ユーザビリティを徹底解説:評価指標・評価手法・実践プロセスとUX・アクセシビリティ・ROI
はじめに:ユーザビリティとは何か
「ユーザビリティ(usability)」は、ITプロダクトやサービスがユーザにとってどれだけ使いやすいかを示す概念です。国際規格 ISO 9241-11 によれば、ユーザビリティは「特定の使用状況において、特定のユーザが特定の目的を効果的、効率的かつ満足して達成できる程度」と定義されています。つまり、単に機能があるかどうかだけでなく、ユーザが目的をどれだけスムーズに達成できるか(効果性)、どれだけ少ない労力で達成できるか(効率性)、そして使っていてどれだけ満足できるか(満足度)を含みます。
ユーザビリティの主要要素
一般的にユーザビリティは複数の側面から評価されます。Jakob Nielsen が提案する代表的な要素を挙げると:
- 学習容易性(Learnability): 初めてのユーザがどれだけ簡単に基本的な操作を習得できるか。
- 効率性(Efficiency): 習熟したユーザがどれだけ迅速にタスクを完了できるか。
- 記憶容易性(Memorability): 一度使わなくなった後でも、再び使うときにどれだけ操作を思い出しやすいか。
- エラーの少なさ/回復容易性(Errors): ユーザが犯すエラーの頻度・重大さと、その回復のしやすさ。
- 満足度(Satisfaction): 使用経験がどれだけ快適・好ましいか。
ユーザビリティと UX(ユーザーエクスペリエンス)の違い
ユーザビリティは「使いやすさ」に焦点を当てる概念ですが、UX はそれに加えて感情、ブランド印象、認知的価値など広範囲を含む概念です。つまり良好なユーザビリティは良いUXの重要な要素ですが、UX はそれ以上にユーザの期待や感動、信頼性など定性的な側面も含みます。
評価指標(メトリクス) — 何を測るべきか
ユーザビリティを定量化するための代表的な指標:
- タスク成功率(Task success / completion rate): 指定タスクを達成した割合。
- エラー率(Error rate): タスク中に発生した誤操作や障害の頻度。
- 時間(Time on task): タスク完了にかかる時間(効率の指標)。
- 主観評価(Satisfaction): SUS(System Usability Scale)などのアンケートで測定。SUSは0〜100のスコアで、68以上が平均的な合格ラインの目安とされます。
- 学習曲線(学習速度): 初回と反復使用時のパフォーマンス比較。
代表的な評価手法
ユーザビリティ評価には定性・定量の多様な手法があります。目的や開発フェーズによって使い分けます。
- ユーザテスト(Lab / Remote): 実際のユーザにタスクを実行してもらい、行動・発言・所要時間を観察する。フォームやワイヤーフレームの検証に有効。
- モデレート/アンモデレート(Remote moderated / unmoderated): 遠隔で進行者がつくか否か。スケールやコストで選択。
- シンクアラウド法(Think-aloud): ユーザに操作しながら思考を口に出してもらい、認知プロセスを解析する。
- ヒューリスティック評価: 専門家がNielsenの10ヒューリスティクス等に基づき問題点を洗い出す。コスト効率が高い。
- 認知ウォークスルー(Cognitive walkthrough): 初見ユーザの視点で操作手順の可否を検討する手法。
- A/Bテスト: 実際のトラフィックを用いて2案を比較し、コンバージョンや離脱率などで有利な方を採用する。
- 解析データ(Google Analytics 等): 離脱ページやファネルのボトルネックを定量的に特定する。
- カードソーティング/ツリー・テスト: 情報アーキテクチャ(ナビゲーションやカテゴリ)の妥当性を検証。
実践プロセス:設計と評価を回すための流れ
理想的にはユーザビリティの検討は一度限りではなく反復的に行います。一般的な流れ:
- 要件定義・ユーザ理解: ペルソナ、利用シナリオ、ゴールの明確化。
- ワイヤーフレーム/プロトタイプ作成: 低・中・高忠実度のプロトタイプを段階的に作成。
- 早期のユーザテスト(ラピッドプロトタイピング): 早い段階で問題を検出して修正。
- 定量評価の実施: A/B テストや解析データで実際の利用状況を計測。
- 改善と再評価: 優先度の高い課題から対応し、継続的に品質を向上。
小さなチームや予算が限られる場合の実践術
リソースが限られる場合でも取り組める実践例:
- ギャラリーや社内での「ギャリラテスト」: 近くの潜在ユーザに5人程度試してもらうだけで多くの重大問題が見つかる。
- タスク中心の観察: 代表的な3〜5タスクに絞って測定する。
- 解析データ+簡易アンケート: 行動データで問題点を特定し、サーベイで背景を補完。
- 優先度付け(影響度×工数): まずは影響の大きい低工数施策を実装。
よくある問題と改善のヒント
- 入力フォームが長すぎる → 必須項目を絞る・自動補完・インラインバリデーションを導入。
- CTA(行動喚起)が不明瞭 → 色・ラベルを明確にし、コンテキストを一致させる。
- ナビゲーションが複雑 → ラベルをユーザ語に合わせる、最小深度でアクセス可能にする。
- エラーメッセージがわかりにくい → 問題と解決策を具体的に提示する(例:「無効な日付」ではなく「YYYY-MM-DD の形式で入力してください」)。
- モバイルでの操作性が低い → タップ領域の拡大、レスポンシブデザイン、パフォーマンス最適化。
アクセシビリティとの関係(インクルーシブデザイン)
ユーザビリティとアクセシビリティは相互に関連します。アクセシビリティ(障害を持つ人も含めて利用可能にすること)を無視すると、特定のユーザ層で使えない(=ユーザビリティが低い)状態になります。Webアクセシビリティ基準である WCAG(W3C)に準拠することは、多様なユーザにとっての使いやすさを高めます。
ツールとリソースの例
代表的なツール:
- ユーザテスト系: UserTesting, Lookback, Maze
- 解析系: Google Analytics, Hotjar, FullStory
- A/B テスト: Optimizely, Google Optimize(利用可否は時期に依存)
- プロトタイピング: Figma, Adobe XD, Sketch
導入のROI(費用対効果)
ユーザビリティ改善は初期コストが必要ですが、コンバージョン改善、サポートコストの低減、ユーザ離脱の抑止など長期的には費用対効果が高い投資になります。小さな改善(フォームの簡略化、ボタン配置の最適化)でも成果が出るケースが多いので、継続的に改善サイクルを回すことが鍵です。
まとめ:継続的な改善が鍵
ユーザビリティは一度作って終わりではなく、ユーザのニーズや環境が変わるたびに評価・改善を続けるべきものです。定量的な指標と定性的な観察を組み合わせ、ユーザ中心設計の原則に沿って小さく素早く検証を重ねることで、使いやすく満足度の高いサービスを育てていけます。
参考文献
- ISO 9241-11: Ergonomics of human-system interaction — Part 11: Guidance on usability (ISO)
- Usability 101: Introduction to Usability — Nielsen Norman Group
- 10 Usability Heuristics for User Interface Design — Nielsen Norman Group
- System Usability Scale (SUS) — Usability.gov
- Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) — W3C
- Usability.gov — User experience and usability resources


