.)の高度に綿密な対位法とは一線を画す場面が多い点が、帰属に関する議論の一因です。和声的には機能和声の枠組みが強く、調性が明瞭に維持されるため、即興的な通奏低音による和音の補強が効きやすい構造です。

演奏実践と歴史的奏法のポイント

演奏にあたってはまず楽器の選択が重要です。バロック・トラヴェルソ(木製の横笛)は現代フルートよりも音量や音色のダイナミクス、タイミングに特徴があり、より柔らかく内声寄りの音色で歌うことができます。通奏低音はハープシコードやチェンバロ、あるいはリュート系の和音楽器と、チェロやヴィオローネなどの低弦を組み合わせるのが伝統的です。

テンポやアゴーギクの扱いでは、バロック演奏慣習に則り「スピーチ的」なフレージングを重視します。フレーズの終わりを軽く引き伸ばすこと(ritardando)や、短いアクセントで意味の区切りを示すことが有効です。装飾音(モルデント、トリル、アグレマン)は当時の解釈を参考に、楽句の始まりや終わりで自然に用いるとよいでしょう。トリルの開始音や装飾の長さは版や地域習慣によって異なるため、演奏前に複数の史料や版を比較して決めるのが望ましいです。

通奏低音の実践—和声実現の選択

通奏低音は単に和音を支えるだけでなく、楽曲の様式理解に直結します。ハープシコード主体の刻みを選ぶとリズムが明瞭になり、リュートやアーチリュートが加わると柔らかい伴奏感が生まれます。チェロやヴィオローネでベースラインをしっかり支えることで旋律の自由さが際立ちます。和音の付加音や6/4進行などは、当時の和声習慣に倣って適宜補強・解決を行うと伴奏に自然さが出ます(ただし過度なロマン派的和声補強は避ける)。

版と校訂(実用的なガイド)

楽譜を選ぶ際には、校訂者による補筆や指示が演奏解釈に影響します。信頼性の高い版としては歴史的注釈の付いた刊行物(バイエルン国立図書館や大手古楽出版社の注釈版)を参照するとよいでしょう。インターネット上のスコア(例:IMSLP)で原典写本を確認することも推奨されます。異なる版を比較することで、装飾、拍節、反復記号の扱いなどの重要な差異を見つけられます。

代表的な録音と演奏傾向(参考例)

BWV1033 は長年、近代フルート奏者と古楽派奏者双方により録音されてきました。近代楽器の録音は音色の豊かさとレガートが魅力であり、古楽器奏者の録音はアーティキュレーションやリズム感、当時のテンポ観に基づく自然な表現が特徴です。録音や演奏を聴き比べることで、テンポ、装飾、通奏低音の編成が曲の印象にどう影響するかが分かります。具体的な演奏者名は多数あるため、複数の録音を比較して自分の解釈の基準を作るとよいでしょう。

演奏者への実践的アドバイス

  • フレージングは「歌う」ことを第一に。短い息継ぎでフレーズの線を途切れさせない。
  • 装飾は楽句の意味を明確にするために使う。過剰な装飾は旋律の自然さを損なう。
  • 通奏低音との対話を重視する。低音の輪郭に合わせてフルートのダイナミクスやテンポを微調整する。
  • 複数版を比較して、明確な指示がない箇所は歴史的奏法と楽曲の文脈に基づき判断する。

学術的な位置づけと現代的評価

BWV1033 は学術的には「バッハ作品かどうか」の議論が続いているため、研究・教育の対象として興味深い作品です。作曲者帰属の問題は、楽曲の様式的観察、写本の系譜、比較作品研究(同時代のフルート作品、イタリアやドイツのソナタ)を通じて検討されます。一般聴衆に向けた演奏会プログラムや録音では、曲自体の魅力(旋律美、親しみやすい調性、演奏の自由度)から広く好まれています。

まとめ

BWV1033 はハ長調の明るさとイタリア風の歌謡性を持つ、聴きやすく演奏しやすい楽曲です。一方で写本資料や様式的特徴から作曲者帰属に疑義があり、演奏・校訂・研究の場ではその点を踏まえた慎重な扱いが求められます。演奏面ではトラヴェルソと通奏低音のバランス、装飾の選択、通奏低音の編成が曲の性格を大きく左右します。古楽器と現代楽器の両面からアプローチすることで、この作品の異なる魅力を引き出すことができます。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献