ジェネシス・ピー・オリッジ入門:Throbbing Gristle/Psychic TVの必聴レコードと聴き方ガイド
はじめに — Genesis P-Orridge を聴く理由
Genesis P-Orridge(ジェネシス・ピー・オリッジ)は、1970年代後半のインダストリアル音楽の誕生に深く関わり、その後もパンク/実験音楽、サイケデリア、アシッドハウス、パフォーマンス・アートなどを横断して活動したアーティストです。音楽的にも思想的にも「境界を壊す」ことを旨とし、バンドやプロジェクトごとに全く異なる顔を見せてきました。本コラムでは「入門」と「深掘り」の両面から、まず聴いておくべき代表的レコードを選び、その意義や聴きどころを解説します。
Genesis P-Orridge の活動概要(簡潔)
- COUM Transmissions:初期のパフォーマンスアート集団(音楽というよりアート活動の源流)。
- Throbbing Gristle(TG):P-Orridge(当時はGenesis P-Orridge)らによる「インダストリアル」草創期のバンド。衝撃的な音響と表現で後の多くのジャンルに影響。
- Psychic TV(PTV):TG解散後に結成。実験性を保ちながらポップ、アシッド、サイケ、宗教的モチーフなどを横断する大量の音源を残した。
- Thee Majesty / Splinter Test / ソロ活動:より言語的/ヴォーカル中心の実験や、Lady Jayeとの共同で掲げた「Pandrogyne(パンロジニー)」など個人的なテーマを軸に展開。
おすすめレコード(Throbbing Gristle 編)
The Second Annual Report(1977)
なぜ聴くか:インダストリアルという言葉以前に、既存のロック/ポップのルールを根本から問い直した記念碑的作品。ノイズ、フィールド・レコーディング、不穏なコラージュが混在し、後のノイズ/アヴァンギャルド勢に決定的な影響を与えました。
- 聴きどころ:即物的なノイズと不安を煽る音像、ライブに近い切迫感。
- 代表曲的断片:本作全体の流れを通じて聴くことで当時の衝撃が分かります(いわゆる「曲」的な構成を期待しないでください)。
D.o.A: The Third and Final Report(1978)
なぜ聴くか:The Second Annual Report の延長線上にありながら、よりダークで挑発的な要素を強めた傑作。政治的、社会的な不満と個人的な破壊衝動が混ざり合い、インダストリアルの核を凝縮しています。
- 聴きどころ:「We Hate You (Little Girls)」など挑発的タイトル/表現が並び、倫理や表現の境界を問う。
20 Jazz Funk Greats(1979)
なぜ聴くか:タイトルとは裏腹に、より“楽曲”性とユーモア、メタ的な遊びが混ざった作品。メロディやビートの要素を取り入れつつも不気味さを失わない構成で、TG の表現の幅広さを示す一枚です。
- 聴きどころ:「Hot on the Heels of Love」など、比較的聴きやすいトラックがあり、TG の“魅せ方”を学べます。
おすすめレコード(Psychic TV 編)
Force the Hand of Chance(1982)
なぜ聴くか:Psychic TV の初期作として、ポップ、実験、アヴァンギャルド、宗教的語彙を大胆に組み合わせた野心作です。Genesis の語り/詩的表現が前面に出ており、TG 時代からの流れを感じつつも別の領域へ踏み込んでいます。
- 聴きどころ:叙情的なパートとノイズや即興的パートの落差。歌詞や語りが内省的で、思想的メッセージを探る楽しさがある。
Dreams Less Sweet(1983)
なぜ聴くか:より劇的で演劇的なアプローチ、叙事詩的な構成が目立つ作品。サイケデリックかつゴスペル的な要素も折り込み、Psychic TV の多面性を示します。
- 聴きどころ:音像の映画的な展開。ライブ感と演出の巧みさ。
Jack the Tab / Tekno Acid Beat(1988)
なぜ聴くか:Psychic TV 名義でリリースされたアシッドハウス周辺のコンピレーション群。90年代のクラブ文化へ向けた実験であり、Genesis が新しいダンス音楽の文脈にも積極的に関与していたことを示す重要な資料です。
