インターレース完全ガイド:歴史・原理・デインターレース処理と現代映像の実務対応
インターレースとは:概要と原理
インターレース(インターレース走査)は、映像フレームを2つの「フィールド」に分けて表示する走査方式です。1フレームの奇数ライン(上フィールド)と偶数ライン(下フィールド)を別々に順次送り出すことで、1秒あたりの「フィールド数」を高め、動きのちらつき(フリッカー)を抑えつつ伝送帯域を節約することを目的としています。古典的な方式では、例えば30フレーム/秒の映像は実質的に60フィールド/秒として表示されます。
なぜインターレースが生まれたか(歴史的背景と目的)
インターレースは、初期の電子テレビ放送で視覚的なちらつきを軽減し、かつ限られた伝送帯域で滑らかな動きを実現するために採用されました。ブラウン管(CRT)ディスプレイの特性と、当時の送受信機の性能・帯域制約を考慮すると、フレームレートを倍にする(=フィールドレートを上げる)ことで視覚上の残像を利用して動きを滑らかに見せるのが合理的でした。
技術的な仕組み(フレームとフィールド、レートの関係)
- フレーム:完全な垂直走査の1枚分(すべての走査線を含む)。
- フィールド:フレームを奇数ラインと偶数ラインに分けた半分の走査線群。上/下フィールドと呼ばれる。
- フィールドレート:1秒間に表示されるフィールド数。通常はフレームレートの2倍になる。
例:NTSC系(歴史的には約29.97フレーム/秒)の映像は約59.94フィールド/秒で送られ、これが「60i」「59.94i」などと表現されます。PAL系は25フレーム/秒=50フィールド/秒(50i)です。
代表的なインターレース規格・表記
- 480i(NTSC相当、720×480 或いはそれに準拠した解像度、約59.94フィールド/秒)
- 576i(PAL/SECAM相当、720×576、50フィールド/秒)
- 1080i(ハイビジョン、1920×1080、通常は50iまたは59.94i)
表記の「i」はインターレースを示します(例:1080i60は1080ライン、60フィールド/秒)。放送や機器によっては29.97fps/59.94Hzのように小数表記が用いられます。
代表的な問題点とアーティファクト
- コーミング(combing):高速に動く被写体の境界で上下フィールドの時間差が見える縞模様。
- ラインツイッター:細かい縦方向の模様がちらついて見える現象。
- モーションブラーとジッター:フィールド間時間差のために、動きの連続感が損なわれることがある。
- テレシネ由来のジャダー:映画(24p)をテレビ用(30i等)に変換する際の3:2プルダウンなどで生じる不自然な動き。
インターレース映像の生成・変換(テレシネ、PSFなど)
フィルム(24フレーム/秒)をNTSC相当のインターレース映像に変換する際、3:2プルダウン(3:2 telecine)が用いられます。これは24フレームを30フレームの順序に合わせるため、特定のフレームを3/2フィールドの比率で繰り返す手法で、結果として微妙な動きの不連続(ジャダー)が出ます。
一方で、Progressive Segmented Frame(PSF)は、プログレッシブのフレームを互換性目的で2つのセグメント(擬似フィールド)に分割して送る方式で、観察上はプログレッシブに近い利点があります(例:1080p24を1080/24p互換で扱う際の互換手段)。
デインターレース(逆変換)の方法とアルゴリズム
フラットパネル(LCD/OLED等)はピクセル単位で逐次描画するため、インターレース信号は基本的にデインターレースしてから表示されます。代表的な手法には:
- Weave(ウィーブ):上下フィールドを組み合せて1フレームにする。静止画では高画質だが動きがあるとコーミングが発生。
- Bob(ボブ):各フィールドを独立したフレームとして扱い、欠けたラインを補間して拡大表示。動きには強いが解像度が半分になる傾向。
- Motion-adaptive:静止領域はWeave、動きのある領域はBobまたは補間処理を使う。多くの実装で標準的。
- Motion-compensated(運動補償):画素の移動を推定して新しいフレームを再構築。高品質だが計算コストが高く、推定ミスが逆にアーティファクトを発生させる場合もある。
コーデックや放送での扱い
MPEG-2、H.264(AVC)はインターレース映像の符号化をサポートしており、フィールド単位での符号化やフレーム内でのフィールド情報を扱う機能があります。HEVC(H.265)にはインターレースを扱う拡張・手法が存在しますが、配信やアーカイブの分野では帯域の効率化や処理の容易さからプログレッシブが好まれる傾向になっています。
現代のディスプレイと配信における扱い
CRTの時代はインターレースの描画が自然でしたが、現在のフラットパネルはネイティブにプログレッシブ表示を行うため、インターレース映像は必ずデインターレース処理されます。配信(ネット配信、VOD)やWebではプログレッシブ(例:24p、30p、60p)が主流です。放送の互換性や帯域制約のためにインターレースが残っている領域(地上波放送や一部のライブ放送)もありますが、徐々に置き換わりつつあります。
制作・編集時の注意点とベストプラクティス
- 素材のフィールド/フレーム構成(インターレースかプログレッシブか)を正確に識別すること。誤った設定はコーミングやモーションの破綻を招く。
- 編集ソフトでデインターレースを行う場合、アルゴリズム(motion-compensated等)の品質を確認する。重要な映像では高品質な処理を選ぶ。
- 24pフィルムソースを扱う場合、テレシネの痕跡を取り除く(inverse telecine)ことで本来の24pを復元できることがある。
- 配信向けには原則プログレッシブでエンコードするのが安全。どうしてもインターレースのまま扱う必要がある場合は、再生環境でのデインターレース品質を考慮する。
実務上のまとめ(いつインターレースを気にすべきか)
次の場合には特にインターレースについての理解・対処が必要です:放送用マスターの作成、古いインターレース素材のデジタル化、フィルム→テレビ変換の履歴がある素材、あるいはライブ中継で帯域・互換性の制約があるワークフロー。一般のWeb動画や最近のデジタルカメラで撮影した素材(多くはプログレッシブ)は、インターレース問題を意識する必要は小さいです。
結論
インターレースは歴史的には合理的で有用だった技術ですが、ディスプレイ技術の進化や配信方式の変化により、現代では扱いに注意が必要な「レガシー」要素になっています。素材の特性を正しく把握し、適切なデインターレース/逆テレシネ処理を行うことが、画像品質維持の鍵です。
参考文献
- インターレース映像(Wikipedia 日本語)
- Interlaced video — Wikipedia (English)
- Deinterlacing — Wikipedia (English)
- Telecine — Wikipedia (English)
- ITU-R Recommendations (BT Series) — ITU
- Recommendation ITU-R BT.709 — HDTV (色域・サンプリング等)
- FFmpeg Documentation — デインターレースやインターレースフラグの扱い参考


