ジョン・ゾーン(John Zorn)入門:ジャンル別おすすめアルバムと聴き方ガイド
はじめに — John Zornという音楽家
John Zorn(ジョン・ゾーン)は、ジャズ、現代音楽、ノイズ、映画音楽、前衛ロック、そしてユダヤ音楽の要素を横断する作曲家/サックス奏者/即興演奏家です。1980年代以降、実験的なゲームピースや過激なバンド編成、そして多彩なレーベル運営(Tzadik)を通じて、現代のアヴァンギャルド音楽に大きな影響を与えてきました。本稿では「これから聴くならまずこれを」という観点で、代表的・入門に適したおすすめレコードをピックアップし、各作の聴きどころや背景をやや深掘りして紹介します。
聴き方の指針(ジャンルごとの入口)
- 短く刺激的な断片的衝撃を楽しみたい:Naked City 系(ハードコア〜ジャズ〜グラインドコアの断片的融合)
- 中東〜ユダヤ民謡感を軸にしたメロディ性を求める:Masada 系(ジャズとクレズマーが融合)
- 映画音楽風の情景描写やノワール的な美学が好き:Spillane や The Big Gundown
- 現代音楽的な緊張と劇性を味わいたい:Kristallnacht や室内楽作品
- 作曲と即興の「ルール」を楽しむ:Cobra(ゲームピース)
Naked City(Naked City) — 即刻の衝撃とジャンル断片の衝突
代表年:1989頃
聴きどころ:衝撃的なテンポ切替、短い楽曲の断片、ハードコア・スラッシュ的なアタックとフリージャズの混交。グループ名義の作品群は、ロック/メタル的エネルギーとジャズ的即興が極端に混ざったサウンドで、“驚き”を重要視するリスナーに強烈に響きます。
- 代表曲(聴きどころ): 「You Will Be Shot」〜短い曲の連打によるアグレッション、突発的な転調とサックスの叫び。
- なぜ聴くか:伝統的なジャンル境界を破壊する実験精神の最前線。Zornの多面性を一気に体感できる。
- おすすめポイント:短時間で強烈な印象を残すので、初めてZornに触れる人の「衝撃的入口」として有効。
Masada(Masada: Alef / Masada Quartet) — メロディックな深みと即興の美学
代表年:1994(Masada: Alef など)
聴きどころ:Zornが書いた多数の“テーマ”(モード的でユダヤ音楽に根ざす旋律)を、四重奏(Zorn, トランペット, ベース, ドラム)で演奏。楽曲はシンプルな主題を持ち、演奏者の即興で広がっていきます。叙情性とジャズの即興性が調和した、最も親しみやすい系列です。
- 代表曲(聴きどころ): 「Gevurah」や「Lamed」など—テーマの美しさと劇的な展開。
- なぜ聴くか:Zornの作曲家としての面と、ジャズ奏者としての即興力の両方をバランス良く味わえる。
- おすすめポイント:初めてのZorn体験が「難解すぎて挫折した」という人に一度試してほしい系列。
The Book of Angels(Masada Book Two の諸作) — 他アーティスト解釈で広がる世界
代表年:2000年代以降
聴きどころ:「Masadaの第2巻(Book of Angels)」に収められた作曲群は、多くの異なる編成・奏者によって録音されました。Zorn自身が全て演奏するわけではないため、演奏者の個性で曲が大きく変容します。ジャズ、クラシック、メタル、民族音楽など多様な解釈を楽しめます。
- 代表的な聴き方:ソロや小編成のアルバムを並べて、同一テーマが異なる解釈でどう変わるかを聴き比べると面白い。
- なぜ聴くか:Zornの作曲が“器(奏者)によって変容する様”を楽しめるコレクション。
The Dreamers(The Dreamers) — 明るくメロウな側面、"聴きやすさ"の極致
代表年:2008(The Dreamers)