- 聴きどころ:アシッド/ハウス的なサウンドデザイン、匿名名義での多作主義が面白い。
「Godstar」シングル(1985、Psychic TV)
なぜ聴くか:ブライアン・ジョーンズ(Rolling Stones の創設メンバー)を題材にした楽曲で、ポップと神話化の手法が混ざった興味深い作品。Psychic TV の「ポップへの志向」と「神話的語り口」を示す一曲です。
Trip Reset(1996)
なぜ聴くか:1990年代のPsychic TV を代表する一枚で、カバー曲の解釈やリセット(Trip Reset)というテーマを通じて、リヴァイヴァル的/自己再生的な側面を打ち出しています。90年代のオルタナティヴ/シーンとの接続点としても価値があります。
おすすめレコード(Thee Majesty / Splinter Test / ソロ 編)
なぜ聴くか:より語り(ヴォイス)を中心にした演劇的・儀式的な表現、そして個人的テーマ(パンロジニー、パートナーシップ、アイデンティティ)が深掘りされる時期。音楽というより「サウンド・アート」「朗読劇」に近い作品もあり、Genesis の思想に直接触れられます。
- 当該プロジェクトの録音は断片的かつ多岐にわたるため、興味があれば Thee Majesty / Splinter Test 名義の編集盤やライブ盤から入ると取り掛かりやすいです。
聴き方・楽しみ方(深掘りのヒント)
- 一作ごとに「期待値」を切り替える:TG の初期作はショックと実験性、PTV は多ジャンルの横断、Thee Majesty 系は言語中心の儀礼性を想定して聴くと良い。
- 歌詞・語りを追う:Genesis はテキストや神話的モチーフを好むため、歌詞やライナーノーツ(可能なら)を併読すると作品の意図が見えてくる。
- 歴史的文脈で聴く:1970〜90年代のUKのアンダーグラウンド、クラブ文化、カウンターカルチャーとの接点を意識すると、音が持つ“意味”が浮かび上がります。
- ライブ録音や編集盤も重要:スタジオ作だけでなくライブや編集コンピがGenesisの多作性を示すため、コレクションとして掘る価値があります。
影響と遺産
Genesis P-Orridge の音楽/表現は、インダストリアル、ノイズ、インダスビート、アシッドハウス、ゴシック、アヴァンポップなど多くのジャンルに影響を与えました。また音楽以外でも、パフォーマンス・アートやジェンダー/ボディ政治に関する議論を喚起し続けた点も大きな遺産です。単に「音が尖っている」だけでなく、表現の境界を拡張するという姿勢自体が多くのアーティストに受け継がれています。
まとめ
Genesis P-Orridge の作品群は、多作かつ方向性が幅広いため、まずはThrobbing Gristleの主要作でインダストリアルの基礎を掴み、Psychic TV の初期〜中期作で表現の幅を体感し、興味が湧けばThee MajestyやSplinter Testといった個人的/儀式的な側面へ進む、という順が聴きやすい流れです。各作品は単なる音楽作品を超えた“思想的オブジェ”として楽しめます。
参考文献
- Genesis P-Orridge — Wikipedia
- Throbbing Gristle — Wikipedia
- 20 Jazz Funk Greats — Wikipedia
- D.o.A: The Third and Final Report — Wikipedia
- The Second Annual Report — Wikipedia
- Psychic TV — Wikipedia
- Force the Hand of Chance — Wikipedia
- Dreams Less Sweet — Wikipedia
- Godstar (single) — Wikipedia
- Jack the Tab / Tekno Acid Beat — Wikipedia
- Thee Majesty — Wikipedia
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