マイナー音階のすべて:理論・和声・作曲実践ガイド
はじめに — マイナー音階がもたらす表現の幅
マイナー音階は、悲しみや憂鬱、哀愁だけでなく、神秘・緊張・複雑な色彩を音楽に与える重要な音素材です。クラシックからジャズ、ポップス、映画音楽まで幅広く用いられ、メロディや和声進行に独特のニュアンスをもたらします。本稿では、自然短音階(ナチュラル・マイナー)、和声短音階、旋律短音階という三つの基本形を出発点として、その構造、和声的機能、実践的な活用法、関連するモードや特殊和音(ネアポリタン、増6度和音など)まで深掘りします。
マイナー音階の基本形と音程構造
まず三つの基本形を整理します。トニックをA(イ短調)とした場合の音名で示すとわかりやすいです。
- 自然短音階(ナチュラル・マイナー、Aeolian): A - B - C - D - E - F - G - A。全音・半音の並びは 2-1-2-2-1-2-2(W-H-W-W-H-W-W)。
- 和声短音階(Harmonic minor): 自然短音階の第7音を半音上げる。A - B - C - D - E - F - G# - A。これにより導音(leading tone)が生まれ、V(主和音の属和音)を長和音にして強い終止感を与えられるが、6度と7度の間に増2度(1.5音程=増2度)ができる。
- 旋律短音階(Melodic minor): 古典的実践では上行形で6度と7度を上げ(A - B - C - D - E - F# - G# - A)、下行では自然短音階に戻す(下行: A - G - F - E - D - C - B - A)。ジャズでは上行下行ともに上げた形を用いるのが一般的(ジャズ・メロディック・マイナー)。
機能和声におけるマイナーの特徴
マイナー調の和声機能は長調と多くを共有しますが、重要な相違点がいくつかあります。
- 導音の有無: 自然短音階では第7音は短7度(G)であり、トニックへの強い向かいが弱い。和声短音階で第7音を上げると導音(G#)が生じ、完全終止(V→i)が成立しやすくなります。
- V和音の性質: 和声短音階によりV(E-G#-B)は長三和音で機能的なドミナントとなる。自然短音階のままではVは短和音(E-G-B)になり、終止力が弱い。
- 副和音と減三和音: ii°やv(小五度をもつv)など、短調特有の減少和音や短和音が頻出します。例えばii°は短調における緊張を高める役割を果たします。
短調ならではの和声進行と和声技法
短調で多用される和声技法をいくつか挙げます。
- V→i(完全終止): 和声短音階の導入なしには弱いが、7度を上げることで強い終止を作る。
- Neapolitan chord(ネアポリタン:♭II6): 主に第2音が半音下がった和音(例:B♭-D-F in A minor の場合 B♭は♭2)を第一転回形で用いる。進行上では通常Vへ行く前に用いられ、悲劇的で色彩的な効果を与える。
- 増6度和音(フランス増6、イタリア増6など): 低音に♭6を含み、Vへ解決するための強い導音的効果を持つ。短調の劇的な推進力に貢献する。
- モーダル・インターチェンジ(借用和音): 平行長調(例:A minor と A major)や他のモードから和音を借用することで、和声的色彩を拡張する。例えばIV(長四度)や♭VIなどが用いられる。
旋律作成の実践ポイント
メロディを書く際、短調特有の注意点と活用法があります。
- 導音の扱い: フレーズの終端や強拍に向かう際は7度を上げて導音を用いると終止感が明瞭になる。安定したメロディーでは下行時に自然短音階形に戻すことで古典的な表情を得られる。
- 6度の上下: 旋律短音階上行形で6度を上げると、和声短音階の増2度の不自然さを避けつつ滑らかな上行線が作れる。下行では自然短音階の6度を使って陰影をつくるのが伝統的。
- ペンタトニック・ブルースとの結びつき: マイナー・ペンタトニック(1-♭3-4-5-♭7)はポップ/ロックでの即興・フレーズ作成に適し、ブルース・スケールのフラット5(ブルーノート)と組み合わせることで強い感情表現が可能になる。
モードと短音階の派生
短調は単独のスケールだけでなく、関連するモードからも多彩な表現が得られます。
- Dorian(ドリアン): 自然短音階の6度が長6度に上がった形(例:Aドリアン = A B C D E F# G A)。ジャズやモーダル音楽で多用され、悲しさの中に明るさを感じさせる。
- Phrygian(フリジアン): 2度が半音下がる(♭2)ことでスペイン的、東洋的な色彩を持つ。緊張感が強い。
- Aeolian(エオリアン): 自然短音階そのもの。多くのフォークやポップスにもとづくスケール。
ジャズにおける旋律短音階と応用
ジャズでは旋律短音階(ジャズ・メロディック・マイナー)を両方向で用いることが一般的で、さまざまな和音に対する代替スケールとして活用されます。例えばmMaj7(短三度・長七度)やm6、ドミナントに対するオルタード・スケール(旋律短音階の各モード)など、テンションを豊かにするための基礎となっています。
具体的な和声進行と分析の例(一般的パターン)
代表的な短調の進行パターンをいくつか示します。
- i - iv - V - i:和声短音階でVを長和音にすることで強い終止が得られる。
- i - VI - III - VII:ロックやポップスでよく見られるサイクル。平行長調の和音を借用して開放感を生む。
- i - ♭II6 - V - i(ネアポリタンを用いる進行):ドラマティックな色彩。
- i - iv - v - i(自然短音階を意図的に使用):より素朴で古風な印象。
作曲・編曲での実践テクニック
現場で役立つ具体的なヒントです。
- 導音の部分的使用: フレーズの終端やクライマックスだけ7度を上げることで、普段はナチュラル・マイナーの暗さを保ちながら、特定箇所で強い決着を与えられます。
- モード混合: 1曲の中でDorianやPhrygian、Aeolianを使い分けることで、同一調性内に多様な表情を作れる。
- ベースラインの動き: ベースが半音で下降する進行(chromatic bass)や♭6への一時移動は短調のドラマ性を増強します。
- テンションの配置: ジャズや現代編曲では、m7やm9、m11などに9度・11度のテンションを加え、旋律短音階の特性を活かして柔らかい浮遊感を得る。
よくある誤解と注意点
いくつかのポイントで誤解が生じやすいので補足します。
- 「マイナー=常に悲しい」はステレオタイプ。短調は多様な表情(神秘、厳か、怒り、躍動など)をもちます。
- 旋律短音階の上行・下行の使い分けは時代的慣習であり、ジャンルによって違う(クラシックとジャズで扱いが異なる)。
- 和声短音階の増2度は必ずしも悪いものではなく、独特のエキゾチックさや緊張を生む重要な要素。
まとめ — 理論と感性のバランス
マイナー音階は単なる悲しみの記号ではなく、和声的・メロディ的に多層的な可能性を秘めています。自然短音階の素朴さ、和声短音階の導音による終止力、旋律短音階の滑らかさといった特性を理解し、モーダル・インターチェンジや特殊和音を適切に用いることで、作曲・編曲・即興の表現領域が大きく広がります。まずは基本形を耳で確認し、簡単な進行で試しながら各種借用やテンションの効果を体感することをおすすめします。
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参考文献
- Wikipedia: 短音階(日本語)
- Wikipedia: 和声短音階(日本語)
- Wikipedia: 旋律短音階(日本語)
- musictheory.net: Minor Scales (英語)
- Wikipedia: Neapolitan chord (英語)
- Wikipedia: Augmented sixth chord (英語)
- Wikipedia: Modal interchange (英語)
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