坂本龍一:音と言葉で世界を紡いだ巨匠

坂本龍一(1952年1月17日–2023年3月28日)は、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のキーボーディストとして世界的電子音楽シーンを切り拓き、ソロでは最先端の実験音響から国際的な映画音楽まで幅広く手がけた作曲家・ピアニストである。彼のキャリアは、幼少期のクラシック教育から東京芸大での電子・民族音楽研究、YMOでの革新的な活動、ソロ作『千のナイフ』『async』『12』といった実験的傑作、そして『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』などの映画音楽での数々の受賞にわたる。さらに、反核・環境保護運動への積極的な参加や、最晩年のドキュメンタリー『Coda』での創作哲学の提示が示すように、音楽を通じて社会と向き合い続けた姿勢は、多くの後進に影響を与え続けている。

幼少期と学究的探究

坂本龍一は1952年1月17日、東京・中野区の文学編集者の父と帽子デザイナーの母の間に生まれ、4歳で作曲、6歳でピアノを始めたとされる。10歳ではすでに自作曲を発表し、当時からクラシック音楽のみならず、ジャズ(ジョン・コルトレーンやオーネット・コールマン)やロック(ビートルズやローリング・ストーンズ)に深い愛着を示した。1970年には東京芸術大学音楽学部に入学し、作曲、電子音楽、民族音楽学を専攻。BuchlaやMoog、ARPなど当時希少なシンセサイザーを駆使して実験的な音響研究を行い、1974年に学士号、1976年に修士号を取得した。

YMO結成と電子音楽の先駆け

1978年、細野晴臣・高橋幸宏と共にYellow Magic Orchestra(YMO)を結成。シンセサイザーとドラムマシン、サンプラーを駆使したサウンドは、UKのニューウェーブや米国の初期ヒップホップ、テクノの発展に直接的な影響を与え、『Computer Game』や『Riot in Lagos』はエレクトロの金字塔として評価された。YMOは1984年までに数枚のスタジオ・アルバムを発表し、その後再結成を経て2012年まで活動を継続する中で、世界各地のフェスやライブで観客を魅了し続けた。

ソロ活動と実験的傑作

ソロデビュー作『千のナイフ』(1978年)は、日本の伝統音楽と最先端電子音楽を融合させた野心作として高い評価を受けた。1980年の『B-2 Unit』では、『Riot in Lagos』を再構築し、エレクトロ/ヒップホップ両シーンの先駆的トラックを生み出した。1999年発表の『BTTB』収録曲『Energy Flow』は、日本初のオリコン・インストゥルメンタル1位を獲得し、幅広いリスナー層に訴求した。2017年リリースの『async』では、咽頭がんとの闘病後に生まれた内省的なアンビエント世界を提示し、Pitchfork誌は「テクスチャーとムードの豊富さが際立つ傑作」と評した。2023年初頭に発表された遺作『12』は、呼吸音を取り込んだミニマルなピアノ・エチュード集となり、人生の儚さと美を静謐に描き出した。

映画音楽と国際的栄誉

1983年、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』で映画音楽家デビュー。主題歌『Forbidden Colours』は国際的ヒットとなり、デヴィッド・シルヴィアンとの共演が高く評価された。そして1987年、ベルナルド・ベルトルッチ監督『ラストエンペラー』でアカデミー賞作曲賞を受賞し、日本人作曲家として初の快挙を成し遂げた。その後も『シェルタリング・スカイ』(1990)、『リトル・ブッダ』(1993)、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015)の音楽でBAFTA賞、ゴールデングローブ賞、グラミー賞を獲得し、世界の映像音楽界における地位を不動のものとした。

社会運動と環境保護への献身

坂本龍一はアーティストとしての創造性を社会課題と結びつけ、2000年代以降は反核・環境保護活動に積極的に参加。特に青森・六ヶ所村の核燃料再処理工場建設反対運動『Stop-Rokkasho.org』に関わり、草の根支援を行った。2011年の福島第一原発事故後には、震災をテーマにした音楽作品の制作やチャリティー・コンサートを企画し、「音楽を通じた社会への問いかけ」をライフワークとした。

ドキュメンタリー『Coda』と創作哲学

2018年公開のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Coda』では、創作現場の映像とともに、東日本大震災後の反核運動や闘病生活が赤裸々に描かれた。そこでは「境界を超える好奇心」や「他者との共感」を軸にした坂本の創作哲学が示され、観る者に深い感銘を与えた。

レガシーと後進への影響

坂本龍一の業績は、YMOによる電子音楽の世界的普及、ソロでのジャンルを超えた実験的挑戦、映画音楽界への革新、そして社会活動と芸術の統合に及ぶ。彼のコラボレーション相手はデヴィッド・バーン、デヴィッド・シルヴィアン、イッギー・ポップ、アルヴァ・ノトら多彩で、音楽の境界を次々と押し広げた。没後も『12』や『async』、ドキュメンタリー『Coda』が再評価され、坂本の探究心と人間性を映す作品群は、未来の音楽家や活動家たちにとって永遠の指針となるだろう。

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