ピンヘッダの基礎と設計・選定ポイント徹底ガイド:種類・ピッチ・材質・実装方法を詳解
ピンヘッダとは
ピンヘッダ(pin header)は、基板(プリント基板:PCB)上に実装して外部機器や配線と接続するための汎用的なコネクタです。一般的には金属ピンが直列に並んだ列状の部品で、ジャンパーワイヤ、ソケット、ケーブル用ハウジング、その他の基板対基板コネクタと組み合わせて使用します。電子工作から産業機器、組み込み機器まで広く使われ、特に2.54mm(0.1インチ)ピッチのタイプは電子工作やプロトタイプで標準的に用いられています。
ピンヘッダの主な種類
- 形状(列構成)
- シングル(1列):1列にピンが並ぶシンプルなタイプ。
- デュアル(2列、スタッガ/ストレート):基板間コネクションやGPIOなどでよく使われる。
- 多列(メザニンヘッダ等):基板対基板接続や高密度用途。
- 取付方向
- 垂直(直立)ピンヘッダ:ピンが基板に対して垂直に立つ。
- 横向き(直角)ピンヘッダ:ピンが基板面と直角方向に折れ曲がっている。ケース内部の配線や横方向接続に便利。
- 取付方式 / 実装方式
- スルーホール(Through-hole):ピンが基板の穴を通してはんだ付けされる。機械的強度が高い。
- 表面実装(SMT):リフローではんだ付けされるタイプ。自動実装ラインに対応。
- プレスフィット(Press-fit):基板の金属スリーブに圧入して導通させる方式。はんだ不要で振動環境に強い。
- 機能・形態
- スタッカブル/スタッキングヘッダ:基板を上下に積み重ねるための長ピン。
- シャルド(箱型)ヘッダ(Shrouded / Box header):外周にプラスチックカバーがあり、差し込み方向の誤接続を防ぐ。
- ロック付き/ラッチ付きコネクタ:抜け止め機構があるもの。
- 性別
- オス(Male/ピンヘッダ):露出したピン。
- メス(Female/ソケットヘッダ):ピンを受けるソケット側。いわゆる「ボックスヘッダ」や「ソケット」を含む。
ピッチ(ピン間隔)と寸法
ピンヘッダのピッチ(ピン中心間距離)は設計で最重要の項目です。代表的なピッチは以下の通りです。
- 2.54mm(0.1インチ):最も一般的。ArduinoやRaspberry PiのGPIO、ジャンパーワイヤ対応など電子工作で標準。
- 2.0mm:小型機器で使われることが多い。
- 1.27mm(50mil):高密度な基板対基板接続など。
- 1.0mm以下:超高密度用途、ただし実装・はんだ付けが難しい。
ピッチが小さくなるほど配線密度は上がりますが、製造コスト、ハンダブリッジのリスク、機械的強度・挿抜寿命などの課題も増えます。設計時は使用するケーブル・コネクタ・外形や挿抜作業性を考慮してピッチを選ぶ必要があります。
材質・めっき・電気的・機械的特性
- 導体材料:一般的には真鍮(Brass)やリン青銅(Phosphor bronze)などが使用されます。リン青銅はばね性に優れるため接触部材に好まれます。
- めっき:はんだ耐性・耐食性・接触抵抗を改善するため、ピンにはスズ(Tin)めっき、金(Gold)めっきなどが用いられます。金めっきは接触抵抗が低く挿抜寿命に優れる(高価)。スズめっきはコスト優先で一般的。
- 電流容量:ピンの太さ・材質・接触設計・めっきによって異なりますが、2.54mmクラスの標準的な汎用ヘッダでは概ね1A前後〜3A程度が多いとされます(※用途・仕様により大きく変わるため、選定時はメーカーのデータシートで定格を確認してください)。
- 挿抜寿命:金めっきタイプは数千サイクルの耐久性があるものもある。一方、スズめっきは数百〜千程度のことが多い。
実装方法とハンダ・実装上の注意点
- スルーホール実装:
- 波はんだや手はんだでの実装が一般的。はんだ量は機械的強度と電気特性の両方に影響するため、メーカー推奨のランドパターン・穴径を守る。
- 穴径はピン径より適切に大きくする(たとえば0.64mmピンなら穴径0.9mm前後を目安にすることが多いが、正確にはデータシート参照)。
- 表面実装(SMT):