聴きどころ:Marc Ribot、Jamie Saft、Cyro Baptista ほか名手を含むバンドによる、サーフ/エキゾ風味とラテン、ジャズが混じる“心地よい”作品群。Zorn作品の中でも親しみやすく、キャッチーなメロディーと洗練されたアンサンブルが特徴です。
- 代表曲(聴きどころ): アルバム全体が一貫してメロウで、リラックスして聴ける。
- なぜ聴くか:Zornの多様性を示す「聴きやすい」側面。入門盤として非常に推薦。
Spillane — ノワール的なサウンド・コラージュ
代表年:1987頃
聴きどころ:作家ミッキー・スピレイン(犯罪小説)の名を借りた構成的サウンドコラージュ。短い場面の切り替え、映画的フレーズ、ジャズとロック、電子音の混在が特徴で、映像的想像力を刺激します。
- 代表曲(聴きどころ): タイトル曲「Spillane」—場面転換の連続と音響的遊び。
- なぜ聴くか:Zornの“語るような”構成力と劇的センスが色濃く出た作品。
The Big Gundown — 映画音楽の解釈と再構成
代表年:1986(オリジナル)
聴きどころ:エンニオ・モリコーネなど映画音楽の名曲を再解釈した作品。編曲の妙、フリー寄りの即興とのバランス、そして映画的な雰囲気の再創造が魅力です。
- 代表曲(聴きどころ): モリコーネ作品の再編曲群—原曲の持つイメージをZorn的に再提示。
- なぜ聴くか:映画音楽好きがZornに入るための橋渡しになりやすい。
Kristallnacht — 記憶と震え、劇的室内楽
代表年:1993頃(作品としての初演/録音周辺)
聴きどころ:ショッキングで重層的な室内楽的作品。ホロコーストの記憶をテーマにしたこの作品は、聴く者に強い心理的インパクトを与えます。旋律美よりは劇性、緊張、そして沈黙の使い方が特徴的です。
- 代表曲(聴きどころ): アルバム全体が一つの劇的体験。
- なぜ聴くか:Zornの「記憶/歴史」に向き合う深い一面を知るための重要作。
Cobra(ゲームピース) — ルールによる即興の実験場
代表年:1980年代(複数録音あり)
聴きどころ:指揮者的カードやシグナルを用いる“ゲームピース”の代表作。楽譜どおりではない、ルールに基づく集団即興の面白さが詰まっています。演奏ごとに全く違う結果が生まれる点が魅力。
- 代表曲(聴きどころ): 作品は一大“現場もの”。ライブ録音での多様な解釈を比べるのが面白い。
- なぜ聴くか:作曲+即興の境界を理解するための教科書的作品。
おすすめの聴き進め方(順路)
- まず聴きやすいものから:The Dreamers → Masada(Alef)
- 次に刺激的な側面へ:Naked City → Spillane → The Big Gundown
- 作曲/思想の深みへ:Kristallnacht → Cobra → Book of Angels の色々な解釈
- 気に入った系列ができたら、その周辺アルバムやライブ録音を掘る(Zornは同じ曲を年代や編成を変えて何度も録音している)
聴くときの留意点・楽しみ方のコツ
- ジャンルの「切断」を恐れない:Zornはジャンル混交が本領。曲ごとに期待を切り替えると楽しみやすい。
- 演奏者をチェックする:同じ曲でもメンバー構成で色が変わる。特にMasada系は奏者による違いが大きい。
- ライブ録音を聴く価値:Zornの即興要素はライブでこそ光る場合が多い。
- リリース年やシリーズ(Masada Book 1/2、Naked City 等)を追うと作風の変遷が見える。
最後に
John Zornは「取っつきにくい前衛」と評されることもありますが、実際にはメロディアスで親しみやすい作品から、破壊的でショッキングな作品までレンジが広く、自分の好みの“入口”を見つければ深く楽しめる作曲家/演奏家です。本稿で挙げたアルバム群は、彼の多面性を知るうえで有効なラインナップなので、気になる一枚からぜひ聴いてみてください。
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