ヴィラヤト・カーンのガヤキーを聴く:入門から深掘りまでの名盤ガイドと聴きどころ
イントロダクション — ヴィラヤト・カーンという巨匠
ヴィラヤト・カーン(Ustad Vilayat Khan, 1928–2004)は、インド古典音楽のシタール奏者の中でも最も個性的かつ影響力のある存在の一人です。イムダードカーン(Etawah)派の出身で、声楽を模倣する「ガヤキー・アン(gayaki ang)」の表現をシタールに持ち込んだことで知られます。極めて歌心のあるアルペ、長いメーンド(滑り)や繊細な音色操作、また単音的な装飾で歌うようにフレーズを展開するのが彼の特徴です。
選盤の指針 — どんなレコードを選ぶべきか
- ガヤキー表現を聴きたい:ヴィラヤト・カーンのアルペや中間部(jor/jori)での歌うようなフレージングがよく聴ける、長尺のラガ録音を選ぶ。
- 技巧と速いパッセージを楽しみたい:後半のテンポが上がる部分(jhalaやgat)での右手・左手の掛け合いがはっきり録られている音源を。
- 伴奏者(タブラ)にも注目:アラ・ラカ(Alla Rakha)やザキール・フセイン(Zakir Hussain)等、名手との共演盤は対話の妙が聴きどころ。
- ライブ録音 vs スタジオ録音:ライブでは即興的な伸びとリアクションが強く、スタジオ録音では音響とミックスが整っていることが多い。目的に応じて選ぶ。
おすすめレコード(入門〜深掘り)
以下は入手しやすさ・代表性・演奏の質を基準にピックアップしたレコード(LP/CD で流通していることの多い盤)です。アルバム名はプレスや再発によって表記や収録が異なることがあるため、収録ラガ名や伴奏者(クレジット)を目安に探すと良いでしょう。
1. 入門向け(ヴィラヤト・カーンの“顔”を知る)
「The Very Best of Vilayat Khan(/The Best of Vilayat Khan)」系のコンピレーション
ポイント:比較的短時間で代表的なラガや名演をまとめて聴ける。Yaman・Bhairav・Darbari等、歌心のある演奏が収められていることが多いので、彼の表現様式をつかむのに適している。
2. 名盤・必聴録音(深く聴きたい人向け)
長尺のラガ録音(例:Raga Yaman / Raga Darbari / Raga Bhimpalasi など)
ポイント:ヴィラヤト・カーンのガヤキー表現、アルペの展開、ジョール〜ジョラ〜ジャーラ(jhala)への移行が堪能できる。1曲が30分〜1時間になることもあり、演奏の構築を追いやすい。ライブ録音(欧米やボンベイでのライヴ音源)
ポイント:即興の展開や聴衆との相互作用が聴ける。レパートリーによっては通常のスタジオ盤では聴けない自由な解釈が出ることがある。
3. 協演・対話を楽しむ盤
Alla Rakha や Zakir Hussain など名タンブーラ奏者・カヤールとの共演録音
ポイント:タブラとの対話が豊かな盤は、リズムとメロディのインタープレイが明瞭で、ヴィラヤトのフレーズの“呼吸”が際立つ。
4. アーカイブ/レア音源(研究・コレクター向け)
All India Radio(AIR)録音や初期LPの再発盤
ポイント:初期の録音は演奏スタイルの原点が見える一方、音質は年代によりばらつきがある。歴史的価値が高い。
各盤を聴くときの「聴きどころ」ガイド
- 導入部(Alap):声楽的なフレージング、音を“歌う”ための微小なスライド(meend)や息づかいのような表現に注目する。
- 中盤の展開(Jor / Jhala):テンポや密度が上がる箇所での右手のストローク(mizrab)のコントロールと、左手の滑らかな音程移動を比較する。
- ガット(Gat)とタブラとの対話:タブラとの掛け合いでヴィラヤトがどのようにテーマを再提示・変奏するかを追う。リズムの余白の使い方が重要。
- 音色の変化:フレーズごとのニュアンス(指の位置・力加減による音色の違い)を注意深く聴くと、彼の表現技法が理解しやすい。
購入・入手のヒント(どのリイシューを選ぶか)
- 同じ演奏が複数のコンパイルや再発で流通していることが多い。収録ラガと伴奏者、録音年(分かれば)を確認してオリジナル音源に近い盤を選ぶとよい。
- 公式リリース(EMI / HMV / major labels)と非公式アーカイブ(放送録音の再発等)が混在するため、解説(ライナーノーツ)やクレジットをチェックする。
- 初めてなら「代表曲を1枚でまとめた良質なコンピレーション」→ 気に入れば個々の長尺ラガ録音を追う、という順序が手堅い。
聴き手への提案 — どう“深掘り”するか
- 同じラガのヴィラヤト盤と別流派(例:ラヴィ・シャンカール等)を比較して、ガヤキー表現やアプローチの違いを聴き分ける。
- ライブでの即興的な選択を味わうために、ライヴ録音を対照的に聴く。意外なフレーズや拡張が見つかる。
- 伴奏タブラ奏者のソロや応答も注目ポイント。フレーズの区切り方やリズムの掛け合いで演奏全体の性格が変わる。
参考:ヴィラヤト・カーンを理解するための背景知識
- イムダードカーン(Etawah)派の伝統と、声楽(khayal)を模した演奏法の系譜。
- 20世紀インド古典音楽の近代化と国際化の流れの中での彼の立ち位置(欧米公演や録音を通した普及)。
- 家族・門下(息子らも音楽家)とインド国内での評価・論争(伝統派と革新派の間での議論など)。
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レコード入手の際には、オリジナルLPや良好な再発を扱う専門店やオンラインショップ(例:中古専門店、専門リイシュー業者)をチェックすると探しやすいです。国内外で流通している盤種(オリジナルプレス/再発/コンピレーション)を比較して購入を検討してください。
参考文献
- Vilayat Khan — Wikipedia
- Vilayat Khan — AllMusic
- Ustad Vilayat Khan obituary — The Guardian
- Vilayat Khan, 76, Indian Sitar Player — The New York Times
- Ustad Vilayat Khan — Discogs(ディスコグラフィ)


