ニキール・バナージェの魅力と聴き方ガイド|ヒンドゥスターニー古典音楽のシタール名手

プロフィール:ニキール・バナージェ(Nikhil Banerjee)とは

ニキール・バナージェ(Nikhil Banerjee、1931年生–1986年没)は、20世紀のヒンドゥスターニー古典音楽を代表するシタール奏者の一人です。西ベンガル(カルカッタ)出身で、名門のマイハール流派(Maihar gharana)に属し、ウスタード・アラウディン・カーン(Allauddin Khan)に師事しました。同門にはラヴィ・シャンカールやアリ・アクバル・カーンといった巨匠もおり、ニキールはその系譜の中でも特に「深い精神性」と「音の純度」で高く評価されています。

音楽的魅力の全体像

ニキール・バナージェの魅力は大きく次の点に集約できます。

  • 深遠で瞑想的なアーラープ(導入部):非常に遅めのテンポで音をじっくり伸ばし、ラガ(旋法)の核心を少しずつ明かしていく。聴き手が音の一つ一つの余韻に浸れるような空気感を作ります。
  • 音色の純粋さ(トーン・コントロール):弦の振動、ミズラーブ(親指の爪で弾くテクニック)や指使いの精度により、クリアで息の長いサウンドを生み出します。これが「歌うような」演奏(gayaki ang)を可能にしています。
  • 表現の内省性(bhava):華やかな速弾きや技巧的見せ場に走らず、感情の深みやラガの気分(rasa)を重視するため、聞き手に静かな感動を与えます。
  • 構築の堅実さ:アーラープ→ジョール→ガット(打拍子とともに進む部分)という古典的な流れを丁寧に踏襲しながらも、会話的な即興(インタープレイ)で独自の流れを作ります。

演奏技術とスタイルの深掘り

  • ガム(gamak)やミーンド(meend:スライド)を駆使した表現:半音・微分音の扱いが自然で、声楽のようなニュアンスをシタールに移植する力に優れています。
  • テンポ管理と時間感覚:非常にゆっくりとしたヴィランビット(遅いテンポ)から始め、徐々にテンポと緊張感を高める構築力が巧みで、時間の経過そのものがドラマになります。
  • 共鳴弦(シタールのサランギ弦やシタール固有の共鳴)を活かした豊かな残響:倍音が巧みに使われ、単音でも音の輪郭と背景音の両方を聞かせます。
  • 伴奏との対話(タブラとのインタープレイ):ニキールはタブラ奏者とのやり取りで、リズムの重心をずらしたり、余白を活かした間を多用することで音楽的緊張を生みます。

聴き方のコツ — ニキール演奏を深く味わうために

  • 最初から「結論(速弾きや見せ場)」を期待しない:彼の魅力は展開の過程にあるので、ゆっくりとした導入(アーラープ)をじっくり聴くこと。
  • 音の輪郭と残響に注目する:一つの音が消えた後も残る倍音や共鳴が次の音へどう橋渡しするかを聴いてみてください。
  • 歌心(gayaki)を追う:フレーズの語尾の処理やビブラート、ミーンドの使い方に声楽的な表現が現れます。その「歌う」ニュアンスを探すと深まります。
  • リズムの余白を楽しむ:タブラとの掛け合いで生まれる「間」や、リズムのずらしが作る意外性に耳を傾けると、演奏の会話性が見えてきます。

代表曲・名盤(入門と掘り下げにおすすめの演目)

ニキール・バナージェは多くの録音を残しています。以下は「彼らしさ」を感じやすいラガ(演目)や、探しやすい録音テーマの例です。まずはこれらのラガやライブ録音を聴いてみることをおすすめします。

  • ラガ・ヤーマン(Yaman):夜・宵の落ち着いた雰囲気を持つラガで、ニキールの歌心がよく現れます。
  • ラガ・ダルバリ・カナダ(Darbari Kanada):深い憂愁と重みのあるラガ。じっくりしたアーラープが聴きどころです。
  • ラガ・ビマパラシ(Bhimpalasi)やラガ・トーディ(Todi):感情の幅と細やかな音使いが堪能できるラガ群。
  • ライブ録音:コンサート形式のライブ録音は、即興の流れや演奏者同士の対話が活きており、スタジオ録音とは異なる興奮があります。

詳しいディスコグラフィーや入手しやすいコンピレーションについては、下の参考文献(リンク)からディスク情報をたどると探しやすいです。

影響とレガシー

ニキール・バナージェは同時代の名手たちに比べると派手さは抑えめでしたが、その内面的な深さと音の美しさは多くの聴衆や後進の演奏家に強い影響を与えました。マイハール流派の一員として、彼の録音はシタール奏法やラガ解釈の教材としても高く評価されています。また、欧米や日本を含む海外ツアーを通じて西側の聴衆にも広く知られるようになり、ヒンドゥスターニー古典音楽の理解を深める役割を果たしました。

まとめ:ニキール・バナージェを聴く価値

技術的な精緻さだけでなく、「音に内包される情感」を聞き取ることができる希有な奏者です。初めて聴く人には「遅い」「静か」と感じられるかもしれませんが、そこには時間とともに響き、心に残る表現が満ちています。ゆったりした時間をとって、ヘッドホンや静かな環境で一音一音に耳を傾けてみてください。演奏の奥行きと彼独自の美学が、必ず深い印象を残すはずです。

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参考文献