ロバート・ワイアット入門:初心者にも響く必聴レコードと聴き方ガイド
ロバート・ワイアット入門 — おすすめレコード深掘りコラム
ロバート・ワイアット(Robert Wyatt)は、1960〜70年代のクラウト/ロック/ジャズ寄りの実験音楽シーンを起点に、独自のポップ/ジャズ感覚と内省的な歌詞を融合させた稀有なアーティストです。Soft Machine の創設メンバーとしての活動から、1973年の事故による車椅子生活を経て生まれたソロの名盤群まで、音楽的・人間的な厚みが魅力です。ここでは「初めて聴く人にも、すでにファンの人にも響く」おすすめレコードをピックアップし、曲の聴きどころや背景、作品ごとの位置づけを詳しく解説します。
聴く前の背景メモ(短く)
- 1960年代末〜70年代前半:サイケ/ジャズ・ロック寄りの実験的な活動(Soft Machine、Matching Mole)
- 1973年:転落事故で下半身不随に。その後のソロ作品で音楽性が大きく深化
- 以降:内省的かつユーモラス、政治的メッセージも含む作品群を断続的に発表
- 作詞やアート面で夫人のアルフレダ・ベンジ(Alfie/Alfreda Benge)とも深く協働
必聴盤 1 — Rock Bottom (1974)
ロバート・ワイアットを語る上で外せない代表作。事故後の孤独と再起、夢と現実の境を描いた傑作で、メロディの完成度と不思議な浮遊感/即興性が同居しています。
- 代表曲・聴きどころ:Sea Song(静謐さと感情の振幅)、Alifib(実験的なパート)
- このアルバムの魅力:即興的だが緻密に構成されたアレンジ、透明な歌声、楽器の隙間から滲むユーモアと不安
- おすすめの聴き方:最初は通しで一種の「物語」を味わい、2〜3回目で各曲の細部(ブラス、ハーモニー、間の取り方)を確認
必聴盤 2 — Ruth Is Stranger Than Richard? (1975)
Rock Bottom の直後に出た作品で、より「バンド的」な色合いが強くなっています。ポップ性と実験性のバランスが良好で、メンバーやゲストの掛け合いも楽しい一枚。
- 代表曲・聴きどころ:ポップ寄りから実験的トラックまで幅広く、曲ごとに音色や編成が変化する点に注目
- このアルバムの魅力:前作の内省を受けつつ、他の楽器やプレイヤーとの対話が強調されるアンサンブル感
- おすすめの聴き方:曲ごとの編成差を意識して、どの楽器が「主張」しているかを追うと発見がある
要チェック — The End of an Ear (1970)
ソロ初期のインストゥルメンタル寄り作品。ポップな歌ものとは違う、即興ジャズや実験音楽への傾倒が色濃く出ている作品です。Soft Machine 時代の延長線上にある一枚として楽しめます。
- 代表的ポイント:ボイスをあえて敬遠したインスト編成、即興性の強い演奏
- このアルバムの魅力:ワイアットの音響的センスと、聴き手に余白を残す構成
関連バンド作品 — Matching Mole (1972) と Soft Machine の初期作
ワイアットの音楽史を理解するには、彼が在籍したバンド作品にも触れておくと良いです。Soft Machine の初期(クラシック期)や、彼が中心となった Matching Mole は、ロック/ジャズの実験を担っていました。
- 代表的作品:Soft Machine(初期作)/Matching Mole(セルフタイトルの1st)
- 聴きどころ:長尺の即興パート、ジャズとロックの境界を行き来する演奏
1980年代〜90年代の重要作 — Nothing Can Stop Us(代表的シングル/カバー群)・Old Rottenhat(1985)・Dondestan(1991)
80年代はカバー作品や政治的メッセージを含む作品を発表した時期です。特に「Shipbuilding」(エルヴィス・コステロ作)をワイアットが歌ったヴァージョンは広く知られています。Old Rottenhat は政治的なテーマを前面に出した作品、Dondestan は90年代の復活作としての位置づけがあります。
- Shipbuilding(ワイアット版):政治的文脈と繊細な歌唱が印象的
- Old Rottenhat:直截的な歌詞と簡素な伴奏で政治的・社会的メッセージを伝える
- Dondestan:90年代に向けた成熟したソングライティングと内省
90年代後半の名作 — Shleep (1997)
長い沈黙の後に発表された“復活”作とも言えるアルバムで、深い歌心と洗練されたアレンジが魅力。過去の実験性と成熟したポップ・センスが融合しています。
- 代表曲・聴きどころ:メロディの美しさ、曲間の静寂と密度のコントラスト
- このアルバムの魅力:コラボレーションや多彩な音色の使い方が非常に充実している点
- おすすめの聴き方:歌詞に寄り添いつつ、背後のアンサンブル(パーカッションや管楽器)を丁寧に聴く
近年の作品 — Comicopera (2007)
二部構成の長尺作で、物語性の強い内容と即興的な瞬間が混在する作品。独自のユーモアと諧謔があり、人生経験の厚みが歌に反映されています。
- 聴きどころ:物語的構成、複数の短編的楽曲が積み重なる作風
- おすすめの聴き方:通して一つの劇を見るように聴くと、各トラックの役割が見えてくる
「どれから聴く?」初心者向けの導線
- まずは「Rock Bottom」:ワイアットの世界観の核心がわかる
- ポップ寄りが好みなら「Ruth Is Stranger Than Richard?」や「Shleep」
- 実験寄り/ジャズ寄りを楽しみたいなら「The End of an Ear」や初期の Soft Machine/Matching Mole
- 政治的メッセージに関心があるなら「Old Rottenhat」や「Shipbuilding」を含む80年代音源
聴きどころの共通点(ワイアットの“耳”を育てるポイント)
- 声のニュアンス:彼の声は装飾的ではなく、語るように進む。息遣いや間に注意すると表情がわかる
- 楽器間の「余白」:アレンジは詰め込みすぎない。隙間に入る音が重要な情報を持つ
- ユーモアとシリアスの同居:一見軽いフレーズが深い意味を含むことが多い
- 歌詞の文脈:政治的/個人的な文脈が混在するため、歌詞を追いながら聴くと二重の楽しみがある
レコード購入・セレクトのコツ(音質・版別の選び方)
- 初回プレスや良好なリマスター盤を狙うと、ワイアットのボーカルの繊細さがより鮮明に聴こえる
- ライナーやブックレット、歌詞カードが付く盤は背景情報を得られて楽しみが深まる
- リイシューでは曲順やボーナス音源が付くことがあるので、目的(原盤の雰囲気重視か、レア音源重視か)を明確に
最後に:ロバート・ワイアットの魅力とは
技巧的でありながらも決して技巧に酔わない歌心。政治的・社会的な視点を持ちながらも個人的な感情を閉じ込めない素直さ。即興と構築のバランス。ワイアットのディスクを通して聴くと、音楽が個人の生き方や時代とどのように関わるかが自然に伝わってきます。まずは一枚、じっくり向き合ってみてください。
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参考文献
- Robert Wyatt - Wikipedia (English)
- Rock Bottom (album) - Wikipedia (English)
- Ruth Is Stranger Than Richard? - Wikipedia (English)
- The End of an Ear - Wikipedia (English)
- Matching Mole (album) - Wikipedia (English)
- Shleep - Wikipedia (English)
- Comicopera - Wikipedia (English)
- Robert Wyatt - AllMusic
- Robert Wyatt - Discogs