- リフロー工程に対応しためっきと紛れのないはんだペースト設計が必要。長いピンや高さのあるヘッダはリフローでの安定性が課題となるため、バックサポートやフロー設計に注意。
- プレスフィット:
- はんだを使わず金属突起の弾性で接触するため、はんだ工程を省略できる。穴のメッキやスリーブ形状が重要で、基板への圧入力や抜け荷重、耐振動性を確認する。
- リフローやはんだ付け温度:はんだ工程に晒されるため、プラスチック部分の耐熱温度(ガラス転移温度)やピンめっきの耐熱性を確認する。高温で変形したり、めっきが劣化すると接触不良を招く。
設計上の注意点(PCB設計の観点)
- 必ず採用するピンヘッダのメーカー提供のランドパターン/フットプリントを使用する。ピッチ・穴径・ペーストマーキング・クリアランスなどはデータシート依存。
- シャーシやケースに組み込む場合、ピンヘッダの高さや右角・直角の方向が干渉しないように3Dモデルで確認する。
- 高電流ラインやGNDなどは単一ピンに過度の電流を流さないこと。必要なら複数ピンをパラ接続するか、より大きな電流用コネクタを選ぶ。
- 挿抜作業のしやすさ(工具での抜き差し、手でのアクセス)を考え、ピン間を離すかラッチを採用するなどの工夫をする。
- シルクや基板上のマーキングでピン番号、極性、接続方向を明確にする。ピン番号の割り当ては製品のユーザーガイドに準拠する。
よくある用途と実例
- マイコンボードのGPIO(例:Raspberry Pi の 2x20 40ピン 2.54mm ヘッダ)
- センサやモジュールの接続(モジュール側にピンヘッダ、ケーブル側にDuPontハウジング)
- 基板間接続(メザニンコネクタやスタック型ヘッダ)
- プログラミング/デバッグ用のシリアルヘッダ(UART, SPI, I2C 等)
- 電源供給や外部入出力の単純なインターフェース
選定時のポイント(チェックリスト)
- 必要なピッチ(例:2.54mm, 2.0mm, 1.27mm)とピン数
- 垂直/直角、スルーホール/SMT/プレスフィットなどの実装方式
- 定格電流・導通抵抗・挿抜寿命などの電気的・機械的仕様
- めっき(金/スズ)や材料、耐環境性(耐食・耐薬品性)
- ロックやキーイング(誤挿入防止)が必要かどうか
- コストと入手性(量産ならリーク拡大や代替部品の存在を確認)
- 基板の機械的強度、取り付け時のトルクや振動環境に対する耐性
ピン番号と極性の扱い
デュアル列のヘッダなどでは、ピン番号の付け方を仕様書や図面に明記しておくことが重要です。多くの機器では左上(あるいは特定の角)をピン1として扱い、シルク印刷や切欠きでピン1を示します。シャルドヘッダ(ボックスヘッダ)では差し込み方向にキー(突起)や切欠きがあり、逆挿入を防ぎます。
よくある誤解・注意事項
- 「ピンヘッダ=すべて同じ」は誤り。ピッチ・めっき・実装方式・電流容量などで大きく仕様が異なる。
- ジャンパーワイヤやDuPontハウスで接続する場合、ハウジング側の嵌合精度や配線の太さによって接触不良が起きることがある。
- 高電流用途でピンヘッダを使う際はピン一本に電流を集中させない。規格を必ず確認する。
まとめ
ピンヘッダは電子機器の設計で非常に汎用性が高く、扱いやすいコネクタです。一方でピッチ、材質、めっき、実装方式、電気的定格などの違いにより用途や寿命が大きく変わります。設計段階では必ずメーカーのデータシートと推奨フットプリントを参照し、使用環境(振動・温度・挿抜頻度・電流)を考慮して最適なタイプを選定してください。
参考文献
- Wikipedia: Pin header
- SparkFun: What is a Header?
- TE Connectivity: Headers and Board Connectors
- Molex: PCB Headers (product family)
- Samtec: Pin Headers
- Raspberry Pi: GPIO (example of practical header usage)
- Digi-Key: Connectors Reference (general articles and datasheets)


