リー・“スクラッチ”・ペリーとブラック・アークのダブ遺産:名盤ガイドと聴きどころ、現代音楽への影響
はじめに — リー・“スクラッチ”・ペリーとは
Lee "Scratch" Perry(リー・“スクラッチ”・ペリー、1936–2021)は、ジャマイカのプロデューサー/エンジニア/作曲家であり、レゲエとダブの発展に決定的な役割を果たした人物です。自らのスタジオ「ブラック・アーク(Black Ark)」で生み出したサウンドは、テープ・ディレイやバネ・リバーブ、ノイズや環境音の奇抜な重ね方、ヴォーカルの重層処理といった独自の手法で知られ、後世のポップ/エレクトロニカ/ヒップホップにも多大な影響を与えました。本稿では、ペリー作品/ペリーがプロデュースした名盤を厳選し、それぞれの聴きどころや歴史的意義を深堀して解説します。
おすすめレコード(要チェック盤)
Super Ape — The Upsetters (1976)
概要:ブラック・アーク期の代表作のひとつで、ペリーのダブ的実験が最も分かりやすく凝縮されたアルバム。ザ・アップセッターズ名義でリリースされました。
聴きどころ:重厚なベースとスペーシーなエフェクト、キレのあるドラム・フレーズに、奇妙な効果音(動物の叫び、電話のベルなど)が散りばめられ、楽曲ごとに“小宇宙”が立ち上がります。トラックを通じての空間構築(前後左右の定位感)や、残響の使い方に注目すると、ペリーがスタジオをどのように“楽器”として扱っていたかがよく分かります。
代表曲: "Zion's Blood"、"Croaking Lizard"
Heart of the Congos — The Congos (produced by Lee "Scratch" Perry) (1977)
概要:The Congos(セドリック・マイトン等)のアルバムで、ペリーがプロデュース/ミックスを担当。ブラック・アークで録られたルーツ・レゲエの金字塔とされる作品です。
聴きどころ:セドリック・マイトンらの独特なハーモニーと、ペリーの濃密なプロダクションが融合。多層のコーラス、緻密に調整されたリバーブとディレイ、低域の包み込み方は、聴く者を神秘的な世界へ引き込みます。オリジナル盤や良好なリマスタリングで聴くと、ミックスの深さがより明瞭に感じられます。
代表曲: "Fisherman"、"Congoman"
War Ina Babylon — Max Romeo (produced by Lee "Scratch" Perry) (1976)
概要:マックス・ロメオの政治/社会的メッセージを強く打ち出したアルバムで、ペリーのプロダクションによってサウンドとメッセージが両立した名盤です。
聴きどころ:ペリーのブラック・アーク流の質感が、ロメオの切実な歌詞と相まって、非常にドラマティックな空気を作ります。ロック・ステディからルーツ、ダブへの流れを感じられる一枚で、ベースラインの動かし方や間の作り方、声の生かし方が学びどころです。
代表曲: "Chase the Devil"(後世のサンプリング例が多数)、"One Step Forward"
Blackboard Jungle Dub — Lee "Scratch" Perry & The Upsetters (1973)
概要:初期のダブ作品の重要作。インスト中心のダブ・ミックスが前面に押し出されたアルバムで、ペリーの“スペース作り”の原型が確認できます。
聴きどころ:楽曲の骨格を残しつつエフェクトで要素を引き出したり引っ込めたりする、ダブの基本テクニックが詰まった一枚。特にリバーブやディレイで“空間”を形成する手法は、後のエレクトロニック音楽にも直結します。
Arkology — Lee "Scratch" Perry (Trojan Compilation, 1997)
概要:ブラック・アーク期を中心とした大規模なコンピレーション三枚組。ペリーの仕事を幅広く知りたいリスナーに最適です。
聴きどころ:アルバム単位で聴くのとは別に、プロデュース音源を通史で聴けるため、ペリーのサウンドの変遷、共作ミュージシャン(Upsetters、The Congos、Max Romeo、Junior Murvin等)との関係、ブラック・アークの特徴が総覧できます。入門盤として非常に便利です。
Jamaican E.T. — Lee "Scratch" Perry (2002)
概要:ペリーの晩年作品のひとつで、彼の怪才ぶりと現代のゲスト/コラボを織り交ぜたアルバム。ブラック・アーク期とは異なるが、ペリー節は健在です。
聴きどころ:当時のテクノロジーや他ジャンルの影響を受けたサウンド処理が聴ける一方、ヴォーカルやフレーズの扱いにおいては従来の“ペリー流”が残っています。彼の長年の実験精神を追体験する意味で興味深い作品です。
各アルバムを聴く際のポイント(音楽的観点)
ミックスの「抜き差し」を意識する:ペリーは特定の楽器を瞬間的に消したり、エフェクトで瞬時に前に出したりすることでドラマを作ります。個々のトラックを注視すると、その「抜き差し」の妙が楽しめます。
空間(リバーブ/ディレイ)の使い方:ブラック・アークは小さな部屋でのリバーブ処理やテープ・ディレイの微妙な調整が特徴。残響の長さや反復の頻度が楽曲のトーンを決定づけます。
声の扱い:コーラスやリードはしばしば重ねられ、フェイズ感や不安定さを意図的に残したミックスにされます。ヴォーカルの“前後感”を注目してみてください。
エフェクトを“作曲”として捉える:ノイズや環境音、エレメントの編集自体がメロディやリフの役割を果たすことがあります。単純に楽器演奏とは別の作曲法です。
購入・聴取のおすすめ順序(初めての人向けガイド)
まずは「Arkology」のようなコンピでブラック・アーク期の代表曲に触れる。
興味が湧いたら「Heart of the Congos」「War Ina Babylon」「Super Ape」をアルバム単位でじっくり聴く。各々でプロダクションの違いが分かります。
ダブの原理をより深く味わいたければ「Blackboard Jungle Dub」などのインスト/ダブ作品へ進む。
最新/晩年作を聴くことで、ペリーの長期的な創造力の変化を比較するのも面白いです(例:Jamaican E.T.)。
なぜ今改めて聴くべきか — 現代音楽への影響
ペリーの仕事は単にレゲエ/ダブの文脈に留まりません。サンプリング文化、エレクトロニカ、インダストリアル、ヒップホップ、ポストパンクなど幅広いジャンルが彼の技術や美意識を取り込みました。スタジオを“音のラボ”として扱う姿勢、偶然を肯定して取り込む実験精神は、現代のプロデューサーや音響作家にとって教科書的な価値があります。
聴き比べ&深掘りのためのリスニング・ワークショップ(提案)
同じ曲の「ヴォーカルあり版」と「ダブ版」を交互に聴き、何が削られ何が強調されているかをノートする。
ベースとドラムを中心にヘッドフォンで低域と定位をチェックし、ブラック・アーク特有の“詰まり”と“解放”を感じ取る。
好きなトラックの効果音や残響を真似して、自宅の簡易録音で簡単なダブ・リミックスを作ってみる(実験が理解を深めます)。
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参考文献
- AllMusic — Lee "Scratch" Perry(アーティストページ)
- The Guardian — Lee "Scratch" Perry obituary
- BBC — Lee "Scratch" Perry: obituary and overview
- Pitchfork — Lee "Scratch" Perry obituary and highlights
- Discogs — Lee "Scratch" Perry(ディスコグラフィ)
- AllMusic — Arkology(コンピレーション情報)


