バッハ BWV1061(2台のチェンバロのための協奏曲第2番 ハ長調)徹底解説:成立背景・曲構成・演奏の聴きどころ

イントロダクション

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685–1750)の協奏曲群は、彼の作曲活動における器楽様式の集大成を示します。その中でも〈2台のチェンバロのための協奏曲第2番 ハ長調〉BWV1061は、チェンバロという鍵盤楽器を独奏器として採用し、二挺のチェンバロ(あるいはチェンバロとチェンバロ相当の鍵盤楽器)が互いに対話しながらオーケストラと絡む形式を採る作品です。本稿では、成立背景・写本や版・楽曲構造の詳細な分析・演奏と録音における留意点・聴きどころを、一次資料と主要研究を踏まえて解説します。

成立と歴史的背景

バッハの鍵盤協奏曲群は、ライプツィヒ時代(1723年以降)に鍵盤奏者としての活動と教会音楽の責務の中で編まれたものが多く、既存の器楽協奏曲から鍵盤用に編曲した作品も含まれます。BWV1061もそのような編曲と再編の伝統に位置づけられ、原曲の消失や複数版の存在といった問題が研究上の課題となっています。作品番号の付与(BWV)によって分類されるものの、元となるインストゥルメンテーションや成立時期については研究者の間で議論が続いています。

写本と楽譜版について

バッハの鍵盤協奏曲は、自筆譜が残るものと弟子や後世の写譜によって伝わるものがあります。BWV1061の正確な自筆原本の有無や成立年代は写本資料の検討によりますが、近代的な版としてはバッハ全集(Bach-Gesellschaft)や新バッハ全集(Neue Bach-Ausgabe:NBA)で校訂されており、現代の演奏・研究はこれらの校訂版に依拠しています。楽譜上の装飾符やペダルの指示(チェンバロではなくフォルテピアノで演奏される場合の解釈)など、版ごとの差異にも注意が必要です。

楽曲の編成と演奏上の特徴

  • 編成:二台のチェンバロまたは二台の歴史的鍵盤楽器(フォルテピアノ等)をソロとし、弦楽器主体のオーケストラ(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、通奏低音)を伴う伝統的なバロック協奏の編成。
  • 楽章構成:典型的な速—緩—速の三楽章形式を取ることが多く、各楽章で二台のソロ鍵盤が対話と協調を繰り返す点が聴きどころ。
  • 質感:チェンバロ特有の即時性あるアーティキュレーションと装飾音の有効活用、さらに二つの鍵盤が互いに模倣・分散和音を展開することで高密度の対位法的テクスチャを生み出します。

形式・対位法的分析(楽章ごとの聴きどころ)

以下は楽章ごとの一般的な特徴と、分析上の注目点です。楽譜版や演奏によって表情は変わるため、録音とスコアの比較聴取をお勧めします。

第1楽章(速こうの楽想)

多くのバロック協奏曲同様、ソナタ形式的な構成要素を含む速楽章です。二台のチェンバロは時に協同して主題を提示し、時に互いに模倣し合うことで主題の展開を豊かにします。オーケストラはリトゥルネロ的に主題の枠組みを与え、ソロ群がその間を受け継ぐ形が典型的です。対位法的な発展部では、チェンバロ同士の掛け合い(エコーや逆行的な模倣)に注目すると、バッハの書法が明瞭に聴き取れます。

第2楽章(緩やかな楽章)

緩徐楽章では、より歌謡的な要素と和声の深化が現れます。チェンバロの装飾や間の取り方によって叙情性が増すため、奏者の解釈が色濃く反映されます。伴奏はしばしば簡潔で、ソロ二台の対話が中心となるため、テンポ設定と装飾の整理(どの装飾を必ず行うか、どのように短縮・伸長するか)が演奏の鍵となります。

第3楽章(快速楽章/舞曲的性格)

終楽章はしばしば舞曲風のリズムやリトリコを持ち、軽快なフィギュレーションが展開されます。二台のチェンバロの技巧的なパッセージワークが魅力で、フレーズごとの小さな呼吸やアゴーギクが曲の躍動感を左右します。対位法的な段取りが終結へと導く様は、バッハ的な構築美を感じさせます。

演奏法上の留意点(ヒストリカル・パフォーマンスとモダン解釈)

  • 楽器:チェンバロ、あるいは歴史的鍵盤(古典期フォルテピアノ)を用いるかで音色・持続感が大きく変化します。ヒストリカル・インストゥルメントによる演奏はアーティキュレーションがクリアで、対話性が強調されます。
  • 演奏人数:弦楽オーケストラの人数を少数にするか、近代的な大型編成にするかで音のバランスや対比が変わるため、各楽章のダイナミクス設計を明確にする必要があります。
  • 装飾とインプロヴィゼーション:バロック期の演奏慣習に基づき、即興的な装飾が期待されますが、過度な装飾は対位法を曖昧にする可能性があるため、楽曲のテクスチャを損なわない範囲での工夫が望まれます。
  • テンポ設定:速楽章での推進力、緩楽章での呼吸の置き方、終楽章でのリズム感の安定。歴史的なメトロノーム指示がない作品であるため、演奏者の音楽的判断が重要です。

主要な録音と解釈の比較(聞き比べのポイント)

近年の録音はヒストリカル・パフォーマンス(ピリオド楽器)とモダン楽器によるものに大別できます。ピリオド楽器の録音はテンポの機敏さとアーティキュレーションの輪郭がはっきりしている一方で、モダン楽器は音の持続とダイナミクスの幅で表情をつけやすいという特徴があります。聞き比べの際は、以下の点に着目してください:

  • チェンバロ同士のバランスと定位(左右に分かれた立体感)
  • オーケストラとソロとの対話(ソロが突出するのか、 chamber-music 的に溶け込むのか)
  • 装飾の有無・内容と、緩楽章におけるテンポの揺らぎ

作品の受容と現代における意義

BWV1061を含むバッハの鍵盤協奏曲群は、バロック協奏の枠組みを鍵盤楽器に巧妙に適用した点で高く評価されています。二台のチェンバロが織り成す対話は、協奏性(協調と競争)と対位法的な厳密さの両立を示し、後世の作曲家や演奏家にとっても学ぶべき技術的・表現的素材を提供しました。現代では歴史的演奏実践が普及したことにより、原典に近い音像で作品の構造が再評価されています。

聴きどころまとめ(実践ガイド)

  • 第1楽章:主題提示と模倣を追い、チェンバロ同士の対話に耳を傾ける。
  • 第2楽章:装飾と間の取り方で叙情性が変わるため、複数録音を比較して解釈の幅を感じる。
  • 第3楽章:リズムの推進力と終結の構築を確認し、フレーズごとの切れ目を意識して聴く。

研究上の課題と今後の展望

BWV1061に限らずバッハの編曲作法・原典の同定は未解決の問題を含んでいます。写本や伝承の検討、筆写者や版の比較研究、さらには演奏実践の記録を通じた演奏史研究が今後も進むことで、より精緻な解釈と表現が可能になるでしょう。またデジタル化された資料(写本画像やデータベース)の普及は、一次資料へのアクセスを容易にし、検証可能な研究を促進します。

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参考文献